脱出番外編

□二人の日常 sapphire
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1.


パソコンで何かを見ていた湧が唸り声をあげた。

「どうした?」

読んでいた本を閉じて湧の後ろから画面を見る。

『このお店、ケーキすごく美味しいんだって。今日友達に聞いたの。』

「どこにあるんだ?」

『ここから電車で15分くらい。乗り換えなくても大丈夫だし近いね。』

「行くか?」

『花宮甘いもの好きだっけ。』

「別に絶対ケーキ食わなきゃいけないわけじゃねぇだろ。」

見たところサンドウイッチ系もあるし、別にコーヒーだけ飲むってのもありだろ。

『それもそうだね。』

「行くか。」

『今から?』

パソコンを見ていた湧が俺を振り返る。

後ろから覗き込んでるから、意外と近いところに顔があって少し退け反られた。

「暇だしいいだろ。時間的にもな。」

そう言って、遠のいた顔を追いかけて唇にキスをすると、湧は恥ずかしそうに笑った。






駅からは10分ほど歩いたが、真夏でもない限りなんてことはない距離だ。

『わ、すごい…。』

扉を開けて入ると、俺の後ろから首を出した湧が声を上げた。

いつもは大人しく後ろから入ってくるのに待ちきれなかったらしい。

ショーケースに20種類くらいのケーキが並んでいるがケーキ屋さんというよりはカフェのような雰囲気。

席に通されてメニューを見る。

ケーキ一つ一つの写真と解説がしっかり書かれてある。

『うわぁ…悩む…。』

「俺もケーキ食おうかな。」

『食べよう!』

分かりやすくテンションの上がっている湧が可愛い。

『ベリーのタルトか…ショートケーキも好きだな。あ、苺のレアチーズケーキだって、レアチーズケーキってあんまり食べたことないなぁ。ピスタチオショコラも絶対美味しいよね。』

どうやら反応したケーキを見るとあまりフルーツがたくさん乗っていそうなものは選ばないらしい。

湧は大きな目を輝かせてメニューをめくっている。

「俺ティラミス。」

『速い。ベリータルトか苺のレアチーズケーキかなぁ…レアチーズケーキ私好きなのか分からないんだよね。でもショートケーキも気になる…これ実物見てみないと分かんない。』

「行ってこいよ。」

ショーケースを促すと、元気に立ち上がってケーキの前に立った。

何かを選ぶのにあまり悩まないタイプで決断力もある方なのだが甘いものは別なのだろうか。

甘いものが好きなイメージはそこまでなかったのだが。

『ショートケーキが思ってたより大きかった。でもレアチーズケーキは下の層だけで上は生クリームっぽかったしこっちにしようかな。』

嬉しそうに報告してくる。

「じゃあレアチーズケーキにしてみろよ。」

『うん、そうする。こんな優柔不断な感じじゃないんだけどな。』

店員に頼む時はよく私のも言ってねと言われるから、いつの間にか頼むのは俺の役目になっている。

「甘いもの好きなんだな。」

『うーん、そこまでだよ?でもコンビニで売ってるお菓子とかじゃなくて、こういうちゃんとしたものはすごく嬉しくなっちゃう。』

並んでるのを持ってくるだけだからケーキはすぐに出てくる。

『すごい…綺麗…。一応写真撮っておこ。』

まず携帯でケーキの写真を撮るらしい。

俺も携帯を出してカメラを起動した。

湧は俺の様子には全く気づかずにケーキを一口食べた。

まさに満開の笑顔。

その瞬間、俺はシャッターを押した。


パシャリと音が鳴って、驚いた湧とばちりと目が合う。


いわゆるアーモンド型と言われる綺麗な形の目が俺のカメラを捉える。

やっぱこいつ、高尾に似てるよな。

特に目元が、ちょっとつり目。


『な、なに撮ったの…。』

「良い顔してるから大丈夫だ。」

『いや、大丈夫かどうかは私が決めるんだけど…いいよ、さっきの花宮の手も写った写真SNSにあげてやるんだから。』

いや、それ俺に不利なことはないぞ。

おいしそうにケーキを食べている湧を見ながら俺もティラミスを食べる。

チーズっぽさはしっかりあるが、軽くて美味しい。

『なんか幸せだね…。』

「そうだな。」

普段見られない湧の表情を見られたことは大きな収穫だ。

『また来ようね。』

「ああ、他のも食べてみたいしな。」


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