短編

□カクシゴトひとつ
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「お誕生日おめでとうございます」



「おおきにやで名前」


カチンとグラスを互いに重ねる。
今日は、真島の誕生日で二人で真島の家でお祝いをしていた。


名前がプレゼントで持ってきたシャンパンを飲みながら祝う。


「でも 真島さんが50代になって
ますます渋みがかかって来たんじゃないですか?よっ!神室町の五十路の狂犬」


「なんやそら」


名前はうふふと笑ってグラスに口につける。


二人は昔からの友達で、男女の仲には一度もなったことが無い。雰囲気もかもしださないが。


「どうりで私も年を取るわけだ」


「確かに 初めて会った時は 可愛らしげもあったが 今はのぉ〜イヒヒヒ」


真島は初めて会った時の名前を思い出す。


あの頃は名前はまだ、泣かず飛ばずのキャバ嬢だったが、真島が気に入り一気に1位になった。


一時は真島の女と周りが思っていたが、本人達はそういうめんどくさい事は無しにして友達として付き合っている。



「なによぉ〜」


ぶーっと口を尖らす名前に笑う真島。


「でも 年食っても私はクラブのママになるのが夢だし いつか叶えるし」


名前は今はキャバ嬢は辞めて、健全な昼の仕事をしている。


お金を貯め、神室町に自分の店を持つのが夢なのだ。


「せやから ワシが出資したろって言うてんのに お前はそういうトコ頑固やからなー」



「なによー 文句あるんですか?」


真島はふっと笑い、名前の頭を撫でながら


「ええんやないか 名前らしゅーて
店が出来たら いの一番に駆けつけたる」


真島は機嫌よく、そう言いながら
そう遠くない未来を考えている。


名前は機嫌よくしている真島を伺いながら、次に話す事を慎重に話しだす。


「とっ 所で真島さん 年食ったおせっかいおばさんからの 質問なんですが…」


「あん? なんやねん」


真島は、視線だけ名前に向ける。


「真島さん 良い人いないんですか?」


真島は、一瞬時が止まり名前から視線をそらし話す。


「…おらんわ そんなヤツ」


ニヤリと真島は笑い名前を見やる。


「お前がそんな事聞くの 珍しいのぉ〜
男でもできたんか?」


「もう茶化さないで下さいよ! それに真島さんも知ってるでしょ? この前別れたばかりって」


名前はまたぷりぷり怒り出す前に真島はすまんすまんと言って酒を飲む。
名前は話を続ける。


「でもね 一応気にするわけですよ私
東城会の幹部の方とこうやって 飲んで
誕生日とか大切な人と過ごすはずでしょ?
お祝いしたいって誘うほうの私もアレだけど…
真島さんも断らないし…なんていうか…
真島さんの恋人作るの邪魔してるの私なんじゃないかって…思って」


名前は、はぁ…っとため息をつく。
真島は盛大に呆れながら口を開く。


「そんなんワシが決めることで 名前が気にすることや無いやないか」


くい気味に名前は声を少し大きく出す。


「私は!」


目線を足元に落とす。


「真島さんには幸せになって欲しくて…
組も もっともっと大きくなって… 
それを支える奥さんはやっぱり必要で…
真島さんは気にするなって言ってくれますが
私と仲良くしていると やっぱり中には誤解している人もいるかもしれない…」


名前は自分と距離をとろうとしていると、感じた真島は


少し目を閉じ、話しだす。



「あんな…ワシ実は 名前に隠し事あんねん」


名前が悩んでいるのに真島は、少し茶化すように話す。


「…今 それ話さなきゃ 駄目ですか?」


「あかんな」



名前は少し引きつりながら、真島の話すことを待つ…事が出来きない



「…あの…このタイミングで話すことなんか私怖いんですけど…」


名前は、真島から少し距離をとるがグイッと真島が近寄ってくる。



「せやで 一番ワシの中でヤバイ 隠し事やわ」



「エー…真島さんって嘘とか嫌いじゃないですか〜」



「嘘と隠し事は一緒ちゃうやろ…これでもな…打ち明けようとずっと思ってたんや…でも
名前と相方で居たいから…言えへんかった」



「は? 何ですかそれ? その事を私に話したら
私との仲が壊れるとでも」


名前は真島の話しに少し不機嫌になり
真島の両頬を軽く抓る。


「私は 真島さんの嘘のつかない所とても好感持ってるし」


真島は自分の両頬を抓っている名前の手に自分の手を重ねる。


「ワシがどんな人間でもか?」


「くどい! 真島さんがどんな人間でも! 
私の大事な人ですよ」


真島はふっと笑う。
何度その言葉を聞いただろうか…


____________大事な人___________


真島は、名前の手をぐっと握る。
真島の顔が少し曇ったと思った名前は抓るのをやめ真島の顔を見る。


「…ずっと 惚れとった 名前の事
ずっと隠しとうそうと思っとった…けど
名前がアイツと別れたって聞いて
泣いとった時 ワシやったら名前の事泣かせへんのにって…女々しいやつやで」


いきなりの真島の告白に名前は目を丸くするばかり、まさか真島が自分に惚れていたなんて思いもしなかった。


「ま…えっ? 本当に?」


真島は眉をへの字になり少し泣きそうな顔になる。


「すまんな… 一生隠し通そうと思ってたんに…こんな事言ったら 名前が余計な気を使うって分かっとった…ワシだけ楽になってしもうたな」


名前はぶんぶんと首を振る。


「せやけど 今日はワシの誕生日やし
許したって…」


そっと真島は、名前を抱きしめる。


「好きや…すま…」


名前はぐっと真島の腕をどけ、片掌で、真島の言葉を止めた。


「名前?」


「謝らないで」


「あ?」


「謝らないで…好きって気持ちは誤ることじゃない…だから謝らないで…真島さん」


名前は、真剣な顔で真島の顔を見る。


「あぁ…」


そうすると二人の力が抜ける。
名前は、ハァーとため息をつく真島の肩に体を預ける。


「…もったいない ほんとバカですね 真島さん こんなドコにでもいる女なんか好きになっちゃって 選り取り見取りなのに」


真島は ニヤと笑い名前の腰に手を回す。


「そうか? ワシ見る目はあるつもりやけど」


「……もっとしっかりした女性で…綺麗で真島さんに相応しい人が居るはずなのに…」


真島はゆっくりと名前をまた抱きしめる。


「名前 それはちゃうで…ワシに相応しい?綺麗で?しっかりした女?そんな出会っても無い女の為にお前がワシから離れようとするなら わしはそんな女疎ましく思うだけや」


「真島さん…」


名前は、その言葉を聞いて鼻がツンとする感覚がする。


瞳に涙が溜まる。
瞬きをすると確実に涙が落ちるだろう。


名前は、その言葉を初めて出会った時から待っていたように感じる。


しかし互いにそんな雰囲気を出そうとしなかったので、今の今まで「その言葉」を言えないでいた。


「名前…キスてええか?」


名前は、ニコリと笑うと、涙が零れた。


「今日は真島さんの誕生日ですよ」


そう言われた真島はにやりと笑い


「せやな ほな遠慮なく」


名前は、近づいてくる真島の首に腕を回す。




Happy Birthday 幸せな1日を
 

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