D.Gray-man長編
□第8話 船の襲撃
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皓皓たる月夜の下。
ラビは一人、甲板で物思いに耽ていた。
左手でアレンがいたと思われる場所から拾ってきたトランプを月に翳すようにして見つめる。
――戦争にハマるな――
静かに聞こえる波音を遮るようにブックマンの言葉が頭の中で繰り返される。
――お前はブックマンの継承者であり、それ以外の何者でもない。
いかなる事態(こと)にも傍観者であれと教えたはずだが?――
「味方じゃない…」
――たまたま教団側にいるだけだ――
「記録の為にまぎれ混んでるだけ」
そう教えられた。
味方ではない、仲間ではない……。
自己の感情など…許される立場ではない。
誰が死のうとも、リンがノアになろうとも…
関係ない……。関係っないんだ…
「ブックマンに心はいらねェんさ」
誰に対しても感情的になってはならない……。
そう言い聞かせたはずなのだが、心のどこかで反発する複雑な感情に飲まれてしまった…。
だから…
タッ
後ろに降り立った敵に気付けなかった。
「あ…っ」
突然ミランダがガダッと椅子から立ち上がる。
『?!ミランダ?』
「ど、どうしたであるかミランダ?」
直前までミランダと談話していたリンに続いて、チェスで勝負するクロウリーとブックマンが同時にミランダの方を見る。
ミランダの肩は小さく震えている。
「今…この船のどこかで連続して時間回復(リカバリー)が起きてます」
自分が司る時間の流れが戻るのを感じた。
その場所は…
(甲板…?)
この時間の戻り方は…
「攻撃を受けてます!!」
ドンッという音が船内に響くと同時に船が大きく揺れた。
「わあああああ」
「敵襲…っアクマです!!」
甲板が囂然(ごうぜん)とする中、アクマは静かに佇んでいた。
アクマはまるで一枚の絵を象るように両手の親指と人差し指で長方形を作る。
<題名(タイトル) 「エクソシストの屍」>
その長方形の縁の内に僅かに見える、エクソシストの手。
煙が邪魔して完全に姿が見えないのだ。
アクマは楽しそうに笑いながら完成品の登場を待つ。
―ドンッ―
そんな凄まじい音と共に全身に衝撃が迸しった。
「なっ…?!」
襲撃されたと気付くまでに時間は掛からず、イノセンスを手に取るも発動より第2撃目の方が早かった。
「くっ………」
崩れて来たマスト。
それが俺の居る場所に落ち、下敷きになってしまう。
「題名(タイトル)…"エクソシストの屍"」
そんな声が聞こえた。
それでもミランダのイノセンスのおかげで、一時的にしろ動ける。
「イノセンス発動……劫火灰燼、直火判!!!」
火判を直接アクマへ向け、立ち上がった。
「クソッ…無駄な怪我した」
「題名…」
「!!」
「"何故回復する…??"」
しかし直火判を喰らわせたにも関わらず、アクマは壊れるどころか傷1つ付いていない。
戸惑い動きを止めた俺を、アクマが見逃すはずがなかった。
槌を腕1本で弾く。
その反動で飛ばされた俺の元へアクマは来た。
「題名…"頭部粉砕"」
ヤバ………ッ
反応出来ずにただただ向かってくる拳を見つめる。
こんな所で…死ぬ訳にはいかねぇのに…
アクマの拳を喰らう刹那、視界が黒い針で埋まった。
これは………
案の定それはじじぃのイノセンス。
じじぃはアクマの体を針で埋め尽くすとクロス元帥の情報を聞き出そうとした。
しかし怪しく笑ったアクマはじじぃをくわえ、空高く舞い上がった。
「じじぃ!!伸っ」
それを追い掛けていると、解放されたじじぃが降ってくる。
と同時、誰かが俺の槌を伝ってやって来る小さな振動を捉えた。
「?!」
警戒していると俺の横を摺り抜けたその影。
「船に戻ってラビ」
「リナリー!!」
傷が体に戻り出した…
上空では戦闘をしている音が響く。
状況も分からない上に戦えもしない。
ギリッと奥歯を噛み締めた時、何かがもの凄い速さで海へ落ちた。続いて、リナリーの姿。
「大丈夫だよ、ラビ。私はもう大丈夫、決めたから。
先に行って船を守ってて。それに…リンは今、私のせいで心が壊れかけてるっ。後で必ず追い掛けるわ………」
そう笑ったリナリーに、何も言えなかった。
「ふ…船へ戻…れ…あやつだけじゃない……雲の上…に何体か居る……」
意識を取り戻したじじぃが言った瞬間、雲の隙間から光が見え、それは船への攻撃を開始した。
「くそっ………」
急いで戻ったそこでは、皆が必死で船を、ミランダを、彼女のイノセンスを守ろうとしていた。
それでも手が回りきっていないために刻盤(タイムレコード)にアクマの攻撃が直撃しようとしていた。
「待たせたクロちゃん。火判!!」
済んでの所で攻撃を相殺し、じじぃと共にそこに降り立つ。
「その呼び方は止めろ眼帯」
「すまんなクロウリー」
今は、悩んでいる場合じゃない。
「粉々に破壊してやるさ、アクマ」