海賊パロ原稿
□灰色の襲撃
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陸について火神が急いでいた理由がわかった。
海軍に囲まれとったんか。
しかもご丁寧に巨人まで連れてきたんかいな。
七武海に巨人に、えらい仰々しいやんか。本気や。
見上げた巨人は自分より何倍でかいんか考えるのも嫌になるくらいの背丈。
腰の刀を抜いて構える。こっちも本気や。
「砲撃用意!」
大砲がワシに向いとる。
「撃て!!」
またまた…ワシ相手に通用せんやろ。
「はぁっ…!!!!」
刀を一閃、横に空を切る。
飛ぶ斬撃が海軍の移動式砲台を真っ二つに割る。
「雑魚に用はねぇよ!」
出鼻を挫かれた海軍たちに高尾がライフルでダメ押し。
残るは巨人と灰崎と海軍を連れてきた中将。
「中将行きます!」
走り出したコガに水戸部、日向、木吉を見てそれに続こうとした湧の首根っこを引っ掴む。
確かにあいつらと湧の相性はええけども。
「原!」
「ザキ!」
代わりに原の名を呼ぶと、原は返事の代わりに山崎を呼んだ。
あの6人で中将はいけるな、お釣りが来るくらいや。
巨人にはすでに緑間と宮地が相手しとる。
「クソ、お前何だよ!」
「俺に毒づくなんて10年早い。」
灰崎は赤司で手こずっている。
「ええか湧。灰崎はワシらの転落を狙っとる。ほんとは赤司みたいな大物は狙いたくないねん。囮作戦や。絶対守ったるから安心せえ。」
『何したらいいの…!』
虹村さんに怒られそうな作戦やけどしゃあないやろ。
せやけど失敗したとしても湧を死なさへん自信だけはあるからすまんな。
「口半開きでその辺立っとけ。」
それだけ行って湧を突き飛ばす。
よろめきながら走っていった湧はそのまま赤司を見守るようにポカンと立った。
「いや、3000万の賞金首が戦闘でする顔じゃないだろ。」
諏佐が静かに突っ込む。
そやけど灰崎は上手く引っかかってくれて、湧に向かって飛び出した。
「きたで…!!!」
さっきの飛ぶ斬撃。
それよりももっと攻撃範囲が狭く、そして狭いが故に威力の強いものを湧と灰崎の間に走らせる。
ガキィィンと凄まじい音と共に、灰崎はなんとかワシの斬撃を受け止めた。
さすがに直接斬りかかるのと比べたら威力は落ちるわ。
斬撃を受け止めた灰崎に青峰が突っ込む。
湧は…どこ行ったんや、まあええわ。
灰崎は青峰の襲撃もなんとか飛び退いて、ああでも無理やな。
そんなヨロヨロの体であの人は止められへんで。
青峰から飛び退いた灰崎が着地するかしないかのタイミングで、振動を纏ったキャプテンの拳が灰崎を地面に叩きつけた。
「止めた…!」
すかさず赤司も飛び込んでいく。
それからは、キャプテンと赤司の二人掛かりでなんとか行動不能まで追い込んだ。
赤司が首と胴体を切り離し、胴体を海に投げる。
「海軍は…。」
「取り敢えず追い払いましたけど、ザコいの全然生きてますよ、まだ。」
高尾が手をヒラヒラ振りながら戻ってきた。
「湧は?」
ワシの質問に首をかしげる高尾。
「湧どこだー!」
森山が叫んだ。
嫌な沈黙が続く。
小金井、水戸部が首を振る。
黄瀬、桜井、降旗…他はおるな。
山崎が…あいつ一人か?
「原もいねぇぞ!」
花宮が叫んだ。
「湧!!!原!!!」
キャプテンが吼えた。
近くでパァンと音が鳴って一瞬肝が冷えたが、伊月が残党を撃った音らしい。
『真太郎…!』
声が…どこや…!
声が聞こえたことでホッとした空気が流れた。
「湧!」
周りを見渡したワシらとは違って、一目散に駆けていく緑間。
珍しく、キャプテンも緑間の後を追って走り出した。
「船呼んでくる。」
「俺らは海軍追うぞ、黄瀬!」
「頼んだで。」
森山と実渕が船の回収に、笠松たちは状況把握のために走って行った。
ワシと諏佐はキャプテンの後を追う。
壊れた砲台が折り重なって倒れたところにうずくまっている緑間の背中が見えた。
「緑間!」
「虹村さん!」
「うわっ!」
振り返った緑間の口のあたりが真っ赤な血に塗れていて、さすがのワシも声が出た。
「どうした。」
「原が下敷きに…!」
避ける暇もなかったのか、うつ伏せに倒れ下半身を瓦礫の下に埋めた原にまともな意識はなさそうや。
しかも原は背中に矢が刺さったままやし、原の手を握った湧は肩口から出血しとる。
「抜いて…。」
聞いたこともない、原の弱々しい声がした。
「ダメだ、深く刺さってんだろ。抜いたらどれだけ血が出るか分からねぇ。緑間、湧のは抜いたのか?」
けっこうな量の血が出とる。
早くここから出さんと…
「毒なのだよ…。だから抜いたのだ。」
は?
緑間が口元の血を拭った。
「いくらか吸い出してみたのだが、どれだけ体に回っているか見当もつかない。」
ワシらが言葉を失っている間に赤司がやってきた。
「赤司、はよ…!」
「全員伏せるんだ!」
赤司が二人の上に積み重なった瓦礫をサークルに入れて移動させる。
残りは虹村さんと青峰が持ち上げて、原の体を諏佐と一緒に引き抜いた。
「大丈夫だ原、大したことねぇ。」
「心配してくれてんの…花宮…。」
山崎が原の体を抱きかかえる。
湧はいつも通りどこか無気力な顔でワシの胸に顔を寄せとるけど、震える唇を隠しきれてへん。
「赤司はよ…!」
「だめだ、すぐに解毒剤が作れるわけではない。少なくとも船に戻らなければ。」
『寒い…。』
唐突に呟いた湧の言葉に全員がギョッとした。
赤司が湧の首筋に手を当てた。
眉根を寄せて湧はワシを見上げる。
「湧、しっかりワシの顔見とけ、いいな。寝たあかんで。」
『寝ないよ。』
「お前ら!海軍は必ず解毒剤も一緒に持ってる!探し出せ!」
キャプテンが怒鳴った。
その声量に驚きながらもみんな慌てて散っていく。
キャプテンも湧の頭を撫でてから走って行った。
「矢に塗ってあると言っても量は多くない。吸い出した緑間も元気そうだし恐らく問題ないだろう。」
赤司は海の方を見ながら冷静にそう言った。
少し離れたところでは原が痛みに耐えかねて声を漏らし始めとる。
地面に座り込んで、湧を向かい合わせになるように膝の上に座らせる。
徐に諏佐が服を脱いだ。
「なんや。」
「あいつらが解毒剤を持ってくることを信じて止血しよう。」
そう言って服で湧の肩を縛り始めた。
『諏佐の体あったかい。』
「何言ってんだ。」
大人な諏佐は顔色ひとつ変えずに処置を続ける。
諏佐が肩をがっちり縛り終えて、ワシは湧を抱きしめ直す。
「ワシもあったかいやろ。」
『うん。』
「サンドしてやろうか?」
諏佐が湧の背後からワシごと抱きしめてくる。
「わはは、やめろや。」
「笑うなって傷に響くから。」
口ではそんなこと言いながらも諏佐もちょっと笑ってる。
「クソっ、痛い、も、ムリ、今吉死ね…!」
原の呻き声と花宮の大きなため息が響いた。
この後解毒剤を発見して戻ってきたキャプテンにワシは頭を叩かれて、湧は緑間に解毒剤を注射され事無きを得、原は赤司に解剖されとった。
原が一番かわいそうやったな。
桜井の肩を抱いて乱暴に揺する青峰を見たときは何やっとんのかと焦ったけど、どうやら健闘を称えあっとるらしかった。
桜井はええ子やから懸賞金低いだけや。
懸賞金伸ばすために生きてる奴らもおるけど、ワシは自分の家族には「能ある鷹は爪を隠す」で生きてほしいと思っとる。
灰崎の頭がどうなったんかは知らん。
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