黒バス脱出原稿

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「B班どこだ!」
「湧どこ行った!」

保健室を捜索していると、バタバタと、ゾンビにしては軽快な足音と怒鳴り声が数人分近づいて来た。

っていうか私の名前呼んだ?
日向?

「…なんだ?」

それぞれの手を止めて保健室の扉の方を見る。
木吉が保健室の扉を小さく開けて外を伺う。

「あ、木吉いた!!」
「お、日向じゃないか!どうしたんだ?」

花宮も何も言わないし本物っぽいし、大丈夫だろう。

保健室の扉がバンッと開いて宮地さんが息荒く入ってくる。

「蘭乃いたぞ!」

宮地さんが後ろを振り返って言う。

『な、何ですか…。』

最初に聞こえてきた日向の声からもそんな気はしていたが、どうやら私を探していたらしい。

「別にアイテムが消えたからって。死んだ訳じゃねぇだろ。」

花宮がボソッと呟いた。
なるほど、幻影の伊月を倒した時にバレーボールは消えてしまった。
当然装備のページからもバレーボールも文字は消え、何かあったんじゃないかと探しに来たらしい。
木吉の影から黒子くんが出てきた。

「黒子っち!!」

黄瀬くんが飛びつくのをサラリと躱す黒子くん。

「良かったです。僕がボールをいくら使っても消えることはなかったので、何かあったのかと…。」

この可愛い後輩も私のことを心配して見に来てくれたらしい。

『大丈夫だよ。伊月倒しただけだから。』
「え?」

日向のポカンとした顔が面白かった。
いずれ誰かが説明してくれるだろう。


「そんで、お前らは蘭乃の無事を確認するためだけに来たのか?」

確かに、赤司くんと今吉さんが許すとは思えない。

「えぇ、一応伝言も預かっています。ついでに伝えろと今吉さんが。」
「伝言っすか?」

和成が宮地さんに聞いた。

「あぁ、東棟の一階には何もなかった。」
「全てのゾンビを倒した訳じゃねぇから断言は出来ないけどな。」

日向が口を挟む。
宮地さんが頷いて続けた。

「東棟から繋がってる体育館の入り口に大きな仕掛けを見つけたから、北棟一階の捜索が終わり次第体育館で合流するように、だとよ。」

大きな仕掛け、か。
やっぱり体育館はメインだよね。
みんなバスケ部な訳だし。

「だからなんで湧はワクワクした顔してんの!」

和成にチョップを喰らう。

「さっきだって危ない目に遭ってたんだからもっとビビれよ。」
『いや、変な幻出てきただけじゃん。』

幻影の伊月ならゾンビの方がよっぽど怖い。

『でもさ、もうこの状況に陥っちゃったのは仕方ないんだから楽しまないと。』
「そうだぞー。楽しんでこーぜ。」

私たちの話を聞いていた木吉の大きな手が私の頭を撫でる。
木吉の手はとても大きいからその手に撫でられるのは好きだ。

「誠凛のこの器のでかさ怖ぇわ。」

その代わり主将さんはビビリだけどね。
私たちが無駄話をしながら保健室の棚を漁っている間に、宮地さん達も手伝っていてくれたらしい。

「よし、保健室はもうねぇだろ。誠凛のPGが出てきた辺りでそれ以上無い気はしてたしな。」

花宮の言葉に頷いてみんなで保健室を出る。
最後にそっと振り返ったのは別に伊月の跡を探したかったからじゃない。




保健室を出て、東棟を抜け体育館を目指す。

「二階と三階は分かるんスけど、学校の一階全部が壁と天井で囲まれてるなんて不思議っていうか、不自然っスよね?」

黄瀬くんが言う。
きっとこの学校は、本当に存在しない学校で、脱出ゲームのために作られたものなのだろう。

「お話の中に入ってしまったようです。夢の中と言いますか。でもちゃんと現実感はありますよね。」
『そうだね、私も夢の中と言うよりはゲームの中に入り込んだ感じ。』

黒子くんに同意する。
列の最後尾では木吉と日向がコソコソ話しているから、たぶんさっきの伊月の話をしているのだろう。
まぁ別れた後でも一緒に帰ったりしているし、そんなに気遣われることもないと思うのだけど。

「後ろ、ゾンビ来てます!」

突然和成が叫んだ。
後ろを振り返ると花宮が叫んだ。

「取り敢えず逃げろ!」

逃げてどうするつもりなんだろう。
このままじゃA班の所に一緒に連れて行ってしまう。
とか何とか考える前になぜか紫原くんに腕を掴まれて走る。

「湧ちんもうバレーボール持ってないんだからね!」

なるほど、確かにもうこの殆ど無いに等しい腕力に頼らなければならないのか。
それは無理がある。
一気に守られる側に着いたことを今自覚した。
これだから和成に怒られるんだ。

『って、紫、ばらくん、速い…!』

208pと158pの足の長さは違いすぎる。

「は?じゃあ捕まっててね!」

そう言うと紫原くんは一瞬で私を抱き上げた。

『ちょ、む、む…!!』
「スカート抑えといてねー。あと紫原くんって長いからむっくんとかでいいよ。」

慌てて紫原くんを掴んでいない方の左手でスカートを抑える。

「湧ちゃん、スカート抑えなくてもいいよ!」

こんな時でも原は原だ。
私の後ろ、つまり進行方向から声が聞こえるから、恐らくわざわざ振り返ってこっちを見てるんだろう。
紫原くんの肩越しに、走ってくるゾンビを迎え撃とうとしている金属バットを持った玲央と日向が見えた。

そしてそのゾンビの後ろにフラリと現れたのは…黒子くん…?
まさか、黒子くんは壁に張り付きでもしてゾンビをやり過ごしたのだろうか、持ち前の影の薄さを使って。

日向と玲央が突っ込んできたゾンビにフルスイング。
それと同時に黒子くんがボールをイグナイト。
前と後ろからの強烈な三撃にゾンビが耐えられる筈もなかった。

『すっご……。』
「あ、上手くいった?」

紫原くんの方を向くと異様に顔が近くてビックリする。

「ちょ、湧ちん暴れないで。」
『わ、ごめん…ってもうゾンビ消えたから降ろしてくれていいよ?ありがとう。』
「って言ってる間に着いたよ。」
『へ?』

紫原が足を止めてふわりと地面に降ろされる。
氷室くんに乱れた髪を撫で付けてもらいながら振り返ると、ニヤニヤしているA班の面々がいた。

『なっ……。』
「蘭乃、バッチリ見えとったで。」
『今吉さん……。』
「大丈夫だ蘭乃、見えてねぇ。」

花宮が刺し刺ししい声を出した。

「からかってるだけだ。」

今吉さんが苦笑いをしているから花宮の言うことは本当らしい。
念のためリコを見ると大丈夫、と親指を立てていた。

「蘭乃先輩、大丈夫かよ。」
『大丈夫だよ火神、追っかけて来るゾンビ怖かったけど。』
「おい、パンツくらい見せろよ。」

青峰くんの言葉に怒った火神が頭をはたいていた。

「クソ、まだ腕痺れてる…。」
「流石に今のは効いたわ…。」

日向と玲央と黒子くんが合流した。

「黒子っちすごかったッス!ゾンビ全然気づいてなかったッスもん!」
「僕は影ですから。」

ドヤ顔で言う黒子くん。
影の薄さってたまにとんでもないところで役立つらしい。

「黒子すごかったぞー。」

木吉が黒子くんを撫でた。
黒子くんが二号みたいに見えた。


「で、大きな仕掛けってなんっすか?」
「これだよ。」

和成の問いに、赤司くんが手で体育館入り口の地面付近を示した。


A班のみんながサッとどいて、現れたのは…真っ白な…箱?

人一人分くらいの大きさがある。


『これ…なに?』

まさかこれって。

「棺桶…じゃねぇよな。」

和成がハハハと笑う。

「いや、恐らく棺桶だ。」

赤司くんが言い切った。
和成が黙る。


体育館入り口に置かれていたのは真っ白な棺桶だった。



(誰のための?)



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