あたしの願いが叶うなら

□6話
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6-1

「世界のバカ野郎ッ!!」

怒りの気持ちで叫べば、景色はもう変わっていた。
チクショウっ!!

世界に対して怒るのは虚しい、という考えに切り替えたほうがいいのかも。
疲れるし。

まずは現状把握して、藍染に近づくための策を考えなければ。

「ここどこだろう…」

視界の先にそびえ立つのは大きな門。
左右に伸びる壁は、地平線まで伸びているのではないかと思えるほど果てしなく長い。

「なんかもう、どこに飛ばされても驚かないや…」

短い間に神経が太くなったようだ。
服が死覇装に変わってても少しも驚かない。

「ちょっとあなた!!」
「はっ、へぃっ?!」

驚かないとか言ったけど前言撤回。
女の人に声を掛けられ、あたしは情けない声で返事をしてしまった。
振り向けば、さらにポカンとなってしまう。

「あら!
やっぱり私の思った通りだわ!!」

世界があたしに化けたのかと思ってしまうほど、自分に瓜二つの女の人がそこにいた。
走り寄ってきたかと思えば、あたしの手を握りニッコリと笑う。

「やだぁ! あなた、私とすごいソックリね!
私は嵐山ゆうな。
あなた名前は?」
「え………と、七嵐春瀬です」
「春瀬ね!
聞かない名前だけどまぁいっか!」

同じ顔でも、表情のつくりで別人のようだ。
嵐山さんはあたしの手を離し、両手を合わせてお願いのポーズをとる。

「あなたにお願いがあるの。
私とあなたは同じ顔でしょ?
私の代わりにこの屋敷に行って家庭教師をやってほしいの!!」
「え″?!
いやいやいや!
そんなの無理ですよ家庭教師なんて!!
なに教えるかも分からないのにっ」
「だぁーいじょーぶよ!
だってここ名ばかりの家庭教師だから」

この人顔は同じでも、話し方はまるっきりの別人だ。
甲高い声のギャルみたいな。

「私が来ても完璧無視するのここのガキ。
親の墓石から片時も離れなくて。
朽木家の跡取りってわりには無愛想だし反応も返さない。
家庭教師辞めたいってずっと思ってたぐらいよ」

朽木家の跡取りってことは白哉のことだよね?
それにしてもこの人言いたい放題だな。
嫌悪感をあらわにする嵐山さんは、あたしの好きになれないタイプだった。

「今日で終わりだから一日だけ代わってほしいの。
賃金はあなたがもらっていいから、ね?」

嵐山さんの話す内容が内容だ。
あたしには断る選択肢がなかった。

「…いいよ」
「やった!
ありがとっ」

笑顔でお礼を言うなり、嵐山さんはすぐきびすを返して去っていった。
彼女の変わり身の早さに唖然とする。

でも、まぁいいか。
家庭教師なんて、やりたくない人がやる仕事じゃないし。
これでよかったんだ。

「白哉、大丈夫かな…」

親の墓石っていうのが気がかりだ。
反応しないで無視するのも、喋れる心境じゃないかもしれない。
あたしはすぐに門をくぐった。
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