黒バス脱出原稿

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赤司くんと黒子くんが静かに静かに、綱をフェンスに沿って置く。

フェンスのすぐ向こう側には背の低い木がびっしり生えているからゾンビからはなんとか見えないようになっている…と思いたい。

グラウンドの入り口は右端にあって、そこから宮地さんたちは飛び出していく予定だ。

そこに背を屈めた青峰も抜き足差し足近づく。

全長3mくらいの綱を端から黒子くん、赤司くん、青峰が持って、そろりとフェンスの向こう側に落とした。

これで黒子くん青峰はゾンビが赤司に気を取られているうちにフェンスを飛び越え、綱を持ち上げて走り出せばよい。

ほんの小さな音にもひやひやしながら、みんなで倉庫の外でしゃがみ込み、三人を見守っている。

「あ。」

玲央が呟いた。

赤司くんがこっちを見た気がする。

「私もね、原と同じよ。」

玲央が隣にいた私の耳に囁いた。

「うちの王様は征ちゃんなの。だから原の言葉を聞いてちょっと納得して、留まることにしちゃった。」

意外と私のあの考えは間違ってなかったのかもしれない。

赤司くんが突然、フェンスを飛び越えた。

倉庫もグラウンドの右端にあるとは言え、私たちのほうからはゾンビは見えないのでどうなってるかは分からない。

宮地さんが中腰で立ち上がる。

黒子くんと青峰もすぐにフェンスを乗り越え、綱を持って走っていった。

「ゾンビ体勢崩したっ、…行くぞ!!」

宮地さんを先頭に今吉さんや花宮たちが走っていく。

思わず私も立ち上がる。

「湧ダメだって…。」

口ではそう言いながらも和成も立ち上がる。

暗くてよく見えないが、黒子くんらしい水色が一周走っている。

黄瀬くんが彼に飛びついて、綱引きのように激しくその縄を引いている。

青峰は見えないが恐らく黄瀬くんと二人でゾンビを縛り上げようと縄を全力で引いているのだろう。

「黄瀬、もう一周回れ!いけるぞ!」

花宮の声が聞こえる。

ゾンビを二重巻きにする黄瀬くんと青峰。

「殴る蹴るだけじゃいまいち決定打に欠けるみたいね。」

ゾンビの拘束は上手くいっているようだ。

「誰かなんか重いもん持ってこい!!確実に殺せるやつ!!」

花宮の怒声が聞こえた。

すごい物騒なことを叫んでいる。

『何か重いもの?!っていうか切れなくても殺せるもの!』
「倉庫見てくる!」
「ちょ、俺も!」
「重いもの…?!」
「やっぱあのハンマーじゃ無理か!」

森山さんたちが倉庫に駆け込んで行く。








待って、私、どこかで何かを見た。







何か…思い出さなきゃいけないものが…。





「湧ちゃん?おーい…湧ちゃん…?」


固まった私を不審に思った原が話しかけてくるけど、今はそれに構えない。


なんだっけ、ほら、花宮が呼んでる。


あれだよあれ、あの、さっき見た…



「湧ちゃん?…ちょ、ちょっとどうかした?!湧?!」

ガッと肩を掴んできた原を見る。

衝撃で揺れた前髪の隙間から切れ長の目が見えた。

『原、見つけたよ。』
「は?!」

原の手を振り切り、私はグラウンドの入り口へと走る。

「ちょ、待った…!」

最短距離を行くために、グラウンドを斜めに走り鉄棒を潜り抜け、フェンスを乗り越える。

低木を無理矢理かき分けた先、そこにあるのは花壇。いや小さな畑だったのかもしれない。

そこに無造作に置かれた鍬を手に取って確認する。

いける、これだとゾンビの首に刺さる。

それを持って花宮のところへ走る。

「湧ちゃん!!」

フェンスを乗り越えた原が追いかけてくる。

持って走るには鍬はかなり重いけど、足が異様に速く回転した。

「いいか、それ絶対誰かに渡せよ…?!じゃなきゃ俺が殺される!花宮に!」

後ろから原が叫ぶ。分かってるよそんなこと。

校舎に沿って走り、すぐに広場に出た。

『花宮!!』
「湧?!」

花宮が振り返って目を見張らせた。

そのまま、私を止めようと彼が出した腕にぶつかった。

お腹に食い込んだ腕が痛い。

『赤司くんこれで!』
「ああ任せて。」

赤司くんに鍬を渡す。


後ろから飛び込んできた原が私と花宮の前に出た。


胸が痛いほど息が苦しい。


ゾンビから遠ざけようと花宮に抱きしめ、引きずられる。


赤司くんが鍬を振り被る。


氷室くんがゾンビの頭部を掴んでその喉元をさらけ出した。


遠心力と、それから赤司くんの渾身の力が込められて、鍬がゾンビのそこに突き刺さった。


一瞬、静かになった。


駆け寄ってくるコガ達の足音だけ。


青峰と黄瀬くんが綱から手を離した。


氷室くんがゾンビの頭部を離す。


そして、赤司くんの手によって絶命したゾンビが、私たちの目の前から消えていった。


歓声は上がらなかった。


それぞれが空を見上げ、校舎を見上げ、協力しあった仲間たちと視線を合わせ、笑顔でホッと息を吐いた。


全速力で駆け抜けた足がだるい。


疲労が、すごい。




赤司くんが振り返った。



『そう言えばさ、初めて私の目の前でゾンビをやっつけたのも、赤司くんだった。』


「でも今のは、半分は蘭乃さんの力だ。」




花宮の体が離れた。


「おい原ァ、こいつのどこが姫なんだよ。」
「湧ちゃん足速すぎっしょ。」
「つーかお前よく鍬なんか持ってきたな。」
『分かんないけどこの数分だけ神がかってた私。』


「え、これで脱出完了?」

フェンスから身を乗り出したコガが隣の水戸部に尋ねた。

ゾンビは倒したけど、果たしてこれで終わったのだろうか?

この間は赤司くんの家で倒したしゲームクリアの紙もあったから実感があったけど、今回はまだ全員が脱出ゲームの舞台と全く同じところにいる。


「出るぞ、ここから出る。」


肩で息をする宮地さんの言葉に頷いて、目指すのは門の外。


「これで終わりだったらいいのにな。」


和成の言葉に降旗くんがそうだね、と頷いた。





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誰よりも原がかっこいい。焦ってちゃん付けが取れちゃった原もかっこいい。彼は彼なりに湧ちゃんに惚れ込んでるのが伝われば。
さあラスト一話です。
寂しいです。



次のページに校庭から校門あたりの地図載せてます。
下手な図解なので気になる方だけどうぞ。
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