黒バス脱出原稿

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「俺は目覚めた時、体育館の近くでした。そして目覚めてすぐに前回と同じところだと気付き、確かめるために体育館に向かいました。」

チラリと視界に入った花宮は腕を組んで目を閉じていた。
横顔を見ると骨格が綺麗なのが分かる。

「体育館前には前回と全く同じ、白い棺と三色のボールがはまったままのパネルがありました。…あぁ、それから俺の名を呼びながら座り込む光樹もね。」
「そ、それは言うなよ!!」

真っ赤な顔をした降旗くんを見て赤司くんはフッ、と笑った。

「体育館の扉は開いていました。それから光樹を連れて正面玄関に行きましたが、やはり扉は開かなかったです。」

報告は以上、とばかりに赤司くんが椅子に座る。

「俺からもいいかな。」

手を挙げたのは氷室くん。

「みんな気づいてると思うけど、前回よりゾンビが増えている。」

やっぱりそうだったんだ。
多いな、とは思っていた。

「俺は目が覚めてすぐに緑間と会ったんだけど、ここに来る間に二人で3体ほど倒したよ。緑間の話ではほとんどのゾンビのレベルが4か5くらいみたいだね。」

私は前回、リコと違う班だったからゾンビのレベルを言われてもピンと来ないけれど、赤司くんや今吉さんが頷いているから本当なんだろう。
ゾンビが増えたということはゲームの難易度が上がったということか。

「正直言うて、現時点で何を目指して脱出していけばええかワシも全く見当がついてないねん。」

せやけど、と今吉さんは立ち上がった。

「一つ、みんなに謝らなあかんことがある。赤司もな。」

謝らないといけないことって何?
今吉さんが立ち上がった。
バツの悪そうな顔をしている。


「実はな、"もう一回"があること、ワシら知っとってん。」


……え?

鳥肌が立つ。

「ほんま堪忍やで。みんなに言うた方がええやろかって悩んだんやけど、赤司と話し合って、いつ来るか分からんこのゲームに怯えて日常生活に支障きたしたらあかんって結論に至ってな。黙っとくことにしてん。」

今吉さんの言うことは正しいと思う。
正しいとは思うけど…いつ知ったの?
どこで、いつから知ってたんだろう。

「は…どういうことだよ…。」
「征ちゃん…私には教えてくれてもよかったのに。」

日向と玲央が呆然と呟く。
思わず周りを見渡すと、愕然とする黒子くんや森山さんやむっくんがいる一方で。
納得のいった様な顔をする人たちが数人。

「なるほどな、だから受験終わった後に近接戦術かじれとか言ってきたのかよ。」

宮地さんが呆れたように言った。
自分は大丈夫だから教えてくれてもよかったのにと言いたげだ。
納得のいっていた数人は、赤司くんや今吉さんから事前にそれなりの準備を促されていたメンバーだろう。

「そうだ、実は僕も来るべきこの日に備えて戦い方を身につけたんだよ。君たちに黙っていたことは申し訳ない、分かってくれ。」

赤司くんが軽く頭を下げた。
別にそれはいいんだけど。
だって、私はいつまたゲームに飛ばされるか分からずに不安な生活を送るのは嫌だから。

『あの、いつどうやってそれを知ったんですか?』

私の質問に、俺もそれが知りたいと同意の言葉を宮地さんが飛ばす。

「赤司の家で最後のゾンビ倒した時のこと覚えてるか?あの時、ワシがゲームクリアの白い紙拾ったやろ。」

そう、確か今吉さんがその紙を掲げて、最後にそれは風で飛んで行ってしまったんだっけ。

「その紙の裏にな、書いとってん。"to be continued"ってな。」

よく、ドラマやアニメの最後に書いてある言葉だ。
紙の裏に書いてあったということは。

『今吉さんの後ろにいた赤司くんだけには見えたんだ…。』
「ご名答、ですね。」

赤司くんが頷いた。

「マジかよ〜!!なんで続いてんだよ!今回で終わらせる方法とかないの!」

和成が机に突っ伏した。
目覚めた時、彼はまた一人だったのだろうか。
…っていうかそれより。

『和成…それ私のカチューシャ…。』

いつの間に盗み出したのやら。
和成の頭についている白いカチューシャは私のものだ。
妹にもらった赤いカチューシャはどこにいった。

「わり、この間部屋行ったらあったから、使ってなさそうだし借りた。」

和成が小声で謝ってくる。
ちなみに全く謝る気がないのは知っている。
っていうかいつ勝手に入ったのよ、怖いよ。

「普通、脱出ゲームでもう一度やらされるってことはゲームがアップデートされたか、やり残したことがあったとかだろ。」

和成と話している間に会議は進んでいく。
花宮がイライラしたような声を出す。
大丈夫かな、花宮も焦ってるのかな。
今吉さんがいつもより笑みを濃くしているからたぶん大丈夫なんだとは思うんだけど。

「アップデートする度に呼ばれるのは困るっス。」
「まだ怪我人が出てないからいいですけど。」

黄瀬くんと黒子くんが心配そうな声で言う。
今回はゾンビの量も多いし、もしかしたら誰かが怪我することもあるかもしれない。

「そうですね、今回は根本的な解決を目指しましょう。」
「ゲームならアプリ壊せば?」

むっくんが赤司くん聞いた。
なかなか過激派だ。
赤司くんが一瞬考えこむそぶりを見せたのが恐ろしい。

「とにかくヒントがない。次の一歩をどう踏み出すか。何か意見はないですか?」

赤司くんがみんなを見渡して尋ねる。

「そもそもここはどこなのだよ。学校なのは確かなのだから学校の名前や、ちゃんとした地図などを知りたいのだよ。」
と緑間くん。

「この間よく見なかったところは本当にないのか?まだ知らないところあるんじゃないか?」
と森山さん。

『前回と全て一緒とは限らないかもしれませんね。また始めから探し直します?』

青峰がうんざりした顔をする一方で、ワクワクした様子を見せ始める隣のコガ。

「じゃあやで、学校の地図なんかは職員室とか入り口とかにあるやろ。そんなんも探しながらまた一から探し直すってことでええか?」

みんなが頷く。
現状、そうするしかないのだ。
何も分からないのだから。
前回は、目の前の課題をクリアすることにあまりにも急ぎすぎていたのかもしれない。

「ゾンビ増えとるけど二つに分かれていけるな?」

今吉さんが氷室くんや青峰くんを見た。
氷室くんは問題ないと頷く。

「武器ねぇけど大丈夫か?テツのボールもねぇし。蘭乃さんも。」

青峰が眉間に皺を寄せて言った。

「どうやろ、火神おらんしな。小金井と水戸部はどうや?戦えるかはバスケの強さとはちゃうからな。」

A班からはリコと火神が抜けている。
水戸部とコガはやっぱりセットにする必要があるからA班に入ることになるだろう。

『コガは体が小さいけど、体力と純粋な運動神経は誠凛の中じゃ火神と木吉の次ですよ。戦力になると思います。』
「えぇ!嘘だ!」

コガはびっくりしているがこれは本当だ。
リコが去年のWCの時点で、体力と運動神経は宮地さんに匹敵すると言っていた。
コガは出来る子である。

「伊月はどうや?」

今吉さんが私を見てくるが伊月のことはよく分からない。
ただ、B班から抜けた木吉と比べればかなり落ちるだろうけど、木吉は怪我人だったし。

「ところでやで、B班木吉おらんやん。リーダーおらんなってもーたな。」

凄くニヤニヤしながら今吉さんが言う。
その顔を見て花宮がガタンと座り直した。
っていうか別に木吉、特にリーダー的な役割は果たしていないような。

「そやから、ワシがB班移るわ。」
「なんでだよ!!」

花宮の絶叫と原の爆笑。

「今吉が来てくれると心強いけどな。」

森山さんが賛成した。

「あの人闇のオーラとかで倒せそうじゃね?」

和成が若干失礼なことを言ってくるから曖昧に笑う。
笑顔だけで殺せるタイプではあると思うけど、顔だけで殺せるなら赤司くんと宮地さんもなかなか。
班分けは総入れ替えしても良いと思うのだけど、何故か勝手に話がまとまったらしい。

「ほんなら三年同士のチェンジで森山とワシが交代。小金井と水戸部はA班。伊月はB班でどうや?」

整理すると。

A班
赤司、緑間、宮地、日向、黒子、降旗、水戸部、小金井、青峰、森山

B班
今吉、花宮、原、高尾、黄瀬、実渕、氷室、紫原、蘭乃、伊月



戦力的にも問題ない。
ただ前から思っていたんだけど、水戸部とコガ並みにセット感のある緑間くんと和成を離してもいいのだろうか。
だってこの2人、水戸部たちよりよっぽど"二人で戦う"ことに慣れていると思うんだけどな。
あ、でも赤司くん的には緑間くんがいてくれたほうがやりやすいとかあるのかもしれないけどね。

「蘭乃先輩、ボールないですけど本当に大丈夫ですか?」

突然黒子に尋ねられて目が泳いだ。

『あー、大丈夫。問題ないよ。』
「問題大アリだろ。」

宮地さんにバッサリと斬り捨てられる。

「蘭乃ここで待機しとくか?」
『そっちの方が怖いんですけど…。』
「やんなぁ、っていうか蘭乃連れてかれへんのは痛いやろ。」

自分が邪魔になることは考えていなかったけど、今回はそういうこともある訳だ。
きっと誰も邪魔なんて言わないと思うけれど。

「大丈夫ですよ。俺がいます。」

氷室くんが素敵な笑顔で微笑んだ。
こんなにも綺麗な笑顔なのに言っていることはかなり逞しい。

「うわー!氷室さんそのセリフ似合う!俺が言いたかったのに!」

和成が無駄に喚いた。


「ゾンビには知性がない。」

突然、花宮が口を開いた。
みんなが驚いて花宮を見る。
この展開、前もあったような。

「つまり、目の前にいる攻撃対象に向かって繰り出す攻撃のパターンはかなり単純な筈だ。この間はあまり闘う機会がなかったから分からなかったが、今回は恐らくあいつらの次の一手を完全に読めるまでになる筈だ。」

パスコースをほぼ100%記憶し、全てのボールをスティールすることに成功するような彼からしたら造作もないことだろう。

「ただし、頭で分かってても実際に倒せるかは別だが。」

眉間に皺を寄せて苦々しく吐き捨てる花宮。
バスケットボールをスティールするのと、ゾンビの攻撃を交わして尚且つ倒すのとでは難しさが違う。

「本当に全てのゾンビのレベルが5か6くらいなら花宮さんも充分倒せると思いますが。逆にそれ以上だとここにいる殆どの人が一人で倒すことは困難ですし。」

赤司くんが首を傾げて言うが、その通りだと思う。

「けど花宮の言う通り分かったとして…俺は分かりそうにないけどな。具体的にどうすればいいんだよ。」

日向が首を捻る。

花宮の様子が自分の知っているいつもの花宮と違う気がした。

1年前のWC予選、霧崎との試合に勝った時、誰もが本戦出場に歓喜する中、私は霧崎第一の選手たちを見ていた。
花宮たちが負けをどう感じるのかが知りたかった。
その時に見た花宮と、今の花宮の感じが同じだ。
同じっていうのは少し大袈裟かもしれないけど。
どうして希望のある話をしているのに負けた時と同じ顔をしているのだろう。
花宮は何を受け止めて生きてきたんだろう。

でも、今それを気にしていても仕方がない。

『日向、バスケとは違うよ。ゾンビには選択肢を与えた方が良い。その中から一番単純な動きをしてくるってことだもんね。』
「なるほどな、後ろから完璧に奇襲出来ん場合を除いては下手なことせんで真正面からスタンダードに攻めてみようっちゅう訳か。人間と対峙するんやない、何も裏の裏を読む必要はないんやから。」

もちろん日向の嘆き通り、これはかなり余裕のある人間しか関係ない。
氷室さんや青峰くんだと考えながら戦う余裕があるだろう。
でもそれが降旗くんや私だと、とにかく無我夢中で戦うしかないのだ。

「ほんなら、また二班に分かれて一から捜索のし直しや。今回はゾンビ多いから気をつけて行くようにな。」

今吉さんがパンと手を叩いてみんなに立つように手で促した。

「じゃあA班集合。」
「B班こっちこっち〜。」

赤司くんと今吉さんの方にみんなバラバラと分かれた。



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