黒バス脱出原稿

□1-4
1ページ/1ページ

04





バスケットボールといえば、基本的には茶色の球体に黒い線が引かれているのを思い浮かべると思う。
バレーボールといえば赤白緑の三色、もしくは黄色と青の二色で塗り分けられているものを思い浮かべるだろう。

しかし今、目の前にある二つボールは青峰くんが言ったように色がおかしい。
黒い球体に茶色の線が入った、つまり色の反転したバスケットボールと、深い藍色と白の二色に塗り分けられたバレーボール。

「そういや湧って中学の時はバレー部だったよな?」
『うん、そうだよ。』

木吉の言うように私は元バレー部だ。
誠凛には女子バレー部がなかったし、そんなに思い入れもなかったからやめてしまった。

何気なく体を机に乗り出してボールを手に取る。変な色だなぁ。

「おい、装備のページ更新されてんぞ!下の方!」

日向の言葉に慌ててボールを置いて携帯を見ると、金属バットの欄の真上に新しく書いてあったのは

【バレーボール(清め済み):蘭乃湧】


私の名前だった。


『これって私が一番初めに触ったからとか?』
「いや、関係ないで。ワシも起きた時に触ったわ。」

単に元バレー部だしってことなのだろうか?
それにしても清め済みってどういうこと?
さっきも扉に書いてあったけど。

「じゃあこっちは誰だ?」

いつの間にか青峰くんがバスケットボールを指先でクルクル回しているが、装備のページには変化がない。

「ふーん、俺じゃねぇのか。じゃあ俺に勝ったお前か。」

青峰くんが火神にボールをパスするが、やはりページは変わらない。

「WC優勝校のキャプテンとか?」

森山さんの意見で火神が日向にボールを渡したけれど、何ともならない。


「俺は黒子だと思うよ。」

赤司くんが口を開いた。

「どうしてなの征ちゃん。」
「はっきりした理由はありません。」

日向が黒子くんにボールを渡した。

すると私の名前が書かれたちょうど真上の欄に

【バスケットボール(清め済み):黒子テツヤ】

赤司くんの二度目の予想は当たった。

「はっきりした理由はないってことは曖昧な理由はあるってことやな?」

今吉さんの言葉に頷く赤司くん。

「"清め済み"という文字を見て真っ先に思い出したのは腐ったあのゾンビです。恐らくその清められた二つのボールは武器になるのでしょう。バレーボールはスパイクやサーブのように攻撃力の高い使い方ができます。そしてこの20人の中で最も攻撃力の高いバスケットボールを使った必殺技を持つのが黒子、君だ。」
「なるほど、イグナイトパスですね。」

確かに曖昧な理由である。

「なるほどなぁ。まぁIH、WCを通してワシらが"黒子のバスケ"を見せつけられたってのも掛けてあるかもな。」

おぉ!今吉さんが上手いこと言った。
黒子くんが輝いた顔を今吉さんに見せる。

「単純に一番非力そうな奴らに武器与えただけじゃねえの…。」

…よし、花宮くんの意見は総スルーだ。

『ってことはこの会議室は部屋全体が清められてるから、ゾンビが入って来れないってことだよね?』
「あぁ、恐らくそういうことだろうな。」

花宮くんが頷いた。

その時、廊下からあの足音が聞こえてきた。
一気に凍りつく面々。

ドシン…ドシン…

「何、私まだその怪物ってのに会ってない…!」

リコの叫びに日向もガクガクと頷く。
入って来られないとは分かっていても怖いのは怖い。
隣の和成が私の手を握った。

「おい、唯一の格ゲープレーヤー。お前の出番だぞ。」

花宮くんの言葉に思いっきり吹き出す原くん。
この二人って緊張とか恐怖を知らないんじゃないか。

「っとその前に誠凛のカントク。」
「は、はいっ!」

花宮くんに呼びかけられて飛び上がるリコ。

「その携帯、知らねぇがレベル表示用のページとかあるだろ。」
「あ、あるわ。ってさっきと違う!10分の5って…!」
「じゃあ恐らく今、外におるゾンビはレベル5、ちょうど真ん中ってことやな。」

今吉さんの言葉に頷く花宮くん。

「もう行っていいかい?」
「あぁ。」
「む、室ちん一人で行くの…。」

紫原くんに大丈夫だと言って氷室くんは一人で教室を飛び出した。


「あいつスゲェな…でも一人で飛び出すとかアホなのか?一体とは限らないだろ。俺も行ってくる。怪物も見てみたいしな。」

そう言って扉に一番近い位置に座っていた日向が立ち上がった。

あれ、もしかしてクラッチ入ってる?
日向ってビビりじゃなかったっけ?
もしかしてリコの前だからってカッコつけてるのかな。

日向の心配は杞憂だったようで、外から何か大きなものが倒れる音がする。

「マジかよ、マジでまた一撃?確実に最強だろ。」

原くんが笑って、降旗くんが信じられないと首を振った。

「ゾンビのレベルより氷室のレベル上がっていった方が楽しいんじゃね?」

同感である。

「なんかスゲェな。氷室さん強すぎ。この中で絶対1番じゃん。ってか湧の手冷たい。」

そうだ、高尾と手繋いでたんだ。

「学ランの下に着てるパーカー、寒くねぇし、貸してやるよ。」
『え、いいよいいよ。』
「大丈夫だって、どうせこれから動き出すんだろ?すぐ暑くなるしな。」

和成が服を脱いでいると、様子を見に行った日向と氷室くんが帰って来た。

「おい、金属バット落として行ったぞ。」

装備のページを見ると金属バットの欄が【金属バット×2:全員】と変わっていた。


「はい、これ着とけよ。」
『あ、ありがとう。和成寒くなったら言ってね。』

和成の大きなオレンジ色のパーカーを着る。
ちょっとゆったりしてて、暖かい。

「なるほど、だいたい分かってきたね。でもまだ肝心なことが分からない。」
「そう、今のところ実は脱出するための手がかりが殆どないんや。」

赤司くんと今吉さんの言う通りだ。

『典型的な脱出ゲームってだいたい、扉が一つあって、その扉を開けるために鍵を見つける。そしてその鍵が入ってそうな箱とかがあるんですよね。』
「そうや。その箱やら壁のパネルやらを開けるためのヒントが書かれてあってやな、その"ゴールの地図"みたいなんを見ながら部屋にあるもんで推理を組み立てて行くっちゅうのがセオリーや。」

黄瀬くんが戸惑いながら口を開く。

「えっと…つまり…じゃあその最後に脱出する扉と、その扉を開ける鍵が入ってる所に書かれた鍵を手に入れるための"ゴールの地図"がないってことッスか?あれ?合ってる?」
『合ってるよ。大丈夫。』

黄瀬くんに続いて黒子くんも口を開く。

「つまりこれから何を目的に動けばいいかがはっきりしてないってことですか?」
「まぁそういうこと…やな。金属バットもシールドもボールも全部、敵と戦うためだけのもんやしな。」
「じゃあ敵を全部倒したら脱出出来るんじゃないですか?」

氷室くんの言葉に原が吹き出す。
原くん、氷室くんのこと好きだな。

あれ、待って、何か大切なことを忘れてる気がする…。

「おい、お前アプリの名前見ろよ、"廃校からの脱出ゲーム"って書いてんだろ。お前だけだろ"廃校での格闘ゲーム"やってんのは。」

花宮くんが呆れたように携帯の画面を指差した。
廃校って書いてあるけど実際は全然廃校っぽくないんだけどね。
まぁゲームのクォリティーなんてそんなもんだ。

「てか真ちゃんのシールドって何なの?盾?」

そうだ、それも不思議に思ったんだ。

『そのシールドってさ、この装備のページにわざわざ"シールド(緑)"って書いてるよね。つまり…』
「他の色もある、尚且つそれは恐らくキセキの中の誰かのものだって言いてぇんだろ。」

花宮くんの言葉に頷く。

『そう、当にそう言いたかった。さすが花宮くん。』
「気色わりぃから花宮くんってのやめろ。花宮でいい。」
「あ、俺も原でいいよー。」

うん、花宮に原ね。


「賢いやつ揃いすぎだろ…。つーか木吉の方が湧より頭良いだろ、何か言えよ。」
『日向黙って。』

主将なのに頭が良くないことを気にしている日向がボヤく。
それから余計なこと言うなよ。
どうせ私はコガより成績悪いし。

「頭が良いというより頭の回転が速いんだろうなぁ。俺なんて必死に暗記することしか出来ないからこういうのはちょっと…。」

たまに不器用なところのある木吉らしい。


「んじゃあテツが持ってるバスケットボールはテツだから黒ってことなのか?」

青峰の疑問に私は持っていたバレーボールを掲げる。

『中学の時のバレーのユニフォーム藍色と白だったよ。』
「そういうこと…湧の髪の色は綺麗な黒だからおかしいと思ってたのよね…。」

玲央が呟いた。

「このゲームは色に対する意識が強いようだね。」

赤司くんがそう言った瞬間、心に引っかかっていたものを思い出した。

そしてそれを思い出したのは私だけではなかった。

「忘れてた!俺ドロップアイテム持ってた!」

ガタンと立ち上がった原が制服のポケットから赤い玉を出す。

そう、それだ。
初めてドロップアイテムがあるということを知ったのは、原くんに教えてもらったその赤い玉だったのに。

「余りにも活用方法が思いつかなさすぎて忘れてたわ。」

花宮も忘れていたのだろうか、原が持つ赤い玉を、普段より少し大きな目で見つめている。

「征ちゃんの色ね。」
「ほら、赤司持てよ。」

赤司くんが原に投げられた赤い玉をキャッチすると。

「あ、更新されたッス。」

緑間くんのシールドの3つ上の欄、つまりリコの欄の真下に【keyball(赤):赤司征十郎】という文字が出ていた。

「なるほど、これも赤の他にありそうやな。」
「keyってことはこれが鍵の一種なのか?赤司しか開けられないのか?」

木吉の言葉に怖い考えが浮かんだ。

『ねぇ、凄い怖いこと言っていい?』

みんなを見渡すと花宮が悪い笑顔を浮かべていた。

「ふはっ!どうやら俺とお前は気が合うらしい。俺も怖いこと、考えついたぜ。」
「な、何よ湧。」

終始固い表情のリコには申し訳ない。

『もしこのボールが鍵の一種なんだとしたら、書いてあるから本当にその通りなんだと思うけど…このボールは赤司くんが使うことによってのみ効力が発揮される、つまり途中で赤司くんが死んだら私たちは一生出られないかもね。』


シーンと静まり返る会議室。


けれど花宮は薄く笑っているし今吉さんも頷いている。


「おい、お前怖いこと言うなよ!」

青峰くんが叫んだ。
降旗くんなんて泣きそうだ。

大丈夫、私も怖いよ。
隣の和成を見るとやっぱり顔色は良くない。

「大丈夫だ青峰。お前は俺が死ぬと思うのかい?俺は思わないよ。」

けれど赤司くんの自信有り気な言葉に、青峰もそれはそうか、と顔色を戻す。

『っていうか現実問題、誰かが死んだら脱出出来たとしても喜べないしね。』
「そういうことや、何にせよ全員無事に帰ることが最優先や。」

全員が神妙に頷いたところで今吉さんがパンと手を叩く。

「ちゅうことで今からお待ちかねの班決めやで。」
「「班決め?」」

森山くんと黄瀬くんがハモる。

「そうや、"ドキドキあの子と同じ班になれるかな!!"のお時間や。」

高らかに宣言する今吉さんに、全員が冷たい目を向けたことは言うまでもない。

ちなみに、花宮が汚物を見るような目で今吉さんを見ていたことは私がバッチリ確認しました。



みんなで話し合ってみたけど、けっこうまとまりも良いし話も進むし、何よりポジティブだ。

和成も宮地さんも氷室くんも戦う気まんまんだし、赤司くんや花宮なんかは絶対に脱出出来るという自信さえありそう。

今吉さんだって積極的にリーダーシップを発揮し、みんなそれを受け入れてちゃんとまとまっている。


いけそう、な気がしてきた。



.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ