黒バス脱出原稿

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二階も特に何もなく進んで行く。

途中で氷室くんや原が何体かゾンビを倒したくらい。

みんな口数が減ってきて、むっくんなんて一言も発さなくなった。

『会議室そういえば調べた?』
「いいえ、調べてないから調べましょう。」

二階の真ん中は会議室。

自分は遅れて入ったから玲央に聞くと優しく背中を押された。

会議室は今回も清め済みの文字があって唯一安全な場所のはず。

扉を開けてももちろんゾンビだっていないし、ここはホッとする。


「湧疲れた?」

ため息をついたところを伊月に目敏く見つけられる。

さっきまで隅っこの床を叩いてたくせに。

「ちょっと疲れた顔してね?」

ちょうど前にいた和成に振り返りもせずに指摘される。

イーグルアイとホークアイは何でもお見通しだ。

『だって本当だったら今って9時頃でしょ?』

お風呂に入ってるくらいだ。

ご飯を食べてないわけだからお腹も空くし、選手の子たちはもっとお腹空いてるだろうな。

「なんでカバン盗られるんだろな。今回携帯と靴はそのままだったのに。」
「うーん…電子辞書が入ってるからとか。」
「携帯みたいにつかない設定にすりゃいいじゃん?」

伊月と和成が首を捻る。

「カバンに入ってた菓子パンが恋しい。」

心底辛そうな声を出してみせる和成に笑いながら会議室を調べる。

それにしてもこの円卓は大きい。

…これ調べた方がいいよね。

四つん這いになって円卓の下を進んでいく。

円卓の中央部分に何かあるけど暗くてちょっと見えにくい。

机の裏についている四角い箱を指でなぞって見る。

これ鍵穴だよね。


『ねえ!鍵穴見つけた!』


声を上げると花宮の顔が円卓の下に現れた。

「ちょっと待ってろ。黄瀬ェ!鍵貸せ!」

花宮が黄瀬くんから鍵をもらって円卓の下を這って来る。

「よく見つけたな。」
『これだけでかい机の下を見ないわけにはいかないでしょ。』

花宮は笑って私の顔にかかった髪を耳にかけた。

そういう心臓に悪いのやめてほしい。

大きな円卓の下は光が届かないから助かった。

花宮が鍵を鍵穴に差し込んでくるりと回す。

カチッと音がした。

「ビンゴ。」

ゆっくり蓋をあけると、何かが花宮と私の間に落ちた。

『何これ…五角形…?』
「机の下から出るぞ。」

花宮が這っていった後を追う。

手を貸されて立ち上がった時、頭に痛みが走らないことにホッとした。

『花宮これ、さっき出てきたの。』

机の下から出てきたのは黄色い五角形のパネル。一辺が3センチほどの正五角形だ。

「黄色か。またキセキか?」
『どうだろ、色とりどりの五角形が見つかるかもね?』

首を傾げて笑いかけると、花宮は真顔のまま私の顔に触れた。

「疲れた顔してんぞ。」
『そうかな?あんまり実感ないから分からないや。大丈夫大丈夫。』

まだ花宮は何か言いたげだったけど、それを遮って花宮の背中を叩いておいた。

「お二人さん何してはんの?」

そう言いながら割り込んでくる今吉さんもちょっと疲れた感じがある。

『この机の裏に箱がくっついていて、中からこれが。』

五角形のパネルを手渡す。

「鍵…なくなってる。」

制服のポケットに手を突っ込んだ花宮が呟いた。

『今回も使ったアイテムは消えていくんだね。』
「よっしゃ湧これ預かっとくで。」

会議室は狭いからすぐに探索は終了し、この唯一の安全地帯から出ることになった。

次は職員室だ。

「ここは広いぞ。」
「せっかくだし放送でも入れておきましょうよ。」

まだまだ元気な氷室くんと和成の隣で原は大きな欠伸を連発している。

『賛成、放送しよう。』

職員室の中から放送室へと繋がる扉を和成が元気よく開け放つ。

「よし、安全!」

和成の後に続いて放送室に入った。

放送室の機械は触ったことがなくてよく分からないけれど、和成は迷わずにボタンを押した。

ピーンポーンパーンポーン

呑気な音が流れる。

「どーもー!こちら高尾和成でぇーす!真ちゃん元気にやってる?」

まず緑間くんに呼び掛けるあたり、やはり彼のことが大好きな和成。

『水戸部とコガ大丈夫?』

コガは初めは怖がっていたものの、元々ホラゲー好きみたいだし、たぶん今ごろ楽しんでいるだろうな。

「こっちは今二階の真ん中まで来ました!途中で鍵を見つけて、その鍵で会議室に隠されてた黄色の五角形の…パネル?を手に入れたところです!成果はそんくらい?お腹すいたし眠くなって来ると思うけど頑張りましょう!」
『あ、そうそう。次集まるところ決めてなかったから、それぞれの一階まで全部探し終えたら体育館の中に集まりましょうって今吉さんが言ってたよ。』
「そんな湧はさっき階段から落ちました!」
『コラ!和成!宮地さんに怒られるでしょ!』
「宮地さん怒ってやって下さい!」

二人でひとしきり笑っていたら放送室のドアが開いた。

「何やっとんねん。」

呆れたように笑いながら今吉さんが登場。

「今吉さんに怒られそうなのでもう切りまーす。以上、高尾和成でした!」

和成に目配せされる。

『蘭乃湧でした?』

和成がブチっと放送を切る。

「やべぇ、完璧。」
『何が完璧よ、バラしやがって。』
「蘭乃、口悪くなっとるで。」

放送室を出て職員室に戻ると花宮からジト目で見られる。

『バカを見る目で見ないで。和成のせいだもん。』
「元気そうで安心したわバァカ。」

遊んでしまったから早く捜索に戻ろうと思ったところで、職員室の真ん中の方から原の声があがった。

「なんかあった!すげぇあからさまになんか置いてる!」

さっきまで欠伸をしていた原だけど、謎を見つけて少し元気が出たようだ。

みんなが集まるそこへ行くと、国語の教師の机だろうか。一冊だけ置かれた教科書が国語のものだ。

他の教師の机もそうだけど、殆ど何も置いていない。
他の教室もだいたいすっからかんだから不自然ではないけれど。

問題の謎は、その机のど真ん中。

数字のみのテンキーのついた小さな箱。

「これどうやって問題解くんスか?」
『何の番号を入力したらいいんだろうね。手がかりを探さないと。』

花宮が机の棚に入った教科書の背表紙を摘んで乱暴に振った。

バサバサという音と共に何かが落ちる。

「うわ、ビンゴじゃん。」

拾い上げた和成がニヤリと笑った。

「えっと、ザ…えーっと…。」
「"The course of true love never did run smoot.'だよ。」

流暢な発音はもちろん氷室くん。

流暢すぎて聞き取れなかった。

『もっとゆっくり。』
「"真実の恋がすんなり叶ったためしはない"だよ。」

今度は訳して教えてくれた。

どこかで聞いたことのある文章だ。

それを答えたのは意外にも、いや、その知識量を考えると当然なのか、花宮だった。

「あー、あれだシェイクスピア。何の作品かは知らねぇが。」
「なんや花宮、文学少年か。」
『でもそれが何なの?』
「待って湧、まだ書いてる。ほら。」

和成が差し出した紙を見る。



"The course of true love never did run smoot"
1564〜⁇??

「シェイクスピアの死んだ年を答えろってこと?」

たぶん伊月の言う通りだろう。

まさかこの一文が入った作品を書き始めた年から書き終わった年を聞いてるわけじゃないだろう…と信じたい。
そんなもん誰が知るか…。

「誰か知ってるか?」

花宮も知らないみたいだけど、みんなも首を振っている。

「図書委員。」

伊月に肩を突かれる。

『図書委員関係ないよ。』

思わず笑いそうになったが、あることを思い出した衝撃で勢いよく花宮を振り返った。

振り返った反動でポニーテールが伊月を直撃したらしく、悲鳴が聞こえたが無視。

『これ、知ってる、聞いたことある!シェイクスピアの生没年のゴロ合わせ!』
「なんとかして思い出されへん?」

色めき立った今吉さんを瞬殺する勢いで首を振る。

『無理です。でも教えてくれる人がいるよ。』

伊月が図書委員って言ってくれて良かった。

『黒子くんに聞いたの。昼休みに言ってた。彼なら覚えてるはず。』
「じゃあこれ持って行って黒子っちに開けてもらえばいいんスね!」

黄瀬くんが嬉しそうに箱を持つ。

彼に任せよう。

「何か中に入ってる音がする。」

黄瀬くんが箱を振るとカラカラと音がする。

「さっきのパネルと似たようなもん入ってんじゃないの?この間のボールみたいになるかもね。」

むっくんが言う通りだったらいいのにな。





花宮が手掛かりの紙をぐしゃりと握りつぶした音がやけに耳に残った。





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