あたしの願いが叶うなら

□9話
2ページ/6ページ

9-1

「おはよっス!」

まるで昨日何もなかったかのような明るい挨拶に、あたしは言葉なく喜助さんを睨んだ。
途端、慌てたように謝ってくる。

「昨日はすみませんでした!
いやぁちょっと魔がさしちゃって。
昨日のはもちろん嘘っスよ?!」
「嘘じゃないと困ります」

睨んだまま喜助さんと距離を置く。
いい人だと思ってたのにあんな冗談言うなんて。

「ほんっとうにすみませんでした!!
この通り!」

手を合わせて頭を下げる必死な様子を見て、あたしの気持ちは許すほうへと切り替わった。

「…分かりました。
だけどもう昨日みたいなのは止めてくださいね?
心臓に悪いんで」
「えぇ、もちろん。
これ以上はこりごりです」

殴った箇所がよほど痛いのか、喜助さんはお腹を撫でていた。

「そういえば春瀬サン。
今日はいつおでかけで?」
「落ち着いたら行ってきます。
ここの地理も把握したくて」
「なら、ちょうどイイものがあるんスよ」

喜助さんはどこから出したのか、携帯を手に持っていた。
折りたたみ式ではなく、画面が大きくてボタンが小さくて、若干ゴツいタイプの。

「連絡できるものは必要でしょう?
あなたにプレゼントします」

操作したのか、画面がパッと明るくなる。
表示されたのは地図だった。

「ここ、空座町はこれ一台あれば大丈夫。
お好きな施設・場所を登録した後、ナビとして呼び出すことも可能です。
あ、ちなみにこのオレンジのが現在地っスよぉ」

まるで通販番組の司会者みたいだ。
喜助さんの手から受け取った携帯を操作してみる。
メインメニューは全部で5項目。
地図、メール、電話、アドレス帳、設定。
アドレス帳には喜助さんと浦原商店の番号が登録されている。

地図を試しに開いてみた。
オレンジの丸いやつが建物のところで点滅していて、画面には虫眼鏡のマーク。
オレンジのところに虫眼鏡を移動させて決定ボタンを押せば、浦原商店の名前と数字と定点とが書かれていた。

「定点…?」

変わった地図だな。
この数字を何かに使うのかな?

携帯本体には“登録”というボタンがあり、試しに押せば『登録しました』とメッセージが出た。
登録した場所を確認するのは“一覧”のボタンを押せばいいのかな?

「何か分からないところはあります?」
「わっ」

声をかけられ、驚きで携帯を落としそうになる。
喜助さんは苦笑した。

「集中しすぎっスよ」
「ごめんなさい」

地図を終了させ、携帯をポケットにしまった。
喜助さんは指先でつまんだ何かを差し出してくる。

「あと、これも持っていってください」
「これは?」

受け取ったそれは、紅色をした小さなお守りのようなものだった。
表面には何も書いてないけど、神社で売ってるお守りのような形をしてる。

「お守りっス」

なんでこの人はあたしにここまで。
胸がいっぱりになり、熱いものが込み上げる。
嬉しくて言葉が出なかった。

「行ってらっしゃい。
気を付けてくださいね」











次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ