脱出番外編

□二人の日常 garnet
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1.

「湧ってファンデーションしてないよな。」

『ん?してないよ?』

よく俺のベッドにうつ伏せになって枕に顔を突っ込んでいる様子を思い出して聞いてみた。

『してないけど、したらすごい綺麗になるよあれ。』

する必要がなさそうに見えても使うと変わるもんなんだな。

『でもたまにチークはしてる。』

今日はしてないよと言いたいのか、背中に顔をぐりぐり押し付けてくる。

ずいぶん可愛らしい行動をしてくれる。

「甘えたいんだったら前から来いよ。」

『別にそういうことじゃないんだけど。』

打ち込みのバイトしてるからっていつでも止めれるんだから邪魔してきてもいいんだが。

つーかいつでも止めれるようにこのバイト選んだんだけどな。

「ちょっとここ座れよ。」

あぐらをかいた足の上を指差すと、湧は素直に応じた。

「こっち向いて…そう。」

向かい合って座らせると、恥ずかしいのを隠そうとしているか湧は妙に無表情だ。

誤魔化しきれてないところが湧らしい。

「チークどこだ。」

『カバンの中。』

俺の後ろの方にあったカバンをなんとか手繰り寄せる。

湧が取り出したポーチの中にピンクのクリームチークが入っている。

『花宮がするの?』

「してみたくなったんだよ。」

クリームチークをとった指を、湧の頬に滑らせる。

湧は目を細めて俺を見上げて、されるがままになっている。

反対の頬もうっすら染める。

これ、思ってたよりやばい、クるな。

「口紅は?なんか持ってたよな?」

『薄い色のリップしかないよ。』

俺らが知ってるようなスティックの口紅ではなく、ほんのり色づく程度のリップらしい。

「口開いて…。」

『んぅ…。』

湧は元々あまり唇に色がないからこれだけでけっこう変わる。

「ほら、できたぞ。」

『いや、頼んでないけど。』

どうなっているか自分でも分からないからだろうか、困った顔で俺を見上げる湧をまじまじと見つめる。




『あのさ…。』

「ん?」

『花宮すごい顔してるよ。』

自覚はある。

「どんな?」

『…エロい顔してる。』


一瞬で部屋の中の空気が変わった気がした。


「言わなきゃいいこと言うの、ほんと得意だよな。」

『え、なに、どういうこと。』

ほんとこいつ面白い、可愛い。

しっかりしてるように見えて、実際誰もがしっかりしていると思っている彼女の、どこか抜けている瞬間がとてつもなく可愛い。


「キスしていいか?」

『リップつけたのにもう汚すの?』


だから。


汚すっていうなよ。


興奮するだろうが。


俺は返事もせずに、湧の唇にかぶりついた。



『はなみ、ゃ…んっ…!』

「んっ…ん…。」


ごめん、好きだ。

めちゃくちゃにするのも、何もかも。



「っ…はぁっ…ふはっ、なんも残ってねーな。」

『この、バカ花宮…。』


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