黒バス脱出原稿

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どこか深いところに押し込められている感覚がしていた。
ふと体が軽くなって明るい光が見えて、瞼をこじ開けると目の覚めるような綺麗な金髪が見えた。

『黄瀬…くん…だ。』
「はい、湧さん…良かったッス…。」

しっかりと目を開くと棺桶を囲む和成、花宮、赤司くんの姿が見えた。
私の真上に陣取る黄瀬くんを突き飛ばして、和成が縋り付いてくる。

『あーもう、痛い痛い。』

「は〜な〜み〜や〜…。」
「げっ…。」

今吉さんのゼェゼェ言う声が聞こえて、何事かと起き上がろうとすると和成が手を貸してくれた。

「なんでワシとゾンビ置いて逃げたん?信じられへんわ…。さすがに肝冷えたわ。」
「今吉さんも逃げろよ。つーか後から誰か来んの分かってたし。」
「お前なぁ…ワシには全部…まぁええ…蘭乃起きたんか。」

起きたけど…なんでみんなそんな肩で息してるの?

『えっと…何があった…って痛いよリコ。』

今度はリコにぎゅうぎゅう抱きしめられる。

「黄瀬くんが一回キスしたんだけど起きなくてみんなで王冠探しに行ってたのよ!目が覚めてよかったわ!」

王冠?なにそれ?
え、あ、じゃあ黄瀬くん私に二回も…まぁいいや。

「さすがに今のはちょっと疲れたね…。」

氷室くんが床に座り込んで笑う。
取り敢えずこの不吉な棺桶から出ようと立ち上がると、赤司くんが声をあげた。

「見つけた、黄色いボールだ。」

さっきリンゴが出てきたところから今度は黄色いボールが出てきたらしい。
いつの間にかリンゴと王冠は無くなっていたようだ。

「これでキセキのアイテムは揃った。…なぁ、一旦休憩せん?」

ぶっ倒れている宮地さんを見ながら今吉さんが提案した。

和成に突かれて宮地さんは鬱陶しそうに手を払っている。

「俺と今吉と森山はもう引退してんだよ!」

そっか、三年生はこの三人だけか。
遠くの方で森山さんが死体と化している。

「じゃあ少し休憩しようか。」
「俺ら何も疲れてねぇけどな。」

どうやら誠凛と和成は私の護衛のために残っていてくれたらしい。
それにしても日向が機嫌悪そうなんだけど…木吉何かやらかした?
元々疲れが溜まっていたのか、黒子くんは火神に凭れ掛かって目を閉じていた。
宮地さんの隣に座ると和成が寄ってきて隣に座る。

「湧肩貸して。」
『膝じゃなくていいの?』
「目立つからいいわ。」
「高尾うぜぇ。」
「高尾ほんとそこどけ。」

首だけこっちに向けた宮地さんと森山さんにボロクソに言われてケタケタ笑いながら、和成が寄りかかってきた。

『和成くんは甘えたさんですか?』
「和成くんはオフモードでーす。」

そうですかそうですか。
宮地さんガン見しないで下さい。
緑間くんも奇妙な目で見ないでよ。

『そう言えばさ、この体育館どうやって開けるの?』

棺桶の衝撃が強すぎて、集めたkeyballをどうやって使うのかもすっかり忘れていた。

「湧、あんたアイライナー崩れて目尻のとこ凄いわよ。」
『嘘だ。リコもっと早く言ってよ。』
「湧来なさい。描いてあげるわよ。」
『え、玲央メイク出来るの?』
「それより俺はどさくさに紛れて黄瀬が湧に二回もキスしたのが腹立つ。」
「ちょ、宮地さんそれ嫉妬!!」
「別に嫉妬とかじゃねぇよ!」
「いやいや、俺悪くないッス!」

ゲラゲラ笑う和成を肩から払い落として、玲央のところまで膝立ちで歩く。
玲央に手を差し伸べられて腕に飛びつくと、赤司くんから注意された。

「蘭乃さん、実渕さんは男ですよ?」
『知ってるよ。』
「分かってないですね。」

苦笑する赤司くんの向こう側では、黒子くんのバスケットボールを使って火神と青峰くんが遊んでいる。
それを黒子くんと降旗くんが鑑賞している。
あの二人、休憩じゃなかったの?
ポーチからアイライナーを取り出して、玲央に促されて目を閉じる。

「湧ってアイライナーだけしてるのね。」
『さすがに部活中は落としてるけどね。誠凛自由だから。』
「湧ちゃん。」

突然前から原の声が聞こえる。

「口、うーってして?」
『うー…?』
「キス顔頂き〜!」

唖然として思わず目を開いてしまう。

「ちょっと原、あんたセクハラが酷いわよ!」

玲央が怒って私を原から隠してくれる。

『原って凄いよね、よくそんなセクハラ思いつくよね。』
「え?何?本気出して欲しいの?振り?」
「おい原ァ、いい加減にしろ。」

花宮が凄い形相で睨んだ。



「さぁ、もう休憩はいいかい?」

赤司くんの声に、みんながはーいと立ち上がる。
何か今の、久しぶりに普通の会話をした気がした。

「蘭乃さんも自分から体育館の開け方を聞いておいて、そのまま忘れるなんて酷くないですか?」
『あぁ…ごめん赤司くん。』

すっかり忘れていた。

「体育館開ける方法やねんけど、B班の奴は気付いてないかと思うんやけど…。」
「入り口の上だろ。」

今吉さんの言葉を遮って花宮が言った。
入り口の真上を見ると穴の空いている灰色の正方形の装置があった。


@AB
CDE
FGH



地味すぎて気づかなかった…。
棺桶のインパクトが強すぎた。

「花宮、短期は損気やで。」
「ほっとけ。」

今吉さんがニヤニヤしていて花宮が凄く不機嫌だから、さっきの時間に何かあったんだろう。
花宮も今吉さんには勝てないって本当なんだな。

「なんなんだあれは?…窪みのところに数字が書いてあるな…ひょっとしてこのkeyballがはまるのか?」

木吉が赤司の持っている赤いボールを見ながら聞いた。
確かにサイズはピッタリだ。

「そうだろうね。問題はこの3つのボールがそれぞれどこにはまるのか、だ。」
「えっと、会議室で言ってたじゃないッスか。」

黄瀬くんが難しそうな顔をしながら何かを思い出している。

『あぁ、鍵が入ってる"何か"と、その何かを開けるための"地図"?』
「それ!それッス!」

このボールとパネルは直接鍵に繋がっているわけじゃなさそうだけど。これは"何か"にあたる。
そして"地図"はというと。
この10個の数字が書かれた窪みの…ちょうど電話のキーパッドと同じ配列だ…その上に何か書いてある。

"AU"

「AUって書いてんな。」
「携帯の会社ッスか?」

いや、それは小文字だと思うけど。
AUって何なんだろう。
でも確実にこれがヒントだ。

「それがな、ワシも赤司も…誰もAUが分からんくてやな。」

誰もが難しそうな顔で考えている。
どう見ても青峰くんは頭が働いていないように見えないけど。

「AUって…どんなものならいいんですか?」

和成が今吉さんに質問した。

「そうやなぁ、モロに数字の羅列とか表してくれてると、赤司たちの背番号と桁数とか照らし合わせられるんやけどな。」

そっか、装備のページにはわざわざ背番号順で名前が書かれていた。

「なぁ、花宮分かんねぇの?」

原が聞いた。
花宮を見るとなぜかしゃがみ込んでいる。

「なんや花宮、腹でも痛いか。」
「黙れ…思い出して…ぁあ…どっかで。」

"思い出して"というセリフに全員が顔をあげる。
花宮には心当たりがあるのだろう。

「なんや花宮、思い出されへんのか。なんでもええから口に出してみ。」

今吉さんが鋭い目つきで花宮の横にしゃがみ込む。

「クッソ…授業で…それで調べて…。」
「何の授業や。」
「…理系科目だろ…。」
「何曜日のことやったんか分からんのか。」

『数字の羅列っていうと一番に思いつくのはπだよね。3.141592…ってやつ。』
「そうだね。」

赤司くんがハッと私を見た。
やりたいことの趣旨を理解してくれたらしい。
ただしこれは数字の羅列が答えでなければ、全く意味のない行為ではあるが。

「他に数列の羅列というと…しかも黄瀬の背番号を考えると最低でも8桁必要か。」

緑間くんが顎に手を当てる。

「人口とか…?」

降旗くんがおずおずと答えた。

『なるほど、AUだからオーストラリア?でも人口ってアバウトな数字しか知らないし、そもそも日々変わるよね。』

最低でも8桁。
もっとちゃんと定義されていて常に変わらない数列。

『8桁っていうと1千万か。オーストラリアって国の借金どのくらい?』
「蘭乃の目の付け所…。」

日向が呆れたような感心したような声を出す。
今吉さんは花宮の記憶を引きずり出そうとしている。

「いや、そういうふうに広げていこう。けどオーストラリアに拘ると負債額だけじゃなくてGDPの総額とか、他にも考えられるものが増えてしまう。」

赤司くんの言う通りだ。
しかもそれだって定数って訳じゃないし。
難しいな。

『うーん、1千万か…何でも買えそう…庶民にとっては十分天文学的な数字だよね。』

私が軽い気持ちでそう言った瞬間、花宮が突然立ち上がった。


「蘭乃!」
『な、っ…。』


花宮が大股で歩いて来るから思わず後退る。

「天文学的数字、正しくそれだ。」

腕を痛いくらい掴まれて顔を近づけられる。

『へ?』
「だからAUは天文学的数字なんだよ。1天文単位だ。」

1天文単位…?

「なるほど。」

赤司くんが口を開いた。

「地球から太陽までの平均距離か。」

何それ…そんな単位があったことすら知らない。
赤司くんもすぐにピンと来たみたいだし。
花宮が目を閉じてゆっくりと口を開いた。

「149597870000。IAU…国際天文学連合が定義したらしい。」

目を開けた花宮がニヤリと笑った。
お見事。
しかし難易度が高すぎないか。
これがゲームなら「AU」で検索をかけているところだった。

「さすが花宮。怖ぇぇ…。頭の中無駄な知識ばっかじゃん。」
「さすが花宮。バスケ界一の頭脳、やな。」

原と今吉さん花宮をからかっている。

「ハッ、あんたにゃ負けるぜ。原は一生黙ってろ。」
「…単語が全部暗号に聞こえるッス。」
「黄瀬ちんはバカだから理解しなくていいよ。」

黄瀬くんがむっくんに酷いッスと喚いている。

『お疲れ。』

解かれた花宮の腕をポンポンと叩くとバァカと言われた。

「まだ正解かどうか決まってねぇよ。」
「赤司が4番だから4番目の数は0、青峰が6番だから8、黄瀬が8番だから9か。」

木吉が手を使いながら数える。

. . .
149597870000

あれ、赤司くん、あの窪みのところに手が届かないんじゃない?
いや、でもダンク出来るし…。

「蘭乃先輩、今思っていることを言ってはいけませんよ。」
『く、黒子くん!?ビックリした…分かってるよ。死にたくないし。』

間違っても赤司くん手が届かないんじゃない?なんて命知らずなことは言わない。
そんなことより黒子くんに思考を読まれた…。

「よし、じゃあボール入れていこか。青峰も、頼んだで。」
「Gだろ。」

赤司くんが少し助走を取って飛び上がり、赤いボールを⓪の窪みに叩きつけた。
勢いの加減は出来なかったらしい。
カチッと音が鳴る。

「正解のような音がしたのだよ…。」
「これ体育館開いたら脱出完了?」

和成がワクワクしているがそれはどうだろう。
期待しないでいようと思う。
青峰くんが軽くジャンプしてボールを嵌めた。
またカチッと音が鳴る。
黄瀬くんもHにボールを入れた。

ガチャンと大きな音と共に体育館の鉄の扉が揺れた。
開いた。
みんなで顔を見合わせる。

「さぁ、入るで…。」

今吉さんが扉に手をかけた。




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もうすぐ一旦完結。
脱出への道筋は完璧ですが花宮落ちへの道筋が…。
拍手コメントいつもありがとうございます。




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