BLEACH短編

□色気注意報で通行止め
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僕は…吉良イヅルは…頭一つ飛び抜けた魅力のない人間だと思う。

少なくとも自分ではそうだと断言出来る。

日番谷隊長みたいに鮮やかな戦闘センスがあるわけでもなく、浮竹隊長の様な万人から慕われる器もない。

とにかく、少なくとも人の上に立つカリスマ性みたいなのはないと思う。

副隊長じゃないかと言われるかもしれないが、それは市丸隊長に少し気に入られていて几帳面かつ真面目な性格だからである。





…自己評価なんて当てにならないこともあるけど。









何でそんなことを考えているかって。







遠くの廊下に湧さんが見えた。

きっと今から昼食に向かうのだろう。

近くに他の隊員もいないし昼食を誘うチャンスだと思って話しかけようとしたところ、僕を風のように追い抜いて行く奴がいた。



「湧〜〜!!」


あ、っと思った時にはもう俺を追い抜いて行った阿散井くんは湧さんに飛びついていた。


『怖い怖い!』

あまりの勢いにビビった湧さんが壁の方に逃げると阿散井はその体を閉じ込めてしまう。

「うわっ、これ壁ドンってやつか。」

阿散井くんの両手が湧さんを挟むように壁に置かれ、湧さんは阿散井くんの顔を見上げた。

「おぉ、初めてやった!どうだ?ドキドキするか?」
『恋次が超笑顔だからドキドキしない。』

壁ドンにしては身長差のせいで顔が遠すぎるだろう。

あと阿散井くんは腕も長いから二人の距離も対して近くないし。


「マジかよ!」

不満そうな阿散井くん。


っていうかどうして阿散井くんはここにいるんですか。

君は六番隊ですよね?

隊舎はここから結構離れてますよね?


「じゃあこんな感じか?」

阿散井くんが壁に手をついたまま顔をグッと下げて見上げた湧さんの顔に鼻先を近づけた。

そのままコツンと二人の額がぶつかり合う。


あれはなんとも……いや、やっぱり大きな赤犬が人間に構ってくれと戯れているようにしか見えない。

それは湧さんも同じことのようで。


『恋次可愛い。』

ふふふ、と笑いながら湧さんは阿散井くんの鼻をつついた。

「は?!可愛くねーし!」
『いやいや、もうそれが可愛い。』

あれ、微笑ましくなってきたかもしれない。



…いやいや、止めないと。


そう思った2秒後、僕は唖然として足を止めることとなる。



少し急ぎ足できゃいきゃいと戯れる阿散井くん達に近寄る僕の横を風よりも速く通り過ぎ去るなにか。


それは良く知る…呆れるくらいに良く知る匂い。






「どないしたん?六番隊副隊長さん?」

市丸隊長登場。

何なんですか。

何で現れるんですか。

今までどこにいらっしゃったんですか?!

「うちの子やねん、あんましイジメんといたってくれへん?」
「い、市丸隊長?!すみませんでしたっ!!」

阿散井くんは突然現れたうちの隊長を見て負け犬が如く逃げ出した。

うん、阿散井くん、驚く程負け犬感が溢れていたよ。

全力で逃げて行く阿散井くんの背中をポカンと見つめる湧の次の捕食者は市丸隊長。

思わず突然大虚が現れた時の感覚を思い出した。


「そんで、ドキドキさせればええのん?」


あれ、阿散井くんとのやり取り聞いてたんですか?

ちょっと、それにしても、これはまずいことに…。




僕同様、何かを感じ取ったのか慌てて市丸隊長の射程距離から逃げようとする湧さん。

しかし圧倒的体格差の前には無意味だ。

いくらそこらの女の子よりも非力でない湧さんとはいえ。

いや、そんなこと関係ないかもしれないね。

だって市丸隊長の射程距離は13kmなのだから。

市丸隊長の腕の中で何とか身をよじって壁に向かってピタッと張り付いた湧さんを市丸隊長が抑え込む。

絵面的にこれは…どうなんだろう。

嫌がる湧さんを市丸隊長が後ろから襲ってるようにしか見えないんだけど。


「湧、こっち向いてぇや。」

『せ、生命の危機を感じます…!!』

九尾を持つ狐の妖怪に襲われる彼女は子猫だろうか。


そして背を丸めて背後から湧さんの首元に顔を近づける市丸隊長はどこに向かっているのだろうか。

どうして彼がいつも纏っている飄々とした雰囲気が消え失せているのだろうか。

壁ドン=ドキドキさせる=とにかく襲う、という図式を作り上げたらしい市丸隊長。



僕はドキリとした。

あれは戦いの場で輝かしく陽の光を放つ市丸隊長とは違う。

どこかオスの顔を見せながら迫る市丸隊長に、湧さんも目を見開き顔を引きつらせている。

それは例えば阿近さんのもつどこか性的とも取れる男の色気とは違う、直接的で動物的で生物としての圧倒的な優性さえ感じる。

市丸隊長にはこんな魅力もあったのか。
知らなかった。





ますます、僕には届かない。






だって湧に触れる市丸隊長の指先はいつもの細くて繊細な動きを忘れたかのように大胆に動いているから。






って僕は何を考えているのだろう。





出来るだけ足音を立てて霊圧を出しながら市丸隊長に近づく。

そんなことしなくてもきっと始めから僕がどこにいるかなんて把握しているのだろうけど。





「あの、市丸隊長、交通の邪魔です。」


我ながら間の抜けた言葉だと思った。














(なんやのイヅル…。空気読みいや。)
(いえ、読んだ結果の行動ですけど。それより今までどこにいらっしゃったんですか?)










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何でしょう…うちのサイトの恋次の当て馬率は。
そしてこれもともとハイキューの方で書いてたんですけどまさかの全小説消滅により市丸隊長に書き換えたので後半の失速が。



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