黒バス脱出原稿

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黄瀬くんに手を引かれて小走りで会議室に向かう。
会議室って言うくらいだから恐らく職員室の隣とかだろう。

渡り廊下を走り抜け、二階へと続く階段へと向かおうとした時、それは遂に私たちの前に現れた。


ドシン…ドシン…と不穏な音。


『ちょ、えぇ…!!』
「ムリムリムリムリ!!黄瀬ちんどうすんの…!!」

っていうか進行方向から来るよ!
今吉さん!!走って逃げられない場合はどうしたらいいの!!

暗闇の向こうから何か大きな、とても重量のある何かが歩いてくる。

「青峰が倒せたんだ!俺らにも倒せるだろ!落ち着け紫原、黄瀬!」

叫ぶ宮地さんの声が震えている。
当たり前だ、私たちはこれまでの16、17年間に"怪物に遭遇"なんて非日常を経験したことはないのだから。

真っ暗な学校に閉じ込められてる時点で充分に非日常なんだけど。

「く、来る…!湧さん隠れて…!」

ズシンという足音と共に、暗がりから姿を現したのは、まるでホラー映画に出てくるような汚い緑色のゾンビだった。

黄瀬くんの悲鳴。
宮地さんが廊下を蹴る。
紫原くんの息は止まっている。


『宮地さん…!!』


宮地さんが思いっきり飛び蹴りをかました相手は後ろにふらりとよろけた。
しかし何も起きない。

「は?!どうやって倒すんだよ!なんだよお前!どけよ!ぶち殺すぞ!!」

宮地さんがゾンビに怒鳴り散らす。

『武器、武器探そう!なんか、箒とかでもいいから…!』

ゾンビが宮地さんに向かって腕を振り下ろすが、さすが強豪高校のスタメン。
軽々と腕を躱した宮地さんを見て少しだけホッとする。
勝ち目がないほど強い、なんてことはない。

「こっから叫んだら青峰っち来てくれるんじゃないッスか?!青峰っちーー!!!!!青峰っち助けて…!!!」

叫び出した黄瀬くんを置いて、近くの教室に目を向けた時。




「邪魔だよ、黄瀬。」




後ろから、爽やかな声が掛けられた。

勢いよく振り返ると、真っ赤な閃光が私と黄瀬くんの間を通ってゾンビの元へ走る。

「おい、お前は…!!」

驚く宮地さんをよそに、その人は銀色に光る何かをゾンビの目に突き刺した。

暴れ出すゾンビ。

こちらを振り返る彼。



「やぁ、あなたたちが無事でよかった。俺は洛山高校一年の赤司征十郎です。」

突き刺した銀色の裁ちバサミをゾンビの目から引き抜いて、笑う彼は帝王、赤司征十郎だった。
登場からセリフから、全てが物語のようだった。

「赤司っちぃ…!!!」
「赤ち〜〜ん…!!!」
「黄瀬、みっともないぞ。紫原もだ。…おや、まだ死んでないね。」

赤司くんは後ろ手でゾンビが振り回す腕を払いのける。

「おい、赤司てめぇその裁ちバサミどこで手に入れた。」
「俺たちは家庭科室に倒れていたんですよ。」

宮地さんも地味にゾンビに蹴りを入れているが余り効いていないようだ。

っていうか俺たち?俺たちって他の人は?

「ところで光樹はどこにいったのかな?あぁ、よかった、今着いたんだね。」
『光樹って…降旗くん!?』

赤司くんがやって来た後ろを振り返ると、そこにはゼェゼェと息をする降旗くん。

『降旗くん!!』
「え、え、蘭乃、先輩っ?!」

駆け寄って降旗くんを抱きしめると、彼は目に涙を溜めていた。

「赤司が…置いていくから…でも蘭乃さん助けるためだったなら許す…。」

そんなことよりそう、ゾンビだ。
振り返ると、赤司くんが裁ちバサミを思いっきり開いて、宮地さんに気を取られているゾンビの頭を…。


「うわぁぁぁあ?!?!!!赤司っちそれはない!それは気持ち悪いっス!!」


ちょん切った。

もちろん絶命するゾンビ。


「倒したのだから文句はないだろう。それとこいつらには血が通っていないようだね。」

確かに、これが人間なら血が飛び散る場面だが、見たところこのゾンビには体液すらないようだ。
ゴロンと転がったゾンビの頭を見て震え上がる降旗くんの背中を撫でる。
まぁ死んだのなら怖くはないだろう。

「良かった…赤司お前すげぇな。つーか俺にも武器が必要だ。」

好戦的な宮地さんに思わず笑っていると、急に黄瀬くんが叫んだ。

「湧さん危ないっ…!!!」

それと同時に紫原くんが私たちに飛びついてきた。
凄い力で地面に倒される私と降旗くん。
私たちに覆いかぶさる紫原くんの肩越しに見えたのは……新たなゾンビが振り下ろす腕だった。

ダメだ死ぬ…!!

そう思った瞬間。



「よくやったよ、敦。」



ゾンビが真横に吹き飛んだ。
そのまま体を打ち付けて動かなくなる。
そしてさっきまでゾンビがいた場所に立っていたのは…。

「嘘……室ちんじゃん…。」
「あーあー、せっかく武器見つけたから殴り殺してやろうと思ったのに氷室が一撃かよ。イケメンで怪力とかマジ原さん見せ場なくね?」
「イケメンかは知らねぇが怪力の前にこいつはただのバカだろ。」

陽泉高校二年の氷室辰也と霧崎第一高校二年の花宮真、原一哉だった。


花宮…霧崎もいるのか。


「やはりあなたたちもいたか。強豪高校から数人が選ばれたようですね。」

予想通り、と赤司くんは落ち着いた声で三人に呼びかけた。

「湧さん、怪我ないッスか?!」

黄瀬くんが走り寄ってきて来る。

『大丈夫、大丈夫だけど紫原くん、取り敢えずどいて欲しい…。』
「敦、ほら立って…泣いてるのかい?」
「泣いてねーし!!室ちん来るのおせーし!!」

紫原くんが勢いよく立ち上がって目元をゴシゴシと拭った。
あんなに怖がっていたのに体を張って盾になろうとしてくれたんだ。

「紫原、ありがとう…!」
『ほんとにありがとうね。』

降旗くんとお礼を言うと、紫原くんは別に当たり前だし、と氷室くんにへばりつきながら唸った。


「おい、ゾンビ消えてんぞ!」

宮地さんが驚いた声を上げた。
さっきまでゾンビが倒れていたところを見ると、確かに消えている。
逃げたってことはないと思う。
だって赤司くんが倒した方のゾンビは首がちょん切れていたんだし。

「ありゃりゃ、今回はドロップアイテムなし?」
『ドロップアイテム?』

楽しそうに言う原くんに聞き返すと彼は笑った。

「そうそ、誠凛のマネちゃん。俺らさっきもゾンビ倒したんだけど、その時はゾンビが消えた後にこれが転がってたんだよねぇ。」

原くんがポケットから出したのは赤い玉。

『何それ?大切なものなの?』
「さぁ?わかんね。でもなんか脱出するのに必要なアイテムかもしんないから拾った。」

花宮くんがパンと手を叩く。

「こんな所で話しててもムダだ。会議室に行くぞ。」

そうだった、会議室に行く途中だった。
目の端が黄瀬くんがすっかり忘れてた、という顔をしたのが面白くて思わず吹き出すと、こっちを向いた原くん。

「あれぇ、マネちゃん案外余裕そうじゃん?」
『えぇ?あぁ…まぁみんないるし大丈夫かなって。』
「ふーん。もっと怖がって泣いてくれてもおもしろいのに。」

へ?っと聞き返そうとした時、花宮くんが原くんの頭を叩いた。

「いってぇ。」
「バカっぽく見えるから黙れ。悪かったな、誠凛のマネ。」
『え、いえ…あ、蘭乃湧です、私の名前。』
「あぁ。俺は花宮真だ。」

誠凛と霧崎の間には埋まらない溝があることは確かだけど、でも今は生きて外に出るのが最優先。
頭の良い花宮とは仲良くしておきたい。

「おい、お前全部顔に出てんぞ。気に食わないが仕方ないってな。」
『へ?!…いやぁ…ははは。』
「そういう強かで賢い奴は嫌いじゃねぇよ。」

花宮の思いがけないに言葉に思わず足を止めてしまうと、後ろを歩いていた黄瀬くんが背中にぶつかった。

「うわっ、湧さん突然止まらないで下さい!」
『あぁ、ごめんごめん。』

「着いた、会議室だ。」

赤司くんの声に慌てて前を見ると、会議室の札がかかった部屋。
電気が点いている。
この部屋だけ電気が通っているのだろうか。

「あれ?扉に何か書いてある?」

入り口の扉にデカデカと書かれた黒い文字。

『"清め済み"って書いてるけど…。』
「うわっ、俺ら入れねぇかもよ!」

なぜか嬉しそうな声をあげる原くんの"俺ら"って、原くんと花宮くんのことだよね。
何だろう、霧崎面白いかもしれない。

赤司くんが会議室の扉に手を掛けようとした時、中から扉が開けられた。


「そうやなぁ、花宮は入られへんかもしれんなぁ。」
「…今吉ぃ。」

中から出てきたニッコリと微笑む今吉さんに、腹の底から嫌そうな声を出した花宮くん。
原くんが思いっきり吹き出す。

「まぁ何でもええからはよ入ってき。ここは安全やからな。なんせ"清め済み"やからなぁ。」


不思議な言葉に促されて私たちは会議室に足を踏み入れた。





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