ONE PIECE短編

□高鳴る鼓動の訳を
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私たちは山へ遠足に来ていた。
今はその帰りなんだけど…。

『んでどうして行きにはなかった吊り橋があるのかな?』

目の前には今にも崩れ落ちそうな吊り橋。
橋を形作る木はとうに腐っているようだ。



別に私は高所恐怖症でもなんでもない。

でもこの吊り橋は…度が過ぎている。


「なんでもこの道の方が近道らしい。」



私の後ろからひょいとキラーが現れた。


『だいぶってどのくらいよ。』

「さぁ20分くらいらしいが。」


…20分…微妙過ぎる…。
20分の短縮の為にこの吊り橋を渡るなら私は20分多く歩いた方がよっぽどマシだ。


吊り橋を見たルフィが騒いでいる。



引き返そう。
その言葉が喉まで出かかった時。

「どうした?行くぞ。」

既に吊り橋に足を踏み出していたキラーの口がこっちを向いてニッと笑った。

「どうした?怖いのか?」

キラーが吊り橋を怖いなんて言う訳がない。

というかこのクラスの奴らが怖いなんて言う訳がない。





『別に!行くわよ。』


一緒に20分多く歩いてくれる人がいる希望がなくなった私は覚悟を決めて一歩を踏み出した。








足を踏み出す度にギシッと軋む音に心臓が跳ねる。

下を見ないように見ないように前へ進んでゆく。

前をゆくキラーの背中を見据えて。



「大丈夫か?」

少し振り向いたキラー。

顔が見えたら何故か泣きそうになる。
だって安心するでしょ?

『大丈夫に決まってんでしょ!!』

だからその安心を悟られない様にわざと怒鳴る。







後何メートルだ?
自分はどれだけ歩いたんだ?

恐怖に感覚が麻痺して通常の思考が働かないのか。

感じるのは自分の鼓動と前をゆくキラーの存在。




その時。

ミシッ…ゴトッ…


『キャァッ……!』


「さやか…!」

「さやかちゃん!?」

「さ…さやか…!?」




足元の木が欠けて破片が川へと落ちていくのが見えた。


落ちた先から目を離すことが出来ない。







「さやか…大丈夫か?」








早く立ち上がらなきゃ。
立ち上がって大丈夫って笑顔で言わなきゃ。






「さやか…?」




ふと近くに人の気配を感じて思わず顔を上げる。

そこには私と同じようにしゃがみこんだキラーの顔。


「大丈夫か?ほら、手を貸せ。」

気遣うような優しい声でキラーが手を差し出してくる。

何の抵抗も躊躇もなく私はキラーの手に自分の手を重ねた。


そして二人で立ち上がる。










「よし。危ないから繋いだまま渡るぞ。」






















ほら、よく言うじゃん。
男女が一緒に吊り橋を渡ったら、吊り橋に対して感じる恐怖を恋のドキドキ感と履き違えちゃうって。


だから私はこの胸の高鳴りが吊り橋に対してなのか…繋いだ手に対してなのか分からない。

小さな風に靡く長い金髪とか、男らしい背中とか、少しゴツゴツした手だとか。


考えれば考える程、胸はドキドキして。


早く渡ってしまいたい。
でもこのままでもいいかもしれない。


ねぇ、誰か教えてよ。



高鳴る鼓動の訳を





理由の見つからない気持ちを吐き出したくて、繋いだ手に力を込めた。









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