黒バス脱出原稿

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緑間くん以外は全員スリーの線上に立つという、3Pシューターとしてのプライドを見せた。
男の子だなぁって思う。
しかし、全員が綺麗にシュートを決めたが何も起こらず。

「…何が足りないんだろう。」
「キセキがシュート打つか?」

今吉さんの提案で、今度はキセキの五人が背番号順にボールを打つがそれでも何も起こらず。
私が鍵の絵に思いっきりボールを叩きつけても何も起こらず。
他に何かないかともう一度体育館倉庫や体育館の二階を捜索しても何も見つからず。

個人的にはそもそもこれで鍵か何かが出てきてもどこに使うのか、と聞きたいところだが無難に正面玄関かもしれない。
それは口に出さずにいた。
火神が焦っているのが分かる。
赤司くんはもう探すことをやめて何かを考えている。
今吉さんは腕を組んではいるものの、何かを考えている様子ではない。

何をしなければ、何を探さなければいけないか分からない状況で、その何かを得ようとするのは辛いものだ。
その状況を越えて謎を解くのが脱出ゲームの醍醐味なのだが、今はそんなことを言っている暇はない。

なんせ体がかかっているのだから。


火神が焦れた。

「くっそ、もうちょっとで出れるだろ!」

黒子くんのボールをバックボードに叩きつける。
跳ね返ってきたボールをキャッチすれば、火神が駆け寄って来て小さな声ですんません、と言った。

『んー…どうしたもんだかね。』
「早く出たいのに困ったわね。」
『私さ、小金井と一緒に水戸部先生のお料理教室やろうねって言ってたのに…早く出ないと。』
「湧…あんた本当に焦ってる?」
『こう見えて本当に焦ってる。』

たぶん私が一番怖いのは、このままみんなのやる気が喪失してしまうこと。
リコと二人で黒いボールをパスし合っていたら、突然そのボールが消えた。

「ボード、表示が変わりましたよ。」

スティールしたのは黒子くんだった。

「きゃぁぁあ!ビックリした!ってボード?」

リコの悲鳴に驚いてみんながこっちを見た。
ボードを見上げると、左に寄っているせいで不自然に空いていたDの右側のところに、さっきまでなかった文字が現れていた。

@ABCD❻

黒く塗り潰された丸の中に白文字の6。

「えっ…いつから?」
「さっき火神くんがボールを叩きつけた時に変わりました。」

火神がボールを叩きつけた時?
でも私が叩きつけた時は何も変わらなかった。
叩きつけた場所?
いや、火神のボールは現れた数字のあたりじゃなくてもっと左上の方に当たっていたはず。

じゃあ、もしかして…

『真の光、運命の影……。』

見上げると火神と目が合った。

『火神っていう光があの黒い…影のような6を出したんだ、それに…黒子くんは幻のシックスマン…!』
「光が当たって初めて影が存在するように、強い光があるからこそ僕の影は力を発揮する。」

黒子くんの目は真っ直ぐにゴールを見ていた。

「なるほど…凝ってあるね。」

赤司くんが深く頷きながら言った。

「どこまでもバスケが関係してたってことね。」

玲央が赤司くんに笑いかけた。

キセキが開いた扉の向こうにある鍵を手に入れるのは光と影。

『1から5は火神が入れて、最後その黒いボールで黒子くんがシュートすれば…鍵が手に入る?』
「それしかないわ。」

今吉さんがホッとしたような声で言った。
火神が期待に満ち溢れた顔で頷いた。
今度は私も期待しようと思う。
これで出られるんだ。
二階を捜索していた森山さん達も降りてきてみんながゴール下に揃った。

「黒子、外すなよ。」

降旗くんが真剣な顔で言う。
黒子くんも真面目な顔で頷いた。

「大丈夫です、たぶん。」


いつの間にか私の隣は赤司くんがいた。

「最後はやはり火神と黒子なんですね。あの時もそうでした。」

そう言う彼の顔を盗み見る。
案外普通の顔をしていてホッとした。

『そうだね。』


どこかに私たちの物語があるとしたら黒子くんと火神が主人公なのかもしれない。

そしたら赤司くんは最強の敵役だ。


火神の足元に5つのボールを集める。
二人ともフリースローラインから打つらしい。
火神の顔が固くなってる。
外してもまたやり直せばいいと思うんだけどな。

火神が1番のボールを持って深呼吸した時、何かが聞こえた。
咄嗟に体育館の入り口を見つめる。

「何の音…今の…。」

リコの声に応える様に、ガタン!と体育館の扉が凄まじい音を立てた。

『なっ…。』
「火神速く入れろ!」

宮地さんが怒鳴った。
体育館の入り口をポカンと見ていた火神は、弾かれたようにゴールに向き直ってボールを放った。
ボールが危なげなくリングを通る。
大丈夫、平常心。
火神が二つ目のボールを拾い上げた時、一層強く体育館の扉が叩かれ、次の瞬間それはズルズルと開き始めた。
ゾンビだきっと。
ゾンビが体育館に入って来ようとしている、自力で。

「ゾンビか…でもあいつらわざわざ扉なんて!!」

森山さんの叫びをあざ笑うかのように扉はどんどん開く。
ゾンビが何も考えずに、何気なく扉を開くことは今までもあったかもしれない。
けどこうやって、中に私たちがいると理解しているかのように、わざわざ鍵のかかった重たい扉を開けようとするなんて。
火神が3つ目のボールを放った。

その時、ついにゾンビが体育館に姿を現した。

「あ…っ……!」

黄瀬くんが息を呑む。

「レベル10よ!!」

リコが叫んだ。

レベル10。

A班はまだ8までしか出会ったことがないと言っていた。
完全なる未知。
今までのゾンビとは違う、明らかにこちらに向けての強い執着を感じる。

「確かにレベルが上がるにつれて、何と無く知性のようなものを感じていた…!」

赤司くんが言う。
緑間くんとむっくんが、ゾンビと私たちの間に立つ。
ゾンビがズンズンと歩いてくる。

突然、私の前に人が立った。

『花宮…!』

隣に立とうとすれば、右腕で強く制された。

「何があっても俺の前に出てくんな。」

ゾンビを睨みつけているその横顔を、信じられない気持ちで見つめる。

花宮が私を庇おうとしている。


火神が5つ目のボールを入れた時、ゾンビは急に走り出して緑間くんとむっくんに体当たりした。
二つのシールドがゾンビを阻む。
シールドがゾンビに何か効果があるのか、ゾンビはよろめいて暫く動かなかった。

その間に黒子くんがボールを放る。
綺麗なループを描いたボールが、ゴールに向かって真っ直ぐ落ちる。
ゾンビがまた体当たりしてくる。
私を制していた花宮の右手が私の肩を強く掴む。
黒子くんのボールがリングの内側を掠る。
そしてむっくんがシールドでゾンビをぶん殴った瞬間、視界が真っ白な光に覆われて、体がふわりと浮いた。





元の世界に帰れるんだという直感。
鍵が得られるんじゃなくて、あそこを攻略することで元の世界への鍵が開くってことだったんだ。
つまり出口はどこかの扉じゃなくバスケのゴールか。
どこかに引きずられて行く感覚に恐怖はなかった。

花宮が私の腕を痛いくらいにずっと掴んでいたから。








ハッと気がつくと辺りは真っ暗で、少し暖かかった。

「ここ、帝光じゃねーか…。」

青峰くんが驚いたように言う。
振り返ると見知らぬ学校があった。
私たちは全員帝光中学校の門の前に帰ってきたらしい。

そう、帰ってきた筈なのに。

どうしてこんなに空気が気持ち悪いんだろう
みんな不安そうな表情を浮かべている。
緑間くんたちはもうシールドを持っていない。
ふとパーカーのポケットを見ると携帯はゲームアイテムのまま。

「まだ終わってねぇぞ!」

花宮が怒鳴った。

「俺、最後にシールドでゾンビ殴ったからまだこっち来れないんだと思う…!」

むっくんが焦ったように赤司に言った。
ってことは遅れてあいつも…

「走れ!俺の家に逃げ込みましょう!」

赤司くんが叫んで一番に走り出した。
何から逃げるっていうのよ、だってゾンビがこっちの世界に来るはずないじゃない、そんなこと…ってもしかして私たち携帯を取り返すミッションし忘れて出てきた…つまりミスして出てきたからバッドエンドなの?
頭の中でごちゃごちゃと考えながらも走ろうとしたら靴が変わっていた。
上履きじゃなくて元々履いていた革靴。

え、走りづらい…

「湧何やってんだ!!後ろ来てんぞ!くっそ…青峰ぇ!」

また下の名前、と思う暇もなく、花宮に抱き上げられてそのまま投げられる。

『うっ……!』
「はぁぁあ?!」

ドンっとぶつかったのは青峰くんの胸板だった。
おぉ、と今吉さんが声をあげた。

「くっそ、てめぇ後で揉ませろよ!」
『はぁあ?!』

揉ませるって何を!なんで火神じゃないの!とか文句言える訳もなく、必死で青峰くんにしがみつく。
ゾンビは私たちとだいたい同じ速度で走れるらしい。
距離は広がらないが縮まらない。
一番後ろを走る宮地さんとゾンビの距離は8mくらいだろうか。

「湧ちゃん何カップ?!」

原が叫ぶ。

「おい、まぁまぁあるんじゃね?」

青峰くんが感触で測ろうとしてくる。
なんで、こんな、今夜一番のピンチに、アホみたいな会話をしなきゃならないんだろう。
原が、俺死ぬ前に湧ちゃんのカップ数知りたい!と叫んだからついに花宮がキレた。

「原ァ!黙って走れ、ぶっ殺すぞ!」

まるで宮地さんだ。
リコが限界だったらしく火神に抱え上げられていた。
木吉の膝は大丈夫だろうか、普通に走ってるみたいだけど。
黒子くんも随分苦しそうだ。

『ねぇ青峰くん、ゾーン入ってよ。』
「は?」
『ゾーン入ったら黒子くんも一緒に持てるでしょ?』

私を抱えて走っているのに人より速く走れる時点でかなり凄いんだけど。
青峰くんが振り返って黒子くんを見た。

「テツ!まだ走れんだろ!」
「はいっ…!大丈夫です…!」

黄瀬くんが一瞬立ち止まって黒子くんの手を掴んだ。
大丈夫そう。

「赤司!家どこっ…!」

ビビりすぎて走れと言われる前から走り出すという完璧なフライングを決め、先頭の赤司くんの隣を走っている降旗くんが叫んだ。

「もう少しだ!そこを曲がれば!」

赤司くんのスピードが上がった。

「これ部活よりしんでぇ…!」

45キロくらいの荷物を持って走ってるんだから相当しんどいだろう。
青峰くんには申し訳ない。

「着いたぜ…っ。」

その言葉に青峰くんにしがみついたまま、首だけで振り返ってみると豪邸があった。

『これ?!』
「あぁ、はぁ…でけぇだろ…。」

青峰くんがなぜか誇らしげに言うが、まぁ赤司くんの家だから当たり前か。
赤司くんが門を開け、扉の横の指紋認証に指を突っ込む。
どうしても時間がかかる。
青峰くんに地面に降ろしてもらう。
和成が私の手を取った。
緑間くんが門の外に置いてあった鉢植えを、あの独特なシュートと全く同じように放った。
鉢植えは後から走ってきた日向や黒子くんたちの頭上を越えてゾンビの頭にクリーンヒット。
立ち止まるゾンビ。
緑間くんってボールじゃないものを動いている標的に当てることも出来るんだ、と驚愕していたらドアが開いた。

「急げ!」

赤司くんが叫ぶ。
和成に思いっきり手を引っ張られてそのまま玄関へとなだれ込んだ。





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