黒バス脱出原稿

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一悶着あった。

いや、一悶着なんて可愛いものじゃない。

紫原くんは氷室くんと一緒じゃないと嫌だと喚くし、黄瀬くんも私と森山さんと一緒がいいと喚いた。

私は日向とリコを一緒にしようと画策し、原も氷室くんと一緒になろうと、花宮は今吉さんと離れようと同じく手を回していた。

黒子くんは火神と一緒が良いと地味に赤司くんに訴えかけていたし、ゲームキャプテン的立ち位置の今吉さんは持っているアイテムや頭脳、力関係を上手く振り分けようと頑張った。


結果───

A班
今吉、赤司、黒子、火神、日向、相田、降旗、青峰、緑間、宮地

B班
木吉、私、和成、実渕、紫原、氷室、花宮、原、黄瀬、森山


ほぼ全員の願いが叶った班分けとなったのは、今吉さんが頑張ったお陰だ。

班に一つ配られた金属バットは、日頃から腕力を意識的に鍛えている3Pシューターで、尚且つゾンビに向かっていく勇気のある実渕さんが持ち、同様の理由からA班では日向が持つらしい。

一見すると弱そうなB班ではあるが、ゲーム参加者最強の攻撃力と頭脳がある。

ちなみにうちの和成も視野が広いから役立つかもしれない。

B班のリーダーは木吉だと今吉さんが指名した。

B班で唯一の三年生は森山さんだけど本人はそういうのは向いてない、盛り上げ係だと頑なに拒んだ。

まずこの状況で盛り上げ係ってどういうことなのって突っ込みたい。

まぁ、確かに森山さんがまとめてるとか想像出来ないけど…申し訳ないが。




だからリーダーは木吉で問題ないと思うけど、彼は何度も断っていた。

「花宮の方が得意なんじゃないか?」

と渋る木吉に対して

『木吉大丈夫だよ。私もいるし。私は木吉が良いと思うよ。それにどうせやることないって。』

と言い続けると、湧が言うならやろうかな、と最終的には納得してくれた。
私の言ってることに納得するなら、まずリーダーの存在価値から議論しなければならないところなのは目を瞑ってくれたらしい。

ミッション的には出来るだけ怪我しないようにゾンビを倒し、様々なアイテムを取得しつつ、特にkeyballを見つける。


あと、最後に開けるべき扉らしきものも探す。



「いいか、湧。」

突然後ろから宮地さんに頭をギリギリと掴まれる。

『痛い、っ、痛い痛い痛い痛い…!』
「ぜってぇ怪我すんなよ!そのボール持ってるからって調子乗んな!どうしてもそれを使うしか選択肢がなくなるギリギリまで持っとけ!」
『は、はい…。』

大丈夫、和成もいるしゾンビも普通に怖いし無茶とかしない。

「てめぇほんっとマジで怪我して帰って来んなよ!怪我したら犯すぞ!」
『え、ええぇぇえ?!』

初めて人に犯すぞ、なんて言われてびっくりする。
隣の和成もびっくりだ。

「み、宮地さんそれは冗談でもキツイですよ!」

慌てる和成に宮地さんは鼻で笑った。

「冗談キツイと思うなら男見せろよ高尾。」
「宮地さん…分かってます。大丈夫です。」

私は和成の方が無茶しないか心配だ。






「よっしゃ、ほんならそろそろ行こか。呉々も全滅だけはせんように頑張ろか。」


今吉さんのニヤニヤしながら言った不吉すぎる言葉を聞いて、震え上がる降旗くんが凄く心配になった。










北棟担当のB班は、渡り廊下を歩いていくA班を見送ってから三階に向かった。

先頭を行く花宮が振り返って言う。

「いいか、少しでも違和感を感じたり何かを見つけたら全部声に出せ。全員で頭使うぞ。」
「はーい。」
『和成寒くない?』
「脱出ゲームなんだから普通にアイテムが隠れている可能性だってある、忘れんなよ。」
『黄瀬くん、くっつきすぎ。森山さんにくっついてよ。』
「やだよ黄瀬、来んなよ。」
「おい、お前ら話聞いてんのか!」

花宮が怒鳴った。

しんがりを務める木吉が聞いてるよ、と返すと花宮は鼻を鳴らして前を向いた。

「湧ちゃんそれ高尾くんのパーカー?」

いつの間にか森山さんが私を下の名前で呼んでいる。

『そうですよー。』
「代わりに俺の着ない?シトラスの香りだよ。女の子に一番人気のね。」
「森山先輩、それまたネットで拾った知識ッスか。」

この班分けは失敗だったのではと思うのは私だけだろうか。

A班とB班のテンションの差というか、カラーの違いが凄まじい。

A班はきっと今ごろ、赤司くんと今吉さんが真剣な顔をした部下を率いて、粛々と任務を遂行しているに違いない。知らないけど。

日向を筆頭に真面目な人が多いし、気が抜けてる奴なんて青峰くんぐらいだろう。


それに比べてB班はどうだ。

花宮と実渕さん以外はチームの所謂ムードメーカー的存在しかいないじゃないか。

木吉も基本的にはボケボケだし。

「蘭乃さん、よね?私は実渕玲央よ。」
『実渕さん、蘭乃湧です。』

綺麗な顔に金属バッドが不釣り合いだ。

「あら、じゃあ湧ちゃんね。同い年なんだから仲良くしましょう?玲央って呼んで頂戴?」
『分かった、玲央ね。よろしく。』
「ねぇねぇ、…名前なんて?」

突然後ろから紫原くんにパーカーのフードを引っ張られて、もう一度自分の名前を名乗る。

キセキの世代は敬語を使わない子が多いなぁ…気にしないけど。

『蘭乃湧だよ。』
「んー…じゃあ湧ちんねー。あのさ、何で俺らがここにいるの?他にもバスケ部いっぱいいるじゃん。何でアゴリラじゃなくて俺なの?」

アゴリラって誰なんだろう、と思いながらも私たちが選ばれた理由を自分なりに答えてみる。


『どうしてだろうね。私も分からないよ。でも、私はこれまで何十個もの脱出ゲームをしてきたけど、ほとんどが閉じ込められるまでにストーリーなんてなかった。そういうことじゃないかな?』

私だって考えたよ。
みんなもきっと考えた。
なんで自分たちがこんな目に合わなきゃいけないんだって。
でも今吉さんも赤司くんも花宮も、私たちが選ばれた理由について話し合おうとしなかった…ってことは彼らも意味のないことだと思ったのだろう。

もし理由があるとしたら分かるのは最後の時かもしれないね。

「脱出ゲームなんてそんなもんだ。」

私たちの会話を聞いていたのか、花宮が振り返らずに言った。

「理不尽なもんだろ。ゲームってのは何でもアリだ。人生もだ。お前だって分かってんだろ紫原。」



理想なんてただのゴミだ。

人生に公平を期待してはならない。



それは奇しくも陽泉のダブルエースの言葉だ。

「無駄なことを考えて不安になるなら、前だけ向いて頑張りましょう?こんなに心強い仲間がいるのよ、きっと大丈夫だわ。」
「いいなそれ、バスケも一緒だな。」

木吉がしみじみと呟いて、玲央の手が私の髪を撫でた。



「なぁ…後ろの角曲がったとこにゾンビいる、たぶん。」

突然和成が目を見開いて言った。

一気に緊張感が走る。

「後ろの角を曲がったところ?どうして分かるんだい?」

あれ、氷室さんは知らないのかな。

「ホークアイっすよ。人より俺は見えるんだ。どうする?倒した方がいいんだろ?」
「倒すしかねぇだろ。」
「氷室の出番じゃん。」

原が氷室くんの腕を取って後ろに向かって歩いていく。
それに和成も続いた。

「おい、木吉、お前は背後見張ってろ。」

花宮も木吉にそう言って歩いて行った。

「ええっと…班の人数が多いから俺らすることないッスね?」

ゾンビ一体に対しては余裕のある人数だ。
取り敢えず様子を見に、私も曲がり角から顔だけ出した氷室さん達の元に静かに駆け寄る。
玲央に手を引かれてその背の後ろに立たされた。

「こっち、気付いてない、あいつ。」

和成の言葉通りこっちを向こうを向いて立っているゾンビ。

「立ち止まってるっつっても頭働かせてる訳でもねぇだろ。氷室行ってこい。首狙え。」

花宮が氷室くんの背中を押して、氷室くんがゾンビに後ろから襲い掛かった。
相変わらず無駄のない動きである。
和成なんてヒーローを見るような目で見ている。
氷室くんの右足は、綺麗に頸椎がある筈の部分を捉えたが、ゾンビはふらりとグラついただけで倒れない。

「おい、あのゾンビ強いのか?」

花宮の言葉にしゃがみ込んで見ていた原が立ち上がった。

「じゃあ遂に俺の見せ場来た?」
「知るか。死なねぇなら行って来いよ。」
「金属バッド使う?」

玲央の申し出を原は断った。
何か秘策があるのか。

こちらに向き直ったゾンビが振り下ろした腕を氷室くんが受け止める。

「花宮、俺の特技知ってる?」
「…ドラムだろ?」
「もう一つあるんだよね。なんと、足引っ掛けて人を転ばすこと。」

そう言って、原は私の真横にあった消化器を引っつかんでゾンビに向かって走った。

「氷室、右から攻撃しろ!」

氷室くんが原に言われた通り、再度右足でゾンビの胴体に足をめり込ませる。
その瞬間、左側からゾンビの足元に走り込んだ原が、消化器を最大限にかけた遠心力とともにゾンビの左足首に打ち込んだ。
おもわず黒子くんのサイクロンパスを思い出す。
強烈なコンボ攻撃に倒れこんだゾンビの顔面に、原が流れるように消化器を打ち込む。
これだけの動作にも氷室くん並みの運動センスが伺える。

「Hey、最高にcoolだね。」

そう言いながら最後は氷室くんがゾンビの喉元に踵を落として終了。
まさに圧巻である。

『すご……。』
「かっけ……。」

花宮が振り返った。

「おい、木吉そっち異常ないか!」
「ないけど、終わったのか?」

木吉がひょっこり顔を出す。

「いいね!俺、消火器気にいっちゃった。」
『原凄い!強いね!』
「あ、湧ちゃん惚れちゃったぁ?」
『それはたぶんない!』

思わぬダークホースだ。

「いいね、カッコよかったよ…名前なんだっけ?」
「原一哉。」
「そうか、一哉。まだ強くなれるよ。」
『あ、ゾンビ消えてく…。』

初めてゾンビが消えるところを見た。
砂のようにサラサラと実体がなくなってゆく。
そして完全に消えた後にはアイテムが落ちていた。

「紫色の盾…シールドだ。」

氷室くんが拾って紫原くんに渡した。

「え…でも俺なんもしてねーし。」
「いいんだよ敦。これからそれを使うんだ。」

氷室くんの言葉に紫原くんが盾を受け取る。

携帯で装備の欄を確認すると赤司くんの欄の下に
【シールド(紫):紫原敦】
と書かれていた。

その他に変わりはないからA班には収穫がないのだろう。

「よし、取り敢えずあと2つだな。頑張っていこうな。」

装備のページには赤司くん、紫原くん、空欄、緑間くん、空欄、そして黒子くんと私の名前が続く。

木吉の言葉に気合いを入れ直してまた私たちは前に進み始めた。




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