うちに帰ろう

□コート上の王様
1ページ/1ページ

*かなり特殊な設定ゆえ大暴走しました。閲覧は自己責任で…。









初春、まだ少し寒いながらも新しい季節の訪れに心躍らせるこの時期に。

11人の男たちが薄暗い部室に集まっていた。







「分かってると思うけど、今年は大きなチャンスだ…僕たちにとっては最後の。」


淡々とした口調で蛍が言う。


「全国、オレンジコートに辿り着けるね。」


猛虎が神妙に頷く。

忠は隣を見るが、飛雄は何を考えているか分からないし、研磨は三角座りをして膝に顔を埋めている。

英は相変わらず無気力な目が何を見ているのかすら分からない。

「お前ら…今年はマジで狙えるんだぞ…。」

そして何故かとっくに卒業した筈の龍之介もいる。
いつものテンションの高さはどこへやら、こちらもかなり神妙な顔だ。

忠は身を縮こまらせた。

ここにいてもいいのか、という思いと、まだこの高校に合格していないのに大丈夫か、という疑問を持ちながら。






つまり、今この男子バレー部の部室には澤村家三年の蛍、飛雄、それから新一年生になる予定、入試が終わったばかりの忠。
黒尾家三年の猛虎、二年の招平、一年の研磨。
及川家三年の勇太郎、一年の英。
木兎家二年の大和、一年の京治。

ちなみに及川家の三男、徹はこの10人をまとめて"新世代"と呼ぶ。



そしてそれから大学二年生、ここの卒業生にして二年前の全国出場時にスタメン入りを果たしていた龍之介。



ちなみに新一年生たちはまだここの高校に合格が決まっていない。

しかし京治、忠、研磨、英は賢い。
例え進学クラスに落ちていたとしても普通科では通っているだろう。

飛雄に言わせれば「一教科名前を書き忘れて0点になったとしても通ってる。俺が通ったんだからな。」である。

ちなみに澤村家、忠の片割れの湧もこの高校を受験している。




というわけで勇太郎は止めたのだが飛雄は無理矢理この四人を今日、ここまで連れて来て、暇だった龍之介もやって来た。

蛍はむちゃくちゃするよね、と言いながらも止めなかった。




こうして11人は集まったのである。






「お前らもよく知っている通り、俺たちは牛若率いる王者白鳥沢を倒し、全国出場を決めた。」

優秀なセッターの徹。
全国三大エースの光太郎。
鉄壁ブロッカーの鉄朗。

この三人はもちろん言うまでもない。
特に光太郎は現在、日本代表も夢ではなく、現実味を帯びてきた。

もちろんその他の選手も凄かった。

リベロには衛輔と夕。
アタッカーにはもちろん龍之介、それから次期エースの期待を背負っていた一。
今の三年は当時一年だったので、飛雄も時たまコートに入り徹とツーセッターで相手を翻弄し、勇太郎も活躍の機会があった。

スタメンが抜けてもほぼ同じ戦力を保つことが出来、また状況に合わせて選手を変えられるベンチの厚さ。







そして今、あの栄光の世代から二年経った。

天才セッターの飛雄が最高学年になった。
それほどバレーが好きではなかった蛍は成長し、鉄朗を超える頭脳と高さを持っている。
光太郎にこそ及ばないが猛虎や勇太郎も全国で通用するスパイカーだ。


今年ならいけるんじゃないか。






忠は考える。

このメンバーで俺はどれだけやっていけるだろうか。

家族の中で、何も取り柄が無くて悩んだ中学時代に知った、ジャンプフローターという武器。

まだ自分のものには出来ていない。

早く試合で使えるようにしなければ。

全国出場というリアルな目標がその気持ちを急かせる。






このメンバーで全国に行く。
誰もがそう思っている。

しかし問題が一つ。




「リベロがいない。」

飛雄が呟いた。

蛍がため息を吐く。

背後にいる夕や衛輔のいる、あの安心感を思い出していた。

しかしこればっかりは話し合ってもどうにもならないことだよね、と蛍は思う。

優秀なリベロが入ってきてくれることを願うか、リベロなしでいくのか…。






「俺、リベロ出来る。」

研磨がハッと顔をあげた。

「レシーブ得意。」

大きなまん丸の目が真っ直ぐ飛雄を見ていた。

「招平……。」

それは黒尾家四男の招平だった。

「ちょ、え、それでいいの?招平はスパイカー辞めてリベロになってもいいの?」

蛍はこんな展開を望んでいた訳ではなかった。

誰かレシーブの得意な人間にリベロを押し付けるという。

しかし招平は言う。

「衛輔と夕さんがいたから考えもしなかったけど、必要ならやる。リベロだってかっこいい。スパイカーに特別思い入れはない。」

招平がこんなにも長く話しているのを見るのは久しぶりで猛虎は目を瞬かせた。

「本当にいいのか?」

飛雄が確認する。

招平はいつも通りの淡白さで頷いた。

一瞬チラリと勇太郎と蛍が顔を見合わすも、招平はこれ以上話すことはない、と言わんばかりに下を向いた。

恐らく前から考えていたのだろう、と研磨は思った。

烏野にリベロがいない問題については、この間ここを卒業したばかりの衛輔がよく話していたので知っていた。

自分がこの高校に入学したら、一年生の自分は黒尾家の一員としてレシーブも比較的上手いのでリベロに回されるのかもしれない、と研磨は考えていたのだ。

ところがここに来て突然の兄のポジション転向。


セッターは、文字通りゲームメイクという言葉が表す通り、ゲームを攻略するのに似ている。

研磨はまだ徹のように選手一人一人の力を最大限に引き出すようなトス回しなんて出来ない。
けれどその知能と分析力で相手チームとの戦いを征し、難関を攻略してゆくのが好きだった。




セッターが好きだった。



リベロに転向しろと言われたらそうするつもりだった。

みんなからの期待や必要を無視してまで自分を押し通すことは研磨には考えられなかったから。



兄は知っていたのだろうか。
兄は自分のことを考えてくれたのだろうか。

それはきっとこれからも分からない。



研磨はジッと飛雄を見つめた。

彼を目指してるわけでも、越えようと思っているわけでもない。

でも、このバレー部に今、君臨する最強のセッター、チームの要。





話し合いは済んだのだろう。

三年生たちが立ち上がった。

そういやマネージャーもいないよな、と愚痴る大和に蛍がそれは大丈夫と返した。

「マネージャーがいるのといないのでは士気が違うぞ!」

清水と同期だった龍之介はマネージャーの恩恵に最も預かった者の一人。

蛍が何を企んでいるのか分からないが、頭の良い兄に任せようと忠は期待する。




鞄を持った飛雄が一番に部室から出て行く。

その去り際に、彼は振り返った。

そして、当然のことを言うかの如く彼は言い放った。




「俺がいればお前らは最強だ。」




忠はポカンと口を開けた。
自分の知っているどの飛雄でもなかった。

一年生達のまん丸な目を見てニヤリと笑い、蛍は小さく呟く。






「さすが、コート上の王様。」






徹でも勝ち得なかった、それは最高の呼び名。



______________________________

やらかした感が凄い。
夕と衛輔のどちらがスタメンかは決めかねたのですが、原作の能力パラメーターを見る限りでは夕なのかな…。
あと二年岩ちゃんと三年田中のスタメン争い。
本当は湧さんをマネとして誘おうぜ、って話になる予定だった。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ