BLEACH短編
□君の体に手が届くから
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君の体に手が届くから
(藍染捕縛後)
真っ暗な闇に背中が見えた
遠く遠く届かないところに
愛する人だと確信が持てた
突然闇が光に変わって彼が
振り返るその先に私は……
「っ…‼‼」
飛び起きると外はまだ暗かった。
ゆっくり深呼吸するとイヅルの部屋の匂いがする。
暗さに目が慣れず何も見えないが、隣に眠るイヅルのあたたかな体温が気持ちを落ち着かせる。
不思議な夢だった。
戦いは長く続いたが、イヅルが死んだ訳でも自分が死んだわけでもない。
夢でも、そしてもちろん現実でも。
でもたまに見る夢はなんとなく、どちらかがいない気がするのだ。
彼を見ている自分がいないのか、自分の見ている彼がもう届かないところにいるのか。
自分が考えていることの意味が分からなくなってきた。
どこからいなくなるのか、どちらがいなくなるのか、何も分からないのに夢を見て明らかに感じるこの喪失感は何なんだろう。
この平和な世界の下で自分は何を考えているのだろう。
何に怯えているのだろう。
理由もなく不安を抱くなんて良い大人が何をしてるんだろう。
『嫌だなぁ。』
「んっ…?」
ため息をつくと、イヅルがもぞもぞと動いた。
『あ、起こした?ごめんね。』
慌ててもう一度ベッドに潜り込んだら、イヅルが抱きしめてくる。
「冷たくなってるよ…。」
死を連想させる表現にドキッとした。
「どうしたの?」
起き抜けの乾いた私の唇にイヅルの長い指が触れた。
本当にどうしちゃったんだろうね。恥ずかしくて言えないよ。
「なんでもないよ、なんでもない。」
そう呟いてもう一度イヅルの胸に顔を埋めれば体を満たす彼の香り。
いつもこの瞬間が1番イヅルを近くに感じることが出来る。
「別に、僕はどこにも行かないよ。」
思わずイヅルの顔を見上げると、まだ覚醒していない少し寝ぼけた彼が優しく微笑んでいた。
「え?なんでそんなこと…。」
突然イヅルがなぜそんなこと言ったのか分からなくて困惑する。
夢への問いの答えなのか。でもイヅルが知ってる訳ない。
「何となくね。言いたくなったのさ。」
いたずらっぽく微笑む彼から目が離せなかった。
「確かに僕らは何度も死にかけたけど、ちゃんと今こうして一緒にいるでしょ?僕が何のために必死で戦って生き残ったと思うんだい?君と一緒に笑って過ごすためだよ。」
涙が出そうになった。
「だから…ねぇ、そんな顔しないでよ湧。」
困ったように笑って私の頬に手を当てるイヅルは凄いと思う。
「ほら、笑って?」
いつも私が1番欲しい言葉をくれる。
「イヅルっ…!」
「笑ってって言ったのに…。」
苦笑交じりのイヅルにしがみつけばあやすように頭を撫でられて。
私は溢れるほどの幸せを零さないように、零さないように、ゆっくりとかみしめた。
「イヅルがいるから私は迷わずに生きていける。」
「僕もだよ。」
二人が笑顔で生きられるように。
今度こそ優しく微笑み合って、もう一度眠りについた。
明日も仕事。
忙しい副隊長さんを寝不足にするわけにはいかないね。
君の体に手が届くから、怖いものなんて何もない。
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