黒バス脱出原稿
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それから、北棟の三階を全て見たが特にめぼしいアイテムはなかった。
赤司くんの言っていた家庭科室があって、和成と森山さんが武器を探していたが、包丁を持ち歩くのも怖いということで見つからず。
黄瀬くんは黄色いものにならなんだって反応したがこれも見つからず。
『諦めなよ、それどう見てもアイテムじゃないよ。』
「ッスよね…あ"ー!!俺のもドロップアイテムなんスかね…。」
途中でゾンビが一体出たけどそんなに強くないやつだったみたいで、一番近くにいた紫原くんがシールドで押しつぶしていた。
ゾンビはだいたい身長が190cmくらいなのか、上背だけでいうと紫原くんが勝っている。
玲央の金属バッドと私のバレーボールは使う機会が未だに一度もない。
二階に降りると会議室の電気が見えてそれだけでも安心する。
一通り見ても何もなく、職員室もたくさんデスクはあるがほとんど何も置かれていなかった。
二階の一番端、最後の教室は国語準備室。
入り口の扉が少し違う色をしているみたいだけど、暗いしよく分からない。
中に入ろうと木吉がその扉に手をかけたが。
「あれ?開かないぞ。」
「鍵が掛かっているのかしら?」
木吉がガタガタと扉を揺さぶる。
「いや、鍵は掛かってないみたいだぞ。ぶち破るか?」
花宮が木吉を制して扉に耳を寄せた。
『何か聞こえる?』
「いや…聞こえたと思ったんだが気のせいかもな。それより開け方だ。」
そう、これは脱出ゲームだし、これまでの流れを考えて無理矢理こじ開けれる可能性は低い。
窓も割れないんだからなんだってありだ。
「よく見ろ。扉が開かないってことは中になんかあるぞ。」
花宮が扉のすりガラスを指先でなぞる。
木吉は鍵穴を覗き込み、私は玲央と一緒にしゃがみ込んで扉の表面を見つめた。
「何かある?」
私の隣に原が座り込んでプクーっとガム風船を作っている。
イチゴの匂いがするからイチゴ味なんだろう。
意外にも可愛らしい味を好むらしい。
「ねぇ、湧、ここ何か彫られてるわ。」
玲央が指でかなり地面に近いところを撫でた。
「結構細かいけどこれじゃないかしら。」
「ん?俺見るわ。」
和成が私と場所を交代し地面に這いつくばり、森山さんが玲央の指差した場所を携帯の明かりで照らした。
「えっと…うわ、アンダーバーが4つ…確かに細かいけどしっかり掘られてる。」
ええっと、_ _ _ _ってことか。
「4つ言葉を入れるのか。」
『アルファベットか数字か…。』
花宮と顔を見合わせる。
『こういうのって平仮名はないよね、普通。』
「断言は出来ねぇぞ。」
しかし四桁か。
「四桁って数字っぽいけどなぁ。」
木吉が呟く。
ATMを思い浮かべたのだろうか。
携帯の暗証番号もか。
「何かおかしいところがある筈だ、見逃してるか…。」
「扉の色。変だと思う。」
紫原くんが呟いた。
そう言えばさっき私も変だと思ったんだった。
携帯の画面で照らして明るくして見てみる。
「ピンクか…?」
『四文字だ!』
「このゲームは色に拘ってるみたいだしそれだろ!」
花宮がボソッと呟いた言葉に私と森山さんが続く。
花宮が頷いて鋭く言った。
「おい、表面引っ掻けるもん探せ。」
「わぉ、あった。」
花宮とは対照的に随分緩い声を出した原だけど、ずっと同じところにしゃがみ込んで下を向いていたからきっと探していたのだろう。
「レールのとこに針あった。」
「今の流れすげぇ!」
和成が原から興奮気味にその針を受け取る。
「花宮さん、p i n kッスよね?」
「紫原そのまま後ろ頼ん…あ?そうだ間違えんなよ。」
和成がガリガリとアンダーバーの上にアルファベットを彫る。
『脱出ゲームっぽいね。普通はキーロックとかだけど。』
針を見つけて自分で彫ったりなんてアナログなことは、どのゲームでもしたことがない。
「てめぇ何ワクワクしてんだバァカ。」
『わっ…。』
花宮にコツンと頭を小突かれた。
隣を見上げるとニヤリと笑う花宮の綺麗な顔があって驚いた。
重たげな前髪の間から見える目は至って普通。
もっとゲスい顔しか知らなかった。
「よしっ、出来た!」
和成がそう言った直後、ガタガタっと扉が音を立てた。
「開くみてぇだな。」
和成に手を貸して立たせる。
「いいか、何があるか分からねぇからな。俺が開ける。氷室が一番に入れ。木吉は背後注意だ。」
「よし、任せておけ。」
花宮と木吉が普通に協力しているのが凄いなとぼんやり考えつつ、私は黄瀬くんの後ろについた。
「開けるぞ…。」
花宮が一気に扉を開けて、氷室くんが中を見た瞬間、あ、っと声を上げた。
氷室くんの肩越しに中を見た黄瀬くんが悲鳴をあげる。
「桃っち!!」
桃っち?
黄瀬くんに続いて中に入って驚いた。
桐皇のマネージャー、桃井さつきちゃんがガムテープでグルグル巻きにされて転がっていた。
一生懸命体をバタつかせて上がらない悲鳴を上げている。
なるほどだからピンクだったのか、という納得と同時に憤りを感じる。
ずっとここに閉じ込められていたのか。酷い。よりによってこんな女の子を。
慌てて黄瀬くんと駆け寄ろうとした時、後ろから腕を掴まれて振り返ると花宮。
そこで我に返って自分の前にいた黄瀬くんを引っ捕まえた。
しかし叫んだのは森山さんだった。
「違う!」
花宮も驚いて森山さんを見る。
「違うってどういうことッスか?!」
「その子は桐皇の桃井さんじゃないと思ってね。」
どうして特に接点のない森山さんがそう思ったのだろう。
私も花宮に腕を掴まれた時に、安易に近づくのは良くないと気づいたけれど。
紫原くんが桃井さんを凝視している。
「俺も罠かもしれねぇとは思ったが…どうして断言するんですか、森山さん。」
花宮の問いかけに森山さんは自信有り気に答えた。
「俺はWCの会場で桃井さんに話し掛けたのだが、その時に感じた運命をそこの彼女には感じない。」
運命?説得力がない、なさすぎる。
しかし森山さんが言えばその言葉は全く別だ。
「というかその子が人間かどうかも怪しい。」
「なんだと?」
花宮が眉間に皺を寄せる。
「あんなに可愛い女の子に運命を感じなかったのはこれが初めてだ。だからその子は人間ですらない筈だ!」
森山さんがそう言った瞬間、桃井さん、いや、桃井さんの幻影が消えた。
消えた後を呆然と見つめる黄瀬くん。
「ふはっ、運命なんて非論理的なことで見破られるとは思ってなかっただろうな。」
「森山さんの運命ってほんとに感じてるんですね。」
和成がしみじみと呟いた。
「ねぇ、何か落ちてるよ。」
幻影のあった場所に氷室くんが跪いた。
「ボールだ。青色の。」
「青峰っちだ!」
氷室くんが花宮にボールを投げた。
それをキャッチしてしげしげと見つめる花宮。
「おい原、これか?」
花宮からボールを受け取った原が頷いた。
「たぶんね。」
「よし、見つけたって放送かけんぞ。どうせすぐそこだ。」
国語準備室を出たところで森山くんが呟いた。
「俺、本当に運命"感じて"たんだな…。」
面白すぎて和成と吹き出せば、なぜか二人とも足がもつれて仲良く廊下に倒れこんだ。
「ほんと湧はよく笑うなぁ。伊月のダジャレも湧にだけはウケるもんなぁ。」
木吉が私を拾い上げながら言ったその言葉に心臓が締め付けられた。
あぁ、早くここから出て伊月に会いたいな。
伊月だけじゃないけど。
水戸部もコガもツッチーも一年生も二号も。
短時間での感情の振れ幅が大きすぎたのか、暫く木吉に抱えられてぼうっとしていた。
(あれ、湧が動かなくなった。)
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ここまで読んで下さってありがとうございます。
最後まで頑張ります。
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