黒バス脱出原稿
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花宮の校内放送から5分ほど経っただろうか。
廊下が急に騒がしくなって会議室の扉がガラリと開いた。
「あれ幻じゃないッスよね…?」
『黄瀬くん、ここは清め済みだよ。』
「あ、なるほど。」
A班も全員無事なようで、会議室が明るい空気に包まれる。
「よっしゃ、話したいこと色々あるやろけど情報の共有が必要や。効率的にいくで。」
今吉さんに促されてみんなが席に座る。
今度は隣に宮地さんが座った。
「怪我してないみてぇだな。」
『んー…特に何もなかったですし?』
怪我するタイミングもなかった。
放送で呼び出したB班から何があったかを報告する。
木吉が森山くんの運命の件を話した時はA班の面々に何とも言えない顔をされた。
あんなに面白かったのに。
「なるほど、だから一瞬だけ装備のページに【針:全員】って書いてたんですね。」
木吉が話し終えた後に黒子くんが言った言葉にB班全員がギクリとする。
和成が頭を掻きながら笑った。
「やっべ、あの時テンション上がりすぎて誰も携帯とか見てなかった。」
花宮を見ればバツの悪そうな顔をしていた。
そんな花宮をニヤニヤ笑いながら見る今吉さんは、本当に抜かりの無い人間なのだろう。
「あれってアイテムだったのね…あら、じゃあ消火器や征ちゃんの裁ちバサミはどうして載ってないのかしら?」
「ゲーム制作側が有効なアイテムとして用意したもんやないってことやろ。学校に置いてるただの備品をこっちが上手いこと使ってるだけや。」
玲央の疑問に今吉さんが答える。
なるほど。
確かに消火器とは違って、針はあそこで必ず使わなければいけないアイテムだった。
『和成、針どこにやったの?』
「それが俺も今思い出したんだけど、どこにもないんだよね。削り終わった後から針の記憶がない。」
「消えたんだろ。」
花宮が言った。
「入手して使い終わった後にそのアイテム消えたりすんだよ。」
その通りだ。
たまにそれが消えなくて、使い終わったいらないアイテムを元の場所に返さないとアイテム欄が埋まっちゃって新しいアイテムが取れない、なんてタイプのゲームもあるけど。
「で、黄瀬、俺のボールはどこだ。偽のさつきが持ってたとか言う。」
「花宮さんが持ってるッスよ。」
花宮がポケットから青いボールを出して青峰くんに投げた。
青峰くんがキャッチすると装備のページの欄が一つ埋まる。
【keyball(青):青峰大輝】
これで上から赤司、紫原、青峰、緑間、空欄、それから黒子、私と続いている。
この空欄に黄瀬くんの名前が入ることは間違いないだろう。
『黒子くん、針ってどこに書いてたの?』
「新しい欄が1番下に出来ていました。その分ページが少し伸びて、スクロール出来るようになっていました。」
初めて携帯を見たとき、そこにはリコと全員分の携帯の表記、それから緑間くんの名前と金属バットがあった。
携帯を入手しなければこの情報は見られない訳で、携帯の情報が最初にあるのは分かるからリコは例外として。
つまりそれ以外の個人が持つアイテムはどこに誰の名前が書かれるか元から決まっていたってことだ。
今吉さんを見るとニヤリと笑われた。
私の疑問が筒抜けのようだ。
「背番号なのだよ。」
緑間くんが呟いた。
『へ?』
「シールドとkeyballが種類ごとにまとめて書かれていないのはおかしいと思って考えていたのだが、赤司から始まって黄瀬で終わるこの順番は帝光時代の背番号の順番だ。黒子をキセキとカウントしても成り立つのだよ。」
帝光時代の背番号。
私の目の端で赤司くんが笑った。
「蘭乃は中学ん時のユニフォームの背番号何番やったん?」
『確かに初めてユニフォームをもらった時は15番でしたけど…中三の時は2番でしたよ。』
黒子くんは帝光時代15番だから、黒子くんの下に名前があってもおかしくないけど理由としては弱い気がする。
キセキと私は別カウントで全く関係ないだろう。
「んで、A班は何があったんだよ。」
花宮に促されて赤司が口を開いた。
「何もなかったです。」
酷く完結だった。
完結すぎて一瞬花宮はたじろぐ。
「…おい、それは冗談なのか?」
「半分冗談です。いや、本当に何もなかったんですけど。しかしどんなに小さいことからでも情報が掴める。」
赤司くんなりの冗談だったようだ。
分かりにくい冗談に黄瀬くんが引き気味だ。
「うちは相田さんがいらっしゃるので、積極的にゾンビのレベルと個人の戦闘能力を比較してみました。」
え、なにそのスパルタな感じは。
紫原くんがあからさまに嫌そうな顔をする。
「レベル3までのゾンビならだいたい1人で倒せるようでしたね。」
降旗くんがプクッと頬を膨らませて火神がニヤニヤしているから、そのだいたいに入らなかったのは降旗くんなんだろう。
彼は挑戦すらしていなさそうだ。
「得意そうにしてるけど黒子くんはイグナイトが使えるからでしょう?」
リコにからかわれて黒子くんも拗ねる。
可愛いな、うちの班は可愛さが足りないと思う。
「氷室さんのようにレベル5を一撃で倒せた者はいなかった。」
「見てる感じでは一撃じゃなくても青峰くんと火神くんは1人でも余裕で倒せるわね。」
それじゃあやっぱり氷室くんが最強なのか。
あんなに綺麗な顔と、どちらかというとスラリとした体つきでケンカが最強なんて、相当テクニックがあるのだろう。
顔は関係ないけどね。
「相手をした中で1番強いゾンビはレベル8だったが、数人で囲めば問題なかった。」
「そうやなぁ、ほんまに分かったんはワシらが1人でどこまで戦えるかっちゅうことくらいや。あとまだ東棟の一階は見てへん。」
『私たちもまだ一階は見てないです。』
じゃあこれから分かれて、また一階の捜索にあたらなければ。
確かまだ体育館のあたりは見ていないし。
「月が同じところにある。」
突然花宮が呟いた。
さすがの今吉さんもその不思議な発言に目を瞬かせる。
「そうなんですね。気づかなかった。それは不思議…いや、元の世界だとしても不思議ですけど。」
赤司くんが答える。
「な、何言ってんスか?俺全然ついていけてないッス…!」
自分だけが蚊帳の外だと勘違いした黄瀬くんが悲痛な声をあげた。
「なるほどな、大丈夫や黄瀬。ワシも今分かったわ。」
今吉さんが立ち上がって閉まっていた会議室のカーテンを開けた。
真っ黒な夜空に月が浮かんでいる。
どこにでもある光景だ。
全員が月を凝視する。
「目が覚めて俺はすぐに外を見た。」
花宮が淡々と話す。
「その時に月があった場所と今、月がある場所が変わってねぇ。」
花宮がいつ起きたのかは知らないけれど、私が起きた時間とあまり変わらないのであれば、既にそれから2時間ほどが経過しているだろう。
普通2時間も経てば月の位置は目に見えて変わる。
それが変わっていないということは、ここが異世界なのかもしくは、私たちの時間以外が止まっているのか。
いずれにしても謎だらけだ。
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