はいきゅー

□たまには甘やかし上手
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【たまには甘やかし上手】





二学期に入ってしばらくして、最近あっという間に寒くなってきた。

ワインレッド色のお気に入りの薄いセーターの袖を少し伸ばして手を隠してみる。

「寒いの?」

ツッキーはやっぱりずっと着ているクリーム色のセーターが好きなのだろうか。

『ううん。寒くなってきたなぁ、って思っただけ。』
「それならいいけど。」

昨日は少し遅くまで嶋田マートで頑張っていたからだろうか。

私の前の席に座る忠はお弁当を食べてお腹いっぱいになり、今はすっかり夢の中だ。

可愛いな、忠は。




忠のアホ毛は元気だ。

菅原先輩にもアホ毛がある。
忠のより柔らかくて角度も緩やかだ。

忠のアホ毛はピンと立って、ぴょこぴょこと元気に動く。

そんなアホ毛をツンツン触って遊んでいるとツッキーが横からそのアホ毛を思いっきり引っ張った。


『ツッキー?!』
「いたた……。」


起こされて涙目になっている可哀想な忠の頭を撫でてあげるとへにゃりと笑った。





**




練習が終わってツッキーと一緒に帰る。

最近毎日付き合わせてたし、今日は一人で嶋田マート行くから湧ちゃんはゆっくり休んで、と忠に言われてしまった。

そういやツッキーと二人っきりって久しぶりかもしれない。


少しだけ前を歩くツッキーは背中の辺りを気にしているようだった。


『どうかした?』
「なんか…凝ってるみたい。」

ブロックは背筋を使う。

最近、本気でスパイクを止めにかかり始めたツッキーは背中にきてるんだろうな。

今日もお兄ちゃんと対決してたし。


『マッサージでもしてあげよっか?』

筋肉痛になってしまった後だから軽いのしか出来ないけど。

「出来るの?」
『出来るって普通にだよ?お兄ちゃんとかにやってるけど。』

誰でも出来る普通のやつなんだけどな…。

「ふーん。じゃあお願いしよっかな。」
『じゃあ明日の休み時間とかにしよっか。』

部室でやれば大丈夫だろう。

ツッキーは少しだけ考えるそぶりを見せてから私を見て言った。


「今から家来ない?」
『えっ…?』

すごくナチュラルに誘われた。

『いやいや、そんな、こんなご飯どきに…。』
「だいじょーぶ。うちの家そういうの緩いから。」

いや、そういう問題じゃなく。

『ご、ご家族は…。』
「今日は母さんしかいない。」

お、お母様…。

「ちょっと、何も彼氏の家行く訳じゃないんだらそんな緊張とかしないでよ。」
『いやいや、彼氏の家じゃないから問題なんじゃないの?!』

だって男友達の家に一人で行くとかある?
あれ、私がおかしい?

っていうかツッキーのお母さんとか緊張する絶対美人だ。

「ほんと湧って何なの。」

ツッキーがはっ、と短いため息をついた。

「黒尾さんにセクハラされるのはオッケーで、僕の家行くのは恥ずかしいっておかしくない?」
『あれはセクハラじゃなくて可愛い妹に構いたいお兄ちゃん、って感じなんじゃないかな…。』

ツッキーは一瞬だけ黙って、それから私の手を取った。

「うち、来て。」

何となく断れる雰囲気じゃなかったし、ツッキーのことは普通に好きだし、二人きりも大丈夫だ。

『…分かった。家に連絡入れとくね。』






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ツッキーの家に入ると可愛らしいお母さんが笑顔で出迎えてくれた。

挨拶しようとする前にツッキーに引っ張られて、あれよあれよと言う間に部屋に押し込められた。

『ど、どうしたの…?』
「後で兄ちゃんに報告されるとめんどうだからね。」

飲み物取ってくる、とさっさと出て行ってしまった彼を呆然と見つめた。

ツッキーの部屋は想像していたよりものが多かった。

まずCDがたくさんある。

恐竜のフィギュアもある。

バレーボールもある。

月バリが本棚に並べられている。

それからベッド。

水色の掛け布団。

白地に紺色の模様の入った枕。

ここでツッキーは毎日どんな格好で寝ているのだろう。


なんて考えると急激に恥ずかしくなる。






「おまたせ…って何赤くなってんの?」



振り返るとツッキーはお茶の入ったグラスを持って私を訝しげに見つめた。

どこで着替えてきたのか、黒いダボダボとした部屋着を着ている。

あ、こんな格好で寝てるんだね。


『いや、あの、うん。』
「男の部屋のベッド見ながら赤面だなんて、湧も意外とハレンチなんだね。」
『違う!そういうのじゃない!』

慌てて否定するとツッキーはいつもみたいに意地悪く笑った。

「今からその男のベッドに二人で乗ることになるけど大丈夫?」

あー、前言撤回。
いつもよりツッキーが意地悪かもしれない。

『大丈夫です!!』

ツッキーは笑いながらベッドにうつ伏せに倒れた。

『ツ、ツッキー…?』
「動揺しすぎ。」

いつもお兄ちゃんにマッサージしてあげる時は腰の上に乗るんだけど、ツッキーにそんなことするわけにはいかない。

横に立ったまま出来るかな。


ベッドサイドに立ってツッキーの背中に手を伸ばす。


「ねぇ、いつも東峰さんにどうやってるの?いつも通りにやってよね。」

見透かされたようなツッキーの言葉にギクリとする。

『腰、乗っても大丈夫?』
「いいよ。」

失礼しますと恐る恐るツッキーの上に跨る。

これどういう状況なんだろ。

いや、マネージャーが部員にマッサージしてる状況だ。


『ツッキー細い…。』
「…東峰さんと比べないでくれる?」

ツッキーがムスッとした声で文句を言った。



お兄ちゃんにマネージャーしてあげるのより少し力を緩めて、ツッキーの背中をなぞる。


『気持ちいい?』
「うん…寝そう。」
『寝ていいよ。』
「寝たら湧が困るデショ。」

大丈夫、その時は静かに帰ってやるから。





暫く黙って手だけを動かしているとツッキーがモゾモゾと動いた。

『どうしたの?』

そう言うと答えの変わりにツッキーが急に体を捻った。

『う、わっ!』

当然上に乗っかっていた私はバランスを崩してツッキーの横に倒れこんだ。


「気持ち良かったよ。ほぐれた気がする。」


私がベッドで顔面をしたたかに打ったのはスルーするらしい。

ムカつくから倒れ込んだ体勢のまま黙る。

っていうかこのベッドめちゃくちゃツッキーの匂いがする。

うわぁ、恥ずかしい。
でも良い匂い。

ツッキーの匂い好きだなぁ。

あ、今の変態臭いなぁ。

帰ったらお兄ちゃんのベッドに潜り込もう。



初めて、お兄ちゃん以外の異性のベッドに寝たにしては冷静だな自分、とか思っていたら。


いきなりふわりと負荷を掛けられた。

『うぐっ……。』

熱い。
すごく熱いかたまりが体を圧迫している。

『ツッキー、何やってんの…。』


っていうか何でそんなに熱いの。

全身で私にのし掛かってくるツッキーを振り返ろうにも、首が回らない。

ツッキーが何も答えないから、仕方なくしばらくこのままにしようと思う。

もしかしたらこの甘え下手過ぎるツッキーだって、誰かに甘えたい時があるのかもしれない。

ツッキーが最近、大きな壁に立ち向かおうとしているのは良く知っているから。




『止めれたらいいのにね。』



何となく呟いてみる。




「……誰を?」



何を、かは聞かないんだ。


最終的には止めるのは牛島さんだよね。

でも木兎さんも止めたいのかな。

岩泉さんも止めなきゃね。

あれ、伊達工のエースって誰だっけ。



まぁ、でも、手始めに。



『わたしのお兄ちゃん?』


「そこなんだ。」



そこなのです。

取り敢えず近い相手から潰していきましょう。

うちのお兄ちゃんを一人で止めれたら大抵の人のことは止めれそうだしね。



手を後ろに回して、肩の辺りに乗っかるツッキーの頭を撫でてみる。


やめて、と言いながらも全く抵抗しない彼をずっと撫でていようと思った。





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ツイートを四ヶ月…四ヶ月遡りましたよ…こんなことになるなら全話Twitterに流しときゃよかった

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