脱出番外編

□1-コートの外、日常
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「湧、痩せたでしょ。1キロ。」

ミニゲーム中に突然リコが言った。

リコの目線はコートだ。

『え…そうなの?1キロとか気づかないよ。』

リコは気づいちゃうんだろうけど。

「冬になって体育のマラソンも始まったんだからちゃんと食べなきゃダメよ。」

はーいと答えておく。

だいたいリコ、今私のこと見てなかったでしょ。


「黒子大丈夫か〜。」

ぶっ倒れそうなコガがもっとぶっ倒れそうな黒子くんの背中に重い一撃を食らわすから黒子くんが沈没した。

『ちょっとコガ何やってんのよ!』
「悪いって〜!力の加減が…。」

コガにデコピンを食らわして黒子くんを回収する。

「すみません…。」

汗を拭って水を飲ませて髪の毛をくしゃりと撫でてやる。

「蘭乃先輩って甘やかし上手ですよね…。」
『何を…いつものことでしょ。』

黒子くんが生気のない目をジットリ向けて来る。

『なんかして欲しいの?』
「いえ、そんな…おこがましい。」
『何でもしてあげるけど。』

軽い気持ちでそう言うと黒子くんは一瞬荒い息を詰めてからこう言った。

「では、キスして下さい。」



『……はぁ?』








「ってあの方なら言うと思うのでそういうことは言わない方が良いと思います。」




あの方とは、花宮のことなのだろうか。




花宮はそんなこと言うのかな。

全然想像出来ないけど。

少なくとも、原の前では何でもするなんて死んでも言っちゃいけない気はするけど。

『花宮ってさ、意外と優しいんだよね。演技なのかな。』
「疑ってるんですか。」
『まぁ、一応ね。だって花宮じゃん。そんなにスッキリ花宮のことを信じられるほど何があったか忘れた訳じゃないし。』


そうですか、と言いながら黒子くんはゴロンと転がって天井を向いた。


火神のダンクが決まる。


「僕の意見ですが、」

黒子くんの目はやっぱり生気がない。

「僕は保健室でB班と合流してからずっと花宮さんと蘭乃先輩と一緒にいましたが、花宮さんはずっと蘭乃先輩を見ていたと思います。それは好きだから見ていた、という理由よりも怪我させたくない、危ない目に遭わせたくないから見張っていた、そんな感じでした。」

私が体育館倉庫に向かった時、すぐに後ろからついて来た。

レベル10のゾンビが現れた時、すぐに盾になろうとした。

こっちの世界に戻って来る時、ずっと腕を掴まれていた。

走れないと思った瞬間、助けられた。

ゲームをクリアした時、夜中に目覚めた時…。


「そういう時の花宮さんの目は真剣だったと思います。今吉さんを置いて一人で帰ったのもすぐに蘭乃先輩の元に帰りたかったから。そんなことをすれば今吉さんに弱味を握れられるのは当たり前です。」
『黒子くん…よく見てるね。』
「高尾くんも見てたと思いますけど。」

へ、とコートから黒子くんに視線を移すと彼は立ち上がった。

「でも僕は花宮さんのことなんてどうでもいい。蘭乃先輩が望む通りになればいいと思っています。」


黒子くんはリコの元へと歩いて行った。

復活したのだろう。


『リコー、ボトル行ってくるね。』
「はーい、ありがと!」



体育館の外に出ると一月の寒い風が吹いていた。




黒子くんって不思議な子だ。




でも取り敢えず、今日だ、これからだ。


後一時間後のことを考えよう。










花宮が誠凛まで迎えに来るとか…ほんとどうしよう。









『…困ったことがあったら今吉さんを頼ろう。』




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