海賊パロ原稿

□キスで3題
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@高尾和成

昼飯前の戦闘は、なぜか味方がすんげえ少なかった。

そりゃあ呆れ返るほどに。

つーか俺らの船が仕掛けられてる側なんだけど。

なんでみんな出てきてくんないの?


黛さんはめんどくさい。

赤司は新しい本が読みたい。

青峰は不寝番の後だから寝たい。

実渕さんは汚れたくない。

紫原と今吉さんは朝飯中。

まあコガさんと水戸部さんが昼飯作ってる途中だからってのは仕方ないわ。

あとキャプテンがいないのはいつも通り。



人が集まらないことに気がついた笠松さんが大きなため息を一つついたあとに叫んだ。

「おい、原ァ!」
「へ?」
「湧呼んでこい!!!」
「マジ?つーか俺?黄瀬は?」

黄瀬はちゃんと参加してるぜ。

太陽が昇ってまだ5時間も経ってない。

湧は爆睡中だろ。

能力者は真ちゃんと黄瀬と火神だけか。

まあ余裕だな。

数が少ないのは問題だけど。

「遠距離からは俺だけでいいから高尾は前線に出て。」
「りょーかいっ!」

伊月さんは狙って狙って超遠くの難しい標的を静かに撃ち抜くのが得意。精度勝負。

俺はどっちかってと早撃ちとかそういうの。

あ、でも伊月さんの早撃ちも見たことあるけどあれは惚れるね。


「今日はなるべく汚れないようにするからな!」

俺はピストル二つで前線に舞い降りた。





んで、まあ汚れないとか無理な話で。

「おっかしーな。なんで真ちゃん真っ白なの?」
「ふん、全て吹き飛ばすからなのだよ。」

くっそ能力者は羨ましい。

けど俺は振り返って思わず吹き出した。

「ぶふっ!!湧嘘だろ、ぎゃははは…!」
『うるさい…。』

朝っぱらから無理矢理引っ張り出されてこれかよ。

頭から血でべったり。

原ザキコンビも爆笑してる。

「ちょっとー!そんな格好で昼メシはダメだからな!カズと湧はシャワー浴びて綺麗にしてから!」

コガさんが食堂から甲板に出てきて俺らを見て叫ぶ。

「へいへーい!」

ちなみに湧はすでに眠いのか甲板に座り込んでいる。

血が不快なのか唸りながら。

「ほら立てよ、な?」
「俺が風呂に入れてあげようか?」

宮地さんと氷室さんが宥めすかし…いや、誑かしてんのかな。

「はいはい、湧は俺が連れて行くんで安心してくださいね!」

慌てて湧の腕を取って立たせる。

そんな俺の手も血だらけだから、湧の腕がまた真っ赤になる。

「はよ帰ってくるんやで。」

今吉さんの声は聞こえてないフリをした。




血だらけの湧を引っ張って、血だらけの俺はシャワー室を開けた。

ここはマジで上からヘッドでシャワーを浴びるだけの場所。

カーテンで仕切られたブースが2つ。

ちゃんとした風呂は別のところにある。

赤司が主の医務室にもあるけど。


ブースの一つに靴を脱がせた湧を押し込んだ。

甲板からここまで会話なし。

こりゃダメなやつだな。

仕方なく、いやちょっと役得だなとは思いながら、俺は湧と同じブースに入った。

湧はなんだという目で俺を見てくる。

「いや、一人にしたら動かないっしょ?」

たぶんボーッとお湯浴び続けて最終的に床に座り込んで真ちゃんに怒られるやつ。

もしくは飯係の水戸部に迷惑かけるか。

二人とも服を着たまま、俺は躊躇なくレバーを引いた。

降り注ぐお湯。

一瞬でTシャツは体に張り付いて重くなる。

特にズボンが重たい。

血がちゃんと落ちるように湧の髪に指を通す。

湧の手が俺の頬に触れた。

『高尾もついてる。』

まさか俺の血も洗ってくれるとは思わなくて驚いた。

湧の髪から流れ落ちる赤く染まった液体が、首を伝って鎖骨を通り、胸元に流れ込んでいく。

「湧…。」

呼びかけられたから反応した、それ以上の感情の見つからない目に一生懸命何かを探してしまう。


どうして、悔しい。


首を少し下に曲げたら、俺を見上げる湧の唇に届く。

どうする、やっちゃっていいのか。

やっちまったらこれからどうなんの。

最悪船からつまみ出されるかも。

顔を近づける。

全く変わらない表情。

どっちだよこれ。

どっちだ!!!




やけくそだったかもしれない。

気がついたら自分の唇が湧の唇を覆っていた。

ピクリともしない湧。

お湯の温かさとは違う、人肌の温かさ。

「っ……!」

なんだこれ、知らねぇ。

陸に上がれば俺や原のような口の上手い人間は情報を求めてなんでもしてきた。

きれーなお姉さんとキスだっていっぱいした。

なのに、俺は湧に唇を押し当て、勢いよく体を仰け反らせることしかできなかった。


「い、今の嫌じゃなかった?」
『なんで嫌って思うの?』

もう、こういうとこだよ湧は。

「キス、唇にだぜ?」
『辰也とかキャプテンもしてくれるよ。おでことかだけど。』

うわ、やっぱ氷室さんしてんのかよ。

つーかキャプテン、キャプテンなにしてんの。

でも、と湧が続けた。


『唇は、和成が初めて。』


ハジメテ。


「ぜ、絶対言うなよ!緑間には何があっても言うなよ!!」

思わぬところで湧のファーストキスを奪ってしまったことへの戸惑い。

でも高揚の方が勝ってる。

こんなのバレたら殺されるわ俺。


もうすっかり血の流れ落ちた髪を撫でていると、大変なことに気がついた。


「なぁ、着替えの服持ってきてねぇよな。」

『ないね。』


おっと、こりゃ俺が全部脱いでタオル巻きつけて外に救援を頼むしかない感じだな…?

「ちょっと服取りに行ってくっから待ってろ!」

そう言って俺はブースを出てカーテンを閉め、ふぅっと鋭く息を吐いた。

なんかこのまま出て行ったらバレる気しかしねぇ。

鋭いやつばっかだからこえぇわ。

でも俺の服だってないし、早く外に出なきゃな。

俺は勢いよく服を脱ぎ始めた。

少しでもさっきまでの空気を振り払おうとしながら。




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