黒バス脱出原稿

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今吉さんの方に向かおうとすると、後ろから背中を叩かれた。

「湧!今日髪くくってるんだな。」

和成が肩に腕を回してくる。
けっこう強引だし重い、ちょっとは遠慮してほしい。

『部活終わってそのままって感じ。』
「まぁ夏はけっこうポニーテールだもんな。」

ちょっと低めのポニーテールは夏の標準スタイルだ。

「ワシもポニーテール好きやで。ほな作戦決めとこか。」

今吉さんの言葉に和成と原が吹き出した。
そんな今吉さんは黒いVネックの無地のTシャツがちょっとセクシー。

「ワシらB班は北棟担当やな。取り敢えず三階から下に降りていくことにしよか。途中で会議室寄ることも出来るんやし、ゾンビ全部倒すくらいはしようと思うねんけどどうや?」

今吉さんの言葉に氷室くんが頷く。

「どうして戻されたのかが分からない以上、出来ることは全てした方がいいね。」
『足引っ張らないようにしなきゃね。』

氷室くんが大丈夫だよと笑ってくれた。

「ゾンビを全て倒しながらおかしなところはないか見る。」

伊月が確認するように呟いた。

『どう?慣れた?』
「うん、ゾンビはさっき倒したよ。日向と森山さんと一緒だったんだ。」

伊月ももうゾンビは倒せるんだね。じゃあ安心かな。

「実は…ちょっとだけワクワクしてるんだ。」
『ワクワク?』
「うん、みんなが言ってたあの世界に俺も来たんだって。危険なのは分かってるけど、ゲームなんて言われたらワクワクするし。」

そう言って悪戯っぽく笑う伊月は子供のような目をしていた。

「おい、大丈夫か?」

私の背中に手を置いて話しかけてきた花宮は制服姿だ。

『え?大丈夫だよ?』
「そうか。」

花宮の目線が刺さる。
用はないけど顔を見に来たって感じだ。
インハイが終わってから会うのはこれが初めて。
花宮のことはインハイが終わってから考えると本人にも周りにも話していたのに、それを考えるのを後回しにしていたせいで会っていなかったのだ。
誘いを何回か断っていたから、少しだけ面と向かって顔を見づらい。


「それじゃあ俺たちは行ってくるよ。幸運を。」

赤司くんの班が会議室を出て行く。

「宮地、ワシの代わりにしっかりやってくれや。」
「ああ、当たり前だろ。」

宮地さんが今吉さんの肩を叩いて出て行く。

「湧、気をつけろよな!水戸部も心配してるぞ!」

宮地さんの背中を見ていた私は慌ててコガに手を振り返した。
二人とも私と会話してる花宮に興味津々って感じの顔。

「よし、ワシらも行こか。」

赤司くんたちの班に続いて私たちも出て行く。
明るい会議室から一歩出ればそこは薄闇が広がる危険地帯。

暗い廊下をみんな黙って歩いていく。
前回の方がみんなの雰囲気が軽い感じだった。
ゾンビが増えてるという情報が緊張感を産んでいるのかな。
まさか木吉や森山さんがいないからって訳じゃないと思うけど。
振り返ると原と眼が合って、その口元がニヤリと弧を描いたから彼はいつも通り。
頼りになるなぁ。

三階への階段を登っていく先頭の今吉さんは花宮と何か話しているけど、ここからは聞こえない。
今のところゾンビも現れないし、と私はだいぶ気持ちが緩んでいたと思う。

踊り場から5段くらい登ったところで突然誰かが叫んだ。


後から聞いた話だと、階段を上る私たちに向かって突然ゾンビが下りてきたらしく、全員が思わず一段下に後ずさったそうで。

誰かの叫び声に顔を上げた瞬間だった。
ドン、と体に衝撃が走ってそのまま後ろに倒れた。
足が階段から離れるのが分かるけどどうしようもなくて。

水戸部、コガ、いきなりこれだよごめん。

反射的に頭だけでも守ろうと、右手で後頭部を抑えた瞬間、背中から踊り場に叩きつけられた。
脳が揺れる感覚。
目の前が真っ暗になって息が詰まった。
意識がブラックアウトしかけるが上手く呼吸が出来ない恐怖が勝ったようで。
思わず身を捩ってうつ伏せになり、酸素を求めて喘ぐ。
抱き起こそうとしてきた誰かの手を払いのけた。

『はぁっ…っ、ごほっ、ごほっ…!』

息を思いっきり吸い込んだ瞬間に五感が戻った。
冷たい床に額を押し付けて全身の痛みが去るのを待つ。

「蘭乃…?!どないした?ちょ、ほんま、いけるか?!」

両腕で何とか地面を押しのけて体を起こすと、本当に心の底から焦っているのが分かる今吉さんの顔。
思わず苦笑しかけてまた噎せた。

「湧?湧!頭打ったか?!」

今吉さんの隣にいる花宮がバカみたいに大きな声で聞いてくる。
こんな大声、花宮らしくない。いや、試合中はけっこう大声で喚いているシーンあったっけ。

『打ってない…。』
「本当か?!脳震盪起こしてたら大変なことになるぞ!」
「落ちた時凄い音したで?どこぶつけたんや?落ちる直前の記憶あるか?」

今吉さんの両手がこっちに向かって不自然にふわふわと宙に浮いている。
たぶんさっき私が払いのけた手だ。
代わりに花宮が息の荒い私の背中をさすってくれる。

『背中です。落ちた時、頭打たないように曲げてたから首も痛い…。』

重い頭痛のような感じだ。
息は整ってきた。
直前の記憶はバッチリ残っているし脳震盪はなさそう。

「どうする?休むか?」
「何言ってんだ、すぐ会議室に帰らせます。」
『帰らない。』

花宮の言葉を遮った。

「湧、大丈夫?」

伊月の冷静な声に顔を上げる。
私が落ちた原因らしいゾンビは氷室くんがやっつけたらしい。
みんなが心配そうに私を見ていた。
黄瀬くんが泣きそうな顔をしている。

『ほんとに大丈夫だから。今吉さん手、払いのけてごめんなさい。』
「ワシも闇雲に触ろうとして悪かった。」

よいしょ、っと立ち上がる。
慌てて飛んできた和成が両手を差し出してくる。
まだちょっと呼吸しづらいけど本当に大丈夫そうだ。
胸に手を置いて深呼吸してみる。
花宮が手を私に見せてから、その手でゆっくりと私の首に触った。
ざわりと鳥肌が立つ。悪い意味じゃなくて。

『ごめん、花宮。』
「何に謝ってんだ。行くんだろ?」

花宮の手がゆっくりと確かめるように首を撫でる。

『うん、ありがとう。』

大丈夫だよ、という意味を込めて微笑んだら肩を竦められた。

「よっしゃ、じゃあ上がろか。気分悪なったら言うんやで。」
『ほんとごめんね。私が前向いてなかったから。』
「仕方ないわ。予想できなかったもの。」

階段の真ん中の方に立っていた玲央が差し伸べてくる手を取る。
もうちょっと慎重に行かないと今回の脱出は割と危険かもしれない。
っていうか心配をかけてしまって申し訳ない。
もしかしたら推理ゲーム的な要素よりも、前回氷室くんが言ってた格ゲーの要素の方が強かったりして。
なんてちょっと嫌な想像をしながら三階にあがる。
前回は凄く寒い冬だったから、快適な温度な今回の方がみんな動きがいい筈。軽装だし。期待しよう。

「廊下の向こうの方にゾンビいますよ。」

角から廊下を観察していた先頭の和成が小さな声で知らせる。

「静かに、曲がってすぐの教室入るで。」
「氷室は最後に来い。」

氷室くんが頷いて後ろに下がる。
前回はいつも先頭が氷室くんか花宮で、一番後ろは木吉が守ってた。
今回は今吉さんや和成が前に出てる感じだ。

和成が廊下にスッと消える。
扉が開く音がしたが、ゾンビがそれに気づいた様子はない。
花宮が私の手を引いた。

「行くぞ。先に入れよ。」

花宮の背に隠されるようにして廊下に出て、先に教室に押し込まれる。

「あ、湧来た。花宮さん、電気つけます?」
「あぁ、電気がついてるから人がいるって思考にはならねぇらしいから大丈夫だろう。」

和成が教室の電気をつける。
眩しさで目を開けてるのが辛い。
そうこうしている内にみんな無事に教室に入り終えた。
むっくんが溜息をつきながら机に座る。

『やっと脱出ゲームらしくなってきたね。』
「湧ちん痛いとこない?」
『ないよ。ありがとう。』
「そっか。」

まだ全身に違和感はあるけど言うほどでもない。
興味なさそうな態度な割にはしっかり確認を取ってくるむっくんが可愛い。

「分担しよか。ワシ、高尾、氷室、紫原、黄瀬が後ろ。花宮、原、蘭乃、伊月、実渕、が前。」

花宮に伊月に玲央って黒髪セクシーな感じがいいな。
氷室くんもいれば完璧だったんだけど。
そういや前回もこんな話を森山さんともしたような。

『まぁ集中して探しますか。』
「そうですね湧さん。」
『はい和成さん。』



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