青春ライン
□第三話
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【資料室】
『コレ、何に使うんやろ…』
「本当だね…」
近くにあった仮面を持って、思わず口から零れてもうた言葉に、
同じように固まっとった真冬が返事を返してきた。
ちなみに持っとるのは、真冬はウサギ、俺はタヌキや。
『…ん?』
しばし真冬と仮面を持って呆れてとると、早坂から何かの紙が落ちてきた。
『早坂ー、何かお前から落ちてきたで…ってこれ…』
「ちょっ!早坂くん!?これって!?」
「あぁ、悪い。落ちたか。」
早坂から落ちてきたのは“果たし状”と書かれた紙。
……果たし状て…また古典的な。
「じゃなくって!!まだケンカすんの!?」
「するに決まってんだろ。」
『いや、決まってはないやろ。』
あっさりと言われた言葉に、思わずツッコんでもうた。
いや、分かってんねん…シリアスってことは。
「いつ!?」
「今日の放課後。」
「今日って…早坂くんはさ、何でケンカなんてすんの?
理由もなく暴れたいんだったらやめなよ。そんな毎日ケンカして、ボロボロになって、いい事なんて一個もないじゃん。」
『……』
真冬のもっともな言葉に、俺は何も言えんかった。
もと、ケンカをしたことがあるからこその重みのある言葉。
でも、俺はケンカをして初めて知ることもあると思っとる。
それを俺は身を持って体験したことやから、尚更や。
自分のどっちつかずのような考えに小さく苦笑いを浮かんだ。
「なぁ、お前らさ。自分で自分が分かんなくなる時ねぇ?」
その時、唐突に早坂は俺らに問いかけた。
……自分が分からんなる時、なあ…
「いや…特には…」
『俺も、ないな…』
「俺さぁ、ケンカしてる時が一番安心するんだ。嫌な事全部忘れられるっつうか。
少なくとも、あの頃の俺じゃないって実感できる。ケンカが心の支えなんだ。」
「……っ」
「だから放っとけよ。」
突っぱねるように言い、去って行った早坂。
その表情は普段とは全然ちゃうくて、どこか忘れることができんかった。
――…あの頃の俺じゃない、ケンカが心の支え…
何か、俺らが知らない、踏み込んではいけない早坂の部分に少し触れたような気がした。
早坂が出て行ってからしばらくして、沈黙を破ったんは真冬やった。
「……ねぇ、陸。」
『……何や?』
「このままじゃ、ダメな気がするんだ…
早坂くんだって、もっと幸せな生活を送ることだって出来るのに…」
『…ああ。』
「なんで私にはコレしかないんだろう…」
言い終わると、真冬は足元のものを拾い、握り締めながら俯いた。
――…はあ、全く…こいつもええ奴やねん。
じめっとした空気をなるべく変えようと、明るい声を出す。
『何言うてんねん、お前は!』
「…え?」
『“コレ”しかない、なんてことはない。真冬には真冬にしかできへんことがちゃんとある。
どんな形であろうと、な。それに…偶然やな?俺の手元にも、こんなもんがあるんや。』
「…!!うんっ」
そう言ってニヤリと笑ってみせた俺の手元を見て、真冬は少し泣きそうな笑顔を浮かべた。
そして、俺らは揃って資料室を飛び出した。
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