はいきゅー

□サウナを作ろう
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秋が深まってきた。

この間までうんざりするくらい暑かったのに。

部活終わりの熱い体にこの空気は少し冷たすぎる。


隣にいる湧が両腕を摩ったのを見て僕は鞄の中をかき回した。


『え、何で持ってんの…。』

鞄の中から引っ張り出したマフラーを見てギョッとする湧。

「朝、母さんが持ってけって突っ込んだ。」

絶対いらない馬鹿じゃないのと思ったけどまさか役に立つとは。

「ほら、貸してあげるっていってんの。」
『あ、ありがと…。』

湧にマフラーを押し付ける。

紺色の何の変哲もないマフラー。

菅原さんなら彼女の首に巻いてあげたりするのだろうか。

澤村さんなら優しくマフラーを手渡してから頭を撫でたりするのだろうか。

そう思いながら電灯に白く光る湧の首元を眺める。


『あったかい。』
「そう。良かった。」


顔を綻ばせる湧を見て純粋に可愛いと思う。

いつか言ってやろうと思う。






『サウナ入りたい。』
「は?…それはまた極端だね。」


普段は突拍子もないことは言わない人なのにな。


『将来はサウナがある家に住みたいなぁ。』

何それ。
そんな好きなの?

「じゃあお金持ちと結婚しなきゃね。」

家にサウナがあるなんて芸能人以外で聞いたことないんだけど。




その未来に僕はいないということを唐突に突きつけられる。


当然のことなんだけどね。




「他に要望は?」

自分で自分の首を絞めるなんて僕はいつからドMになったんだろうか。

いっそ全て僕に叶えられない未来を言ってくれ。



『おっきい犬飼いたい。』
「へぇ。犬好きなんだ。」


知らなかった。


『自分の子どもにはバレーさせたい。』
「ポジションは?」
『何でもいいけどリベロはやめといて欲しい。』

生傷が絶えないから?

『色々と口出ししそうだから。』

僕の表情を読んだかのように湧が答えた。

気持ちは分からなくもない。

『あと、今の自分の家から綺麗な夕日が見れるから、将来も夕日の見える家がいいな。』





あぁ、それは叶えられそう。





湧と犬を飼うのも、お風呂にサウナがあるのも、子どもにバレーをさせるのも、全然想像出来ない。

だけど君と二人で部屋の窓から夕日を眺めるのはいける気がする。


「夕日、いいね。僕もそうしたい。」
『でしょ。』


湧に顔を向けるとふふふ、と微笑まれて、柔らかい笑顔が沈みかけの暖かいオレンジを思わせた。

少し照れ臭くなって、湧の首に巻かれた僕のマフラーを後ろからくいっと引っ張る。


ちょっとだけ苦しそうな顔を見ながら、サウナについて本気で考えてみようかなと思った。





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友達の携帯に残ってました
なんでこんな閑話休題みたいなのしか残ってないの!


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