青風と七武海

□ゲーテ格言シリーズA
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*シャボンディ諸島編直前

私は大海原に寝そべっていた。
どうしてこうなったのか。
簡単なことだ。
小舟が海王類によって破壊された。

海王類は何とか斬ったが壊れてしまったものは仕方ない。
膜から膜へ飛び移って移動していたのだが、島に辿り着ける気配もなくやる気をなくしてしまっていた。

シャボンディ諸島に近いと思っていたのに。
どこにあるか分からない島に向かって誰が進めるというのだ。

「早く海軍でも海賊船でも通らないかな。海賊船なら行儀の悪い奴らがいい…。」

船を乗っ取ろうと画策中の私は心置きなく壊滅されられるゲスい海賊船を望んでいた。

しかし願いは届かず、海の向こうの方に見えた船は…

「うわぁ、む、麦わらじゃんか〜…。」

ガープの笑顔を思い出しながら心を決めて、サニー号に向かって進んだ。


サニー号の真下まで辿り着いて考える。
ここをよじ登って船に侵入することは可能だ。
しかし戦意があると誤解されて向かって来られれば面倒だ。
1対1でやられるとは思えないが全員を相手するのはしんどいし、この船の奴らを倒す気はない。
ここは船長と交渉してみよう。
確か好戦的な一味じゃなかったはずだ。

「すいませーーん!!船長さんいませんか?!お話があります!!」

大声で叫んでみれば船べりから顔を出したのは…あれはニコ・ロビンか?

「あの〜…。」
「あらあら、ちょっと待ってね。」
ニコロビンが引っ込んだ。

バタバタと大きな音がして麦わら帽子が顔を出す。

「おぉー!お前どうした?!取り敢えず助けてやる!」
「ちょちょ…ぎゃあ!!」

伸びてきた腕に引き上げられて甲板に叩きつけられそうになったところを何とか受け身を取って凌いだ。

転がった勢いでそのまま立ち上がるとしっかり戦闘体制に入った一味が目に入ってげんなりする。

「ちょっとルフィ!この女の子、何者か分かってんの?!」

オレンジ色の髪の元気そうなお姉さんが青い棒を構えて叫んでいる。

ダメだ、船長がバカだから予定が狂った…。

「おい、麦わら!」
助けた本人がきょとんとした顔をしているのを見て思わず叫んでしまった。
「なんだ?お前すげぇ奴なのか?」
「私が凄いかどうかは置いといてだな、お前助ける前に素性とか目的とか確認してみんなに納得してもらってからにしろよ!」
「お前いいやつだろ?」

まさかこいつは私が誰だか知らずに助けたというのか。
オレンジの髪の…たぶん泥棒猫さんだ…が溜息をついた。
ニコロビンは笑っている。

「なんだ?どうした?」
「ヨホホホホホ!私、そのお嬢さん知ってますよ!」
水色の髪のでかい男と…が、骸骨?!
他にも緑の頭とか綺麗な金髪だとか、この海賊団は髪の色が賑やかだな。

「説明するから落ち着いてよ。」
その場にドカッと座るとオレンジのお姉さんが構えていた青い棒を片付けた。

「お前、誰なんだ?」
麦わらが満面の笑みを浮かべて近寄ってくる。
後ろにタヌキがついてきているがだいぶ怖がっているようだ。
「知らないの?」
「ルフィ…!!こ、こいつぁ七武海のユウだぞ!!」
長っ鼻がうるさいくらいの声で叫んだ。
「お前、七武海なのかぁ?!」
麦わらがガビーンと音がしそうな顔を向けてくる。

「おい、何のために来た。」
一際深い殺気を出して剣を持った男が近づいてきた。
「あんた、海賊狩りのゾロでしょ?!おたくの船長はどんだけバカなの?!あとさ、私はめんどくさいことしたくないの。あんたが戦うつもりなら私はすぐ海に飛び込むから!」
一気に捲くし立てるとやっと男の殺気が消えた。

「お前、七武海か!そうは見えないな。俺は麦わらのルフィ!よろしくな。」
「あぁ、知ってる。よろしく。」
ちょっとはビビれよと思いながらも、能天気な笑顔で手を差し出されて反射的に握り返した。

またオレンジのお姉さんが溜息をついた。
苦労してそうだな。



船が壊れたからしばらく乗せろと言うとルフィがいいぞと即答し、全員に突っ込まれていた。
どうやら全く無害だと判断したらしい。

ゆっくり昼寝でもしようと思って船に乗ったのに気づいたら一味全員に取り囲まれている状況だ。

「ユウは海軍なのにこんなとこにいていいのか?」
「おい、なんでここの船長はこんなにバカなの?」
ナミ…さっき自己紹介された…に聞くと盛大に首を振られた。
「いいか麦わら。」
「ルフィだ。」
「…ルフィ。七武海は海軍じゃない。海軍に活動を許された海賊だ。私は死んでも海軍なんか入らないからな。」
睨みつけると彼はそっかと納得した様だった。
「ユウは海軍が嫌いなのか?」
「どうして七武海に入ったのかしら?確か最近よね、ジンベエの後釜と聞いたわ。」
ニコロビン、こいつさっきまで私がイライラしていたのを楽しそうに見ていただろ。
「あのさ、考えてみてよ。ただの海賊は海軍に狙われて尚且つ他の海賊団にも狙われる。七武海に入ってしまえば少し協力するだけで海軍に狙われることはなくなる。」

だろ?と同意を求めるとみんながうんうんと頷いた。
そういや金髪の彼がいない。

「雑魚な海賊は寄ってこないし、安心して航海が楽しめる。」
「その割には溺れかけてたけどな。」
「…溺れてない。あのままでも大丈夫だった。」
ゾロを睨むとははんと鼻で笑われた。

「どうして俺たちのこと捕まえないんだ?」
ウソップはどうしても自分たちを捕まえない理由が欲しいらしい。

「だから私は自由な海賊だって言ってんだろ?私は罪の無い一般人に害があるとか、私がムカついた海賊しか倒さないと決めている。海軍とそういう約束も交わした。だからお前たちのことはどうでもいい。分かったか?」
「お前、やっぱいい奴だな!!」
ニシシシシとルフィが笑った。

金髪の男…黒足のサンジだった…が美味しいおやつを持ってきてくれてそれを食べながらこれまでの彼らの冒険談を聞かされた。

「お前ら七武海舐めてるだろ。」
「「怖いです!!」」
ウソップとチョッパーが即答する。
「だがな、モリアは置いといて、クロコダイルはベストな場所で戦えば勝敗は怪しかったはずだ。それに残りの七武海はまともに戦えばお前ら絶対やられるぞ。」

ピンクの怪鳥を思い出して顔が引き攣る。
私だってたぶんあいつには負ける。

「会ってみないと分かんねぇけど、まぁ俺たちはまっすぐ進んでいくだけだ。」
ルフィが気楽な顔をしている後ろでゾロが厳しい顔をしている。
船長よりこっちの方がよっぽど色々と分かっているようだ。

「そういやユウは何のために海賊やってんだ?」
ルフィの顔をジッと見つめれば海賊らしからぬ純粋な瞳がキラキラしていた。
「私は世界の全てを見てみたいだけだよ。どんな場所か分からないところで生きるのは気に食わないだろ?」
そういうとルフィはまたニシシシシと笑った。
「お前面白いこと言うな!」
「よく言われる。」
私は海賊とか海軍とかよりも旅人に近いと思う。

「でもよかった!俺と同じ夢じゃなくて。」
「ルフィの夢は何なの?」
ルフィが急に立ち上がるから何かと思って見つめたらジッと見つめ返された。



「俺は、海賊王になる!!」



呆気にとられて仲間を見渡すとみんな面白そうに笑っていた。

私はもう一度ルフィを見つめた。
こんなにも真っ直ぐな海賊に出会ったことがあるだろうか。
言っていることは極悪と見なされることなのに、この少年の心は一点の曇りもなく純粋で、美しさすら感じられる。

私は一瞬で確信した。
彼はきっとこの海を渡って行くのに1番似つかわしくなく、1番必要な何かを持っている。

スモーカーさんがあれだけルフィに固執するのが分かる気がする。

『どこに行こうとしているのかわからないのに、決して遠くまで行けるものではない。』

口をついて出た言葉は少し前に何かで読んだ偉人の名言。

「君たちは私が思っていたよりよっぽど強いのかもしれないな。」
ポテンシャル的な意味でな、と付け加えてルフィにニヤッと笑ってみせたらまた豪快な笑顔が返ってきて、私は生まれて初めて海賊を応援してやろうかという気持ちになった。

「目的が分かっているかだけじゃねぇ。俺たちはそれに向かって誰一人嘘もつかねぇし手も抜かねぇ。それだけのこった。」
さっきまで厳しい顔をしていたゾロが薄く笑みを浮かべている。
自信に溢れた、ルフィと違って海賊らしい笑顔だった。


私は今日、また一つ、知らない世界に出会えたのかもしれない。


なんだかガープに会いたくなった。


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