黒バス脱出原稿

□D-4
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目が覚めた。

どういうこと?

どうして私はいつも通り自分の部屋のベッドで目が覚めたの?

起き上がろうとしてとんでもないことに気がついた。

体が動かない。

何がどうなってるの?さっきまでのことは全部私の夢だったの?

あの道の続く平原や森はなんだったの?

どうして体が動かないの?

私、今どうなってるの?

金縛りじゃない、金縛りにはよくなるから知ってるけど、体の感覚はいたって普通なのにピクリとも動く気配がない。

何か危険を感じるわけではないし、一旦落ち着いて考えようと息を吐いた時、階下から声が聞こえた。

「こんちわーっす!」

和成…!

「寝てんの?じゃあ起こしてご飯食べさせとく!オッケー!あ、俺鍵閉めるよ?」

お母さんが仕事に行く時間か、じゃあ今は9時半とかだ。

そりゃ寝てるよ、何もない大学生だもん。

和成は私の家で勉強しようとしてるのか。

約束してなかったはずだけど。

「いってらっしゃい!」

和成がお母さんを見送ったらしい。

階段を上がってくる音がする。

どうなるんだろう、触れられたら起きるのかな。

私は一足早く脱出してしまったのだろうか。

脱落、みたいな感じで。

ノック音もなしに部屋が開く。

寝てると思ってるからだと思うけど。

「湧〜、まだ寝てんの?」

和成が頭の横まで来てしゃがみこむ。

どうなるのこれ、体動かないよ。なのに見えてる。どういうこと。

幽体離脱みたいなことになってるのかな。

「湧、起きな。」

頬を突いてくる和成。感触はある。

「爆睡じゃん…大丈夫かよ。」

和成が心配そうに私の頬に触れた。

「湧、どうしたの?昨日眠れなかった?」

どうしよう、和成ごめん、私起きてるんだけど何も反応できない。

「湧、起きろって。」

和成が顔を覗き込んでくる。

顔がゆっくり近づいてきて、頬が触れ合った。

和成はどこまでなら許されるのかを探っているんじゃないかって時がある、こんな風に。

「……湧?」

和成が肩を掴んで私を揺らした。

かなり強めに揺さぶられる。

普通、これで起きないなんてあり得ない。


これで目を覚まさないのだとしたら、その人はもう死んでる。


「は?嘘だろ、何の冗談?」

口調が強い。本気で焦り始めた。

「おい、湧!起きろって!」

和成が私に馬乗りになって叫ぶ。

ごめん、和成、ほんと…あの、重いんだけど…。

「湧死んでんのか?!」

和成が乱暴に私の首で脈を探そうと手を差し込んでくる。

「あ、生きてる…生きてるよな…救急車…?!」

和成が携帯を掴んで呆然と呟く。

見開かれた青みがかった目。

「なあ、湧マジで起きないのか?ほんとに?俺、え…。」

ボロっと、彼の涙が私の頬に落ちた。

和成はハッとして表情を引き締めた。

「いや待てよ。まさか。そっか、まず花宮さんに相談しよう。」

和成は何かに気がついたらしい。えらい。

だけどそう、真は出ない。

向こうの世界に行ってしまってる。

和成が枕の横にあった私の携帯から真に電話するも、やはり出ない。

「は?花宮さん出ないの?」

真はバイトも自宅でやってるし、基本的に私からの電話には絶対に出る。授業中でも出る勢いだ。

「どうなってんだよ、赤司は部活してっかも…花宮さんのこと、原さん知ってっかな?」

原にかけてももちろん出ない。

「なんか変だよなこれ。」

眉間にギュッと皺を寄せて、和成はすごいスピードで携帯を触っている。

「原さん…昨日朝からカラオケって言ってたのに、音信不通だって…!」

誰かのSNSでの投稿を見つけたんだろう。

和成はすぐに電話をかけ始めた。

「あ、今吉さん!今吉さん!高尾です!今、湧の部屋にいるんすけど、湧何しても起きなくて!死んでるみたいなんすけど全然どこも悪くなさそうだし、花宮さんに電話しても出なくて、原さんも今日集合時間に現れないって言ってる人いて、なんか変なこと起こってるみたいで、え?はい!」

和成が私のカバンを漁り始めた。

「ありました、たぶん、花宮さんの家の鍵っぽい…。」

今吉さん、真の家乗り込むつもりなんだ。

ってことはたぶん何が起こってるのか分かってる。

「分かりました、じゃあ駅で!……はい、分かりました、書いて送ります!」

電話を切って、和成は息を吐いた。

「湧、花宮さんのとこ今吉さん行くって。そんで宮地さんにもこっち来てくれるように頼んでくれるって。原の家は森山さん行くらしいよ、眠ってなかったら。」

私が聞いているとは知らず、和成は話しかけてくる。

「今から他のやつらどうなってるか調べる。今吉さんから連絡きたら駅に向かう。湧は…たぶん強いから大丈夫だよな。」

和成が携帯を触りながらも私の手を握ってくる。

ごめんね、握り返せなくて。

「なあ湧、ほんとにゲームなのか?死なないよな?俺のこと置いてかないよな?」

こんな顔、初めて見た。和成いつもみたいに強気に信じてよ。

でもコートの中でのピンチとはわけが違うか。


その時、唐突に眠気が襲ってきた。

あれ、これ寝ちゃったらどうなるんだろ。

まさか死なないよね、戻るんだよね、真たちのところへ。

抱きついてくる和成を抱き締め返すことができないまま意識が落ちていく。

このままあなたを見守っていたいけど、私も真と原の元へ帰らないと。向こうも大騒ぎだろうから。

「なんか湧に抱き締め返されてる気がする。」

帰ってきたらちゃんと抱きしめ返すからね。



**



『あっ……。』

スッと息を吸う音。綺麗な音だった。

「湧…っ!」

花宮が控えめに叫んだ。

『ごめん、真…あの…ってなんで、服着てないの…?』

おかしい、なんでそんな冷静なの?

さっき怖すぎて意識失った子が目覚めた時の反応じゃないでしょ。

花宮も変な顔してる。

『私何分くらい逝ってた?』
「10分とか?」
「あぁ。」

花宮が頷く。

『大変、向こうの世界も同じように動いてるよ!』
「は?どういうことだよ。」

湧ちゃんの説明によると、意識を失っている間は自分の体に戻っていたらしい。

そこに高尾が来て、湧の異変に気付き、花宮と俺も眠ったままの可能性があることに気づいた。

そして今吉に連絡し、宮地サンと森山サンにも話が伝わったと。



「待って。」

待って待って。

「俺ん家に森山サン来るわけ?」
「いやいやいや、俺ん家に今吉来る方がやべぇだろ。」

湧ちゃんが声を出して笑った。

あー、やっぱ湧ちゃんが元気だと明るくなるね。

「まあこの季節だ、脱水とかになってると洒落にならねぇから気づいてもらってよかったのか。」

脱出したら死んでたとかやばいもんね。

だからってどうやって水分取らせるんだろ。

スポイトとかないだろうし?まさか口移しとかしないよね?花宮死ぬよ?

てか、俺の家どうやって入るんだろ森山さん。

窓開けて寝てた気がするからそっから進入されんのかなー。

起きて一番に森山さんの顔とかあんま嬉しくないね。

うるさそうだし、まあでも嫌悪感はないかも。
ついでに部屋片付けてくんねぇかな。

「さぁ、まずはこっから脱出すんぞ。いいかお前ら、どんな不可解なことが起ころうがここは夢だ。仕方ねぇ。」

うん、と湧ちゃんが頷く。

「原もビビんなよ。」
「いや、花宮もね。」
「湧は怖いと思ったら俺に助けを求めろ、いいな。」
『そうだね。さっき真いること忘れてたと思う。』

ごめんね、と花宮の手を握る湧ちゃん。しっかり握り返す花宮。

はいはい、ラブラブですねー。

「じゃあこっから出るために原ちゃんがとっておきの情報を教えちゃうよん。」


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