黒バス脱出原稿

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俺らは忘れかけていたんだ。



あの日の夜のことを。





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俺は降旗光樹、誠凛高校二年。
あのWC後に起こった、脱出ゲームの世界に閉じ込められるっていう謎の事件を体験した人の1人だ。

あの日、学校から無事脱出して何とかゲームもクリアし、俺たちは赤司の家に泊まった。
そして翌日からみんなそれぞれ普通の生活に戻っていった。
木吉先輩はアメリカへと行ってしまった。
花宮さんは時々蘭乃先輩を迎えに誠凛まで来ていたようだけど、それもIHが近づくにつれて少なくなっていった。
一度だけ、主将に頼まれて「花宮さんとはどうなったんですか?」と黒子と一緒に聞いたことがある。
蘭乃先輩は「IHが終わってから決めようと思ってる」と笑顔で教えてくれた。
つまりインハイで霧崎がどういう戦い方をするかを見るってことだ。
あとこれは俺だけに教えてくれたことなんだけど、蘭乃先輩は花宮さんのこと「許せないって思う気持ちだってあるんだよ。」って言ってた。
そう言って見せた蘭乃先輩の困ったように笑った顔は、いつも俺が部活で見る快活な笑顔とは違って、恋する乙女ってやつの顔だったのかもしれない。
でも女の子が花宮さんのようなタイプ好きになるの、俺なんとなく分かるかもしれない。
好きになったらすごいハマっちゃいそうな、中毒性みたいなものがありそうな人だ。

まぁそんな感じで俺たちは順調に現実に飲み込まれていって、あの変な学校や怪物は夢だったんじゃないかって思う時もあった。
その度にトークアプリにある赤司の名前を見て、やっぱりあれは現実だったんだよなって思ったりしてたけど。
とにかく現実だったのは間違いないけれど、遠い夢のような、そんな感覚になっていたのに。




その日もいつも通りキツイ部活を終えて……確か部室に俺は1人だった。
鍵を閉める係だったから、ベンチから立ち上がって……ダメだ直前のことが思い出せない。

とにかく、ふと"目が覚めた"。
目が覚めたら、見覚えのあるあの体育館の前に倒れていた。
嘘だと、夢だと思いたかったけど、あまりにリアルでそんなこと思えなくて。
またここに、脱出ゲームのあの学校に、飛ばされたなんて、まさか、みんなも飛ばされてるよな…?
俺だけなんてことないよな…?
不安に思いながら制服のズボンのポケットに固い感触がして手を突っ込むと、まさかの携帯電話。俺の。
でも電源がつかないから使えない。
ゾンビ出たらどうしよう、俺1人でなんて倒せないのに…!
確か前回は赤司とすぐ出会ったんだっけ。
二つの班に分かれて行動してる時も俺はずっと赤司にくっついて回って…。

「あかしぃ…。」

一度呟いたらだめだった。
正直赤司でも火神でも日向先輩でも誰でもいいんだ。
誰かに会いたい。

「あかし…助けて…あかし…どこだよぉ…。」

1分くらいだろうか、俺は情けなくもそう嘆き続け、怖くてその場から動けなくて、ただ座り込んでいた。
そんな時、前から誰かが歩いてくる足音がした。
この重量感、怪物じゃない。
真っ暗な廊下の向こうから現れたその人を、俺は涙目で呆然と見ていた。

絶対王者のルビーのような瞳が近づいてくる。

「うそ…。」


「随分と惨めな顔をしているな。」


後から思い返したら本当にバカみたいな感想なんだけど、その時は思ったんだ。





赤司のこと、神様みたいだって。








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脱出ゲーム2です。
どうぞお付き合い下さい。
待って下さっていた方、本当にありがとうございます。
1の方の番外編を読まないと分かりづらいところが出てくると思うので、是非先に読んで下さい。



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