黒バス脱出原稿
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黄瀬くんの肩越しに会議室を覗き込むと、大きな円卓が真ん中に置かれ、その周りには20席のパイプ椅子。
しかもその一つ一つの椅子の前にはスマートフォンらしきものがある。
なるほど、だから今吉さんは20人だと思ったのか。
黄瀬くんが部屋に入ってすぐに青峰くんに飛び掛かって行く。
「おぉ、湧だ!!」
部屋に入ると既に何人かいて、その中には木吉の姿も。
『木吉もいたんだ!』
木吉と感動の再会を果たそうしたところで、それはある人物によって阻止される。
「湧じゃん…!何でお前いんだよバカ!!!」
突然の怒鳴り声に驚いてそっちを見ると、なんと和成がいた。
部屋中の視線を集めている。
『か、和成…そっちこそなんで…。』
「はぁ?!知らねーし!それより何でこんな危ないところにお前がいるんだよ…。」
絶望的な顔をしている和成には悪いが、その後ろで大きな緑色の盾を持つ緑間くんが気になって仕方がない。
今日のラッキーアイテムかな?
さっきからお前お前って、和成はお前なんてほとんど言ったことないのに、かなりパニックになってるんだろうな。
「ねぇ、湧聞いてんの?」
いつの間にか近づいてきていた和成に揺さぶられる。
『うわ、何よ。仕方ないじゃん好きで来たんじゃないもん…。』
「…でも湧、今ちょっとワクワクしてるっしょ?」
『…ちょっとだけね。』
和成は大げさに溜息をついてから私のことを抱きしめた。
「ほんと、俺が守るからな。」
『ありがと。』
みんながいるところで恥ずかしいんだけど、和成の気持ちが嬉しいから甘んじて受け入れよう。
「蘭乃さんと高尾くんはどういう関係なの?恋人同士?」
「出たよ、脳内花畑野郎が。」
「酷いなぁ、気になるだろう普通。」
恋人という単語にむせる和成。
花宮くんの酷いツッコミに笑いそうになりながらも私は答えた。
『違うよ、氷室くん。和成とは幼馴染なの。』
和成の家と私の家は道路一本挟んで斜め前。幼い頃からよく遊んでいた。
「幼馴染か。いいね。そう言えば大我は来てないのかな。」
氷室くんは火神のことが心配なのだろうけど、個人的に彼はここに来て欲しい人ナンバーワンかも。
『火神が来たら戦力になるのに。』
「そうだね、でも大我より俺の方が強いよ?そうだ、蘭乃さん、せっかく同い年なんだし下の名前で呼んでも構わないかい?」
『どうぞどうぞ。』
氷室くんみたいにカッコいい人に呼んでもらうのは大歓迎だ。
「湧はもう友達を作ったのか、早いなぁ。」
『あ、木吉、無事だった?』
すっかり木吉のことを忘れていた。
「あぁ、俺は隣の職員室にいたからな。無事だったぞ。湧はどうだ?」
『一瞬死にかけたけど氷室くんがゾンビを一撃で倒したから無事だよ。』
相変わらず木吉はどこか人を安心させる空気を放っていると思う。
木吉は花宮くんがいること気にしてるのかな?
花宮くんは敢えて視界に木吉を入れてないって感じだけど。
「氷室が一撃で倒したやて?そりゃ戦力になるな。1人で2人分くらいのカウントやな。」
今吉さんが呟いた。
『班分けでも考えてるんですか?』
「ん?あぁ…自分なかなか鋭いなぁ。そうや、20人全員で移動する訳にもいかんからな。」
その時、扉が勢いよく開いた。
「着いたぞ黒子!!はぁ〜、死ぬかと思ったぜ!!」
なんと黒子くんを荷物のように抱えた火神だった。
よし、やっぱりいた。
「おぉ、火神じゃないか!」
「木吉先輩!と蘭乃先輩も!」
「待って、俺もいる!」
降旗くんが火神に下された黒子くんを支えながら叫んだ。
「これで後4人か。」
花宮くんの声に反応するビクリと火神と黒子くん。
『火神、今はここから脱出することが最優先だからね。』
「そうや、ここは一先ずIHとかWCの因縁は忘れてやな、協力せんと…。」
今吉さんの言葉は扉を開く凄まじい音で掻き消される。
「着いたわ森山さん!」
入ってきたのは何と、金属バットを持った洛山二年の実渕さん。
「も、森山先輩!海常一人かと思いましたよ!」
それから海常三年の森山さん。
「黄瀬!お前が女だったら運命だと思ったところだ!」
ダメだ、どう頑張ってもメンバーが濃すぎる。
呆気に取られる私の隣で吹き出す和成と苦笑する今吉さん。
「ずいぶん物騒なものを手に入れましたね。そしてあと二人だ。キセキが全員いるとなると、無冠の五将が揃うのが一番妥当だとは思うのですが。」
誰もが納得した赤司くんの予想は次の瞬間、また轟音と共に崩れ去ることとなる。
「はーーっ!!たどり着いたわ!日向くん!生きてる?!」
なんと現れたのはリコと日向だった。
『リコ!!日向!!』
「あら、湧もいるの…って誠凛ばっかじゃない!!」
そう、誠凛が多い。
集まった20人中7人が誠凛だった。
スタメン全員…あれ、伊月がいない。
気にしない方がいいだろうけど。
今吉さんが会議室にいるメンバーを数える。自主的に目立とうとする黒子くんが可愛い。
「よし、全員揃ったみたいやな。」
「席に座ればいいのか?今吉。」
宮地さんがさっそく椅子を引いた。
「その通りや。20人分の席と携帯が並んどるやろ。どこでもええから座ってくれや。」
今吉さんの言葉に従って私たちは一斉に席に座る。
和成に手を引かれて隣に座ると、反対側の隣には黄瀬くんが座った。
「やぁ、誠凛のマネージャーの蘭乃さん。久しぶりだね。」
黄瀬くんの隣に座った森山さんには、一年の時に試合会場で運命だとナンパされたことがある。
『森山さんお久しぶりです。』
「湧、携帯の電源つけろって。」
和成に促されて携帯の電源ボタンを押す。
暫くして起動が完了した携帯は少し変だった。
なんとアプリが一つしか入っていないのだ。
つまり電話帳やメモ帳など、本来は買った時から携帯に備わっていて消すことの出来ないようなアプリや機能が入っていない。
バッテリーや時刻、電波状況などの表示もない。
「あの、今吉さん、僕の携帯がつきません。」
アプリを開いていいのか聞こうとしたら、先に手をあげて発言したのは黒子くん。
「なんやて?」
今吉さんが黒子くんの方へと向かう。
「テツお前携帯に認識されてねぇんだろ。」
青峰くんをジッと睨む黒子くん。
「ほんまや、ワシがやってもつかんわ。」
「壊れているんでしょうか?」
「いや、きっと意味がある筈や。なんせこれは命かかった脱出ゲームやねんから。」
脱出ゲーム。
その言葉に反応して、全員が顔を上げて今吉さんを見つめる。
「脱出ゲームってより格ゲーだろこれ。」
『確かに、脱出ゲームの中でもホラー要素強すぎだしね。』
思わず花宮くんの意見に乗っかる。
「なになに、湧って脱出ゲームとか好きだっけ?」
『あれ、和成知らないっけ?よくやるよ。無料アプリの軽いゲームばかりだけどね。』
「そうや、脱出ゲーム知らんやつおるか?」
今吉さんの言葉に全員が首を振る…かと思いきや氷室くんが手をあげた。
「脱出ゲームってなんだい?ゲームには興味なくて…。」
「お前は一人で格ゲーやっとけ。」
花宮くんの言葉に我慢出来なかった私と和成は揃って吹き出す。
「かくげー?」
「あぁ、向かってきたゾンビを殺すだけだ。」
「OK。分かりやすくていいね。」
原くんも耐えきれずに吹き出す。
「ほんまにそれでええんかいな…まぁええ。それより黒子の携帯や。こんだけ人数がおるってことは開けれる奴がおる筈や。」
「なるほど、みんなが持ってる携帯は誰でも開けれるけど黒子が持ってた携帯は誰か特定の人でないと開けれないってことっすね?」
「そういうことや、高尾くん。」
「あ、呼び捨てでいいっすよ!真ちゃん…緑間のことも!」
何言ってるのだよ、と始まった喧嘩を今吉さんは綺麗に無視して、黒子くんの携帯を順番に回していく。
試した結果、黒子くんが持っていた携帯に認識されたのはリコだけだった。これが何を意味するのか。
「あ、見て見て!アプリの"装備"のページ!」
黄瀬くんの言う通り、アプリを起動させて装備のページを見ると、ページの一番上の欄に【スマートフォン:全員】その下には【レベル表示用スマートフォン:相田リコ】と書かれあった。
レベル表示用?
しかしそのページには、まだ真ん中に埋まっている欄が二つあった。
【シールド(緑):緑間真太郎】
そしてかなり下の方の欄には
【金属バット×1:全員】
金属バットは実渕さんが持っていたものだ。
あれ、じゃあ緑間くんが持ってる盾ってラッキーアイテムじゃないの?
同じことを思ったらしい宮地さんが聞く。
「緑間、それおは朝じゃねぇのか?確かに学校で持ってなかったな。」
「違います。これは高尾と一緒に倒したゾンビが落としていったものです。」
なるほど、じゃあ手に入れたアイテムと、それを使える人がここに表示されるということか。
「あら、この金属バットはアイテムなのね。護身用に女の子が持った方がいいかしら?」
実渕さんが持っていた金属バットを机の上に置いた。
「×1ってことは金属バットはいくつかあるってことだね。」
赤司くんの言う通りだろう。
「おい、それよりその変な色のバスケットボールは何なんだよ。」
青峰の言葉に全員が大きく頷く。
そう、机の上には私が入ってきた時から、色の変なバスケットボールとバレーボールが置いてあったのだ。
誰も触れなかったから敢えてみんな無視していたのだけど、やっぱり食いついたのは青峰くんだった。
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