黒バス脱出原稿

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「いいか、よく見ればこの絵は全て正方形に切られ、それが入れ替えられてる。つまりただのパズルだ。」

え、なんだそれ簡単じゃ…簡単じゃないな。

『全部正方形だし絵も分かりにくいから難しそう。』

明確な何かが描かれている絵ではない。ぐにゃぐにゃの模様みたいな絵だけど、細かい模様じゃないからパズル自体はなんとかなりそうだ。

「その前にガラスケースはどうやって取り除くんだい?」

氷室くんの言う通りだ。

絵はガラスケースの中だから触れない。

「パズルを解く前にガラスケースを取り外さねぇと。」
「なにしとるん?」

他のみんなが集まってきたから状況を説明する。

花宮と氷室くんがその間も開け方を探しているがネジや鍵なんかは見つからない様子。

「割ればいいんじゃないっスか?」
「過激だけど、ありだな。」

黄瀬くんの提案に伊月が笑って答えた。

その手には小さな鉄のハンマー。

『なにそれ。』
「ん?絨毯の下にあった。」

そういやさっきから床を凝視している伊月を何度か見た。

「俺、湧から話を聞いてから携帯の脱出ゲームアプリにちょっとはまっちゃって。よく絨毯の下とか、フローリングが外れるとこにアイテムがあったの思い出して、探してたら本当にあった。」

得意げに笑いながら伊月が花宮にハンマーを手渡した。

「ほんとに割るんだろうな…。」

花宮は半信半疑っぽい。

確かにパワープレイだし、割った後の破片とか気になるけど。

「花宮以外離れよか。」
「原は近づけ。」
「やだね。」

花宮がハンマーを控えめに振り下ろす。

ヒビが入った。

「もうちょっと容赦なくいかな…キャラとちゃうんちゃう?」

今吉さんの一番嫌なツッコミに花宮は凄まじい顔をしながらも、慎重にヒビに向かってコツンとハンマーを当てた。

ガラスケースの一面だけが崩れ落ちる。

「おぉ、上手い。」

和成が拍手した。

これで壁がなくなった方から手を突っ込んだらパズルを動かすことができる。

『お疲れ、よく耐えた。』

花宮の背を労わるように撫でた。

よくブチ切れなかった。

「ちょっと今吉の後頭部にハンマー叩きつけてくる。」
『やめて。』

青筋を立てている花宮の手から慌ててハンマーを取り上げた。

一瞬絡みついた手の暖かさに動揺して、ハンマーを持ったままさっさと花宮から離れる。
あ、このハンマー武器に使えるな。

「10×20で200ピースあるみたい。」
「200ピースならなんとかなる。」

原がピースの一つを爪で摘んだ。
花宮はすでにもう取り掛かろうとしている。

「玄関はあとパズルだけやろうし、人数かからんから何人か置いて残りは体育館向かうか。」
『確かに、この人数いても意味ないですね。』

ゾンビはそんなに一気に襲ってこないだろうし、5人いたらなんとかなる気がする。

「じゃあ花宮には残ってもらおか。あとは黄瀬、実渕、伊月、高尾くらいか。」

つまり体育館に向かうのは私と今吉さん、原、氷室くん、むっくん。

「湧さん、これ黒子っちに渡して下さい。」

黄瀬くんに手渡されたのは職員室で見つけたテンキーのついた箱と、ヒントの紙。

『わかった、黒子くんに開けてもらうね。』

黄瀬くんと拳を合わせる。

「人数少なくなったし慎重に行かないとね。」

氷室くんが私の肩を叩きながら言ったのは忠告なのかもしれない。

『鷹と鷲もいなくなったし背後注意だね。』
「ほな、花宮たちはまぁ頑張ってな。」

花宮たちに手を振って体育館までの道を行く。

体育館まではそんなに遠くない。

前回、むっくんに抱っこされてみんなで走った道を静かに歩けばいいだけだ。

あの時は黒子くんがイグナイトしたんだっけ。

そんなことを思い出しながら廊下に一歩踏み入れた時。

背後から小さな振動が来た。

『んぐっ……。』
「ゾンビ二階から降りて来たっぽい。」

むっくんが私の制服の襟を後ろから引っ張って囁いた。

「氷室と紫原、頼むわ。ワシらは体育館まで走るで。」

またこの廊下を走ることになってしまった。

今吉さんに背中を押されてむっくん達を振り返る間も無く走り出す。

『待って、二人とも速い…!』

いくら私が運動神経が悪くないとは言え、180越えの男二人と同じスピードが出るわけもなく。

原が自分の靴を持っていない方の手で私の腕を掴んだ。

そのまま若干引きづられるようにして何とか走る。

そんなに長くない廊下はあともう少し。


「お前ら…!」

足音を聞きつけて体育館から出てきたのは宮地さん。

「他の奴らどうした?!」

宮地さんが開け放った扉から中に飛び込む。

バランスを崩して原と一緒に倒れこんだ。

『走る必要、あった…!?』

今吉さんを見ると半笑いで首を傾げていた。

走れって言ったの今吉さんのくせに。

「他のみんなはどこなんですか?蘭乃さんは落ち着いて息をして。」

体育館の中にはA班のみんながいる。

赤司くんが差し伸べてくれた手をありがたく掴んだ。

『B班の半分を置いてきたの。パズルがあって、それを完成させるために。で、来る途中にゾンビに遭ったから氷室くんとむっくん置いてきた。』
「なるほど、他に何か収穫は?」

三階の鍵穴のこと、黄色のパネルのこと、玄関にあった靴のことを話す。

「そうか、では俺たちとほぼ変わらないですね。鍵は一つ見つけてあるからあとで開けに行きましょう。それと靴ならみなさんのも含めてかなりの数が見つかりましたよ。」
「蘭乃のもあったぞ。」

日向が指差した方を見ると、確かに体育館の隅にたくさんの靴が並べられている。

探せば私の靴もあるんだろう。

原が持っていた自分の靴をそこへ置きに行った。

「俺の靴だけないのだが…そちらにありましたか?」
「緑間のもんは高尾が持ってたんちゃうか。」

今吉さんの答えに安心したように緑間くんが頷いた。

「それからこれだね。」

赤司くんが黄色の三角形のパネルを2つ出した。

今吉さんもパネルを出してきて、これで五角形が1つと三角形が3つだ。

えーっと。赤司くんの班の2枚、トロフィーの裏から出た1枚、会議室の机の裏の五角形1枚。

「星型にはあと2つ三角形が足りねぇな。」
『これやっぱり星型なの?』

青峰に聞いてみると、体育館の舞台の方を指差された。

そこには前回にはなかった教卓がある。

「あの教卓の上に星型のくりぬきがあったのだよ。そこにはめればいいのだろう。」

緑間くんの隣で日向が頷いた。

その時、体育館の扉がガラリと開いて氷室くんとむっくんが入ってきた。

「二人とも大丈夫やった?」
「えぇ、ゾンビは一体しかいませんでしたし。」

「紫原くん。」

黒子くんがむっくんの元へと走っていく。

『あ!!黒子くん!!』

このボックスを開けると星が完成するはず。

「なんですか?」
『これね、黒子くんなら開けれる。たぶん中に黄色のパネル入ってるから。』

ボックスを黒子くんに持たせ、ヒントの紙を黒子くんの目の前にパッと広げる。

黒子くんは軽く面食らった顔をしながらも紙をジッと見た。

「ほんとに血が繋がっていないのか不思議なのだよ。」

緑間くんが呟いた。

『ん?誰のこと?…高尾と私?』
「表情の豊かさが同じなのだよ。」

たぶん今は黒子くんからの答えを期待してキラキラした顔でもしてしまっていたのだろう。

「これ、蘭乃先輩に話したことありますね。」

黒子くんがニッコリ笑った。

「シェークスピアの生没年には面白いゴロ合わせがついてます。"人殺し、色々"。1564年と1616年です。」

黒子くんが1616とキーを押すと、箱はカチリと音を立てた。

それをそっと開けると、やっぱり。

『赤司くん、また三角形出てきた!』

赤司くんが少しだけ微笑みながら私に頷いた。

あと1枚で星は完成。

「よし、嵌めにいこう。」

森山さんの後を追って体育館の前に行く。

舞台によじ登って教壇を見ると、確かに星型にくり抜かれた装置がある。

「持ってるやつ全部はめてみよう。」

森山さんが慎重に三角形を全てはめた。

あとは氷室くんが見つけたところに入ってる三角形だけだ。

「今吉さん、俺行きますよ。」

氷室くんが赤司くんにもらった鍵を今吉さんに見せる。

「そやな、何人かで行ってきてくれ。」

氷室くんは頷いて、むっくんと森山さんと原を連れて行った。

「赤司なんかそっちの話他にないん?」

さすがにここに全員いないのに嵌めてしまうと何が起こるかわからない。

「星の欠片を見つけた以外は…後は屋上だけかな?」

赤司くんが振り返って青峰くんに確認する。

「あ?そうじゃね?」

青峰より絶対赤司くんの方がちゃんと覚えてると思うけど。

「屋上に続く扉に謎と、さっきテツヤが開けたようなロックがついていた。それくらいだな。」
『え?で、その謎はどうなったの?』

私の問いに赤司くんがニヤリと笑った。

「恐らく、今回の出口はそこだ。だから謎は置いてきた。」

出口が、屋上。

『どうして屋上が出口って分かったの?』
「もちろんそこと決まったわけじゃない。ただ俺たちが調べた唯一出口らしい昇降口にはドアが3つあり、それぞれ同じ形の鍵穴があった。そこが出口とは思えない。」

確かにそれは出口らしくない気がする。

来賓用の入り口もドアの持ち手の下のところに鍵穴があったけどなんかパッとしなかったしな。

「屋上が出口やとしても問題がありすぎるな。取り敢えず目の前の謎解いていくしかないか。」

まだやるべきことはあるから、なくなったらまた考えよう。

お互いにあったことを話しているうちに、氷室くんたちが帰ってきた。

「ほら、三角形。」

少し息の上がった氷室くんが私に三角形を差し出す。

『ゾンビ大丈夫だった?』
「奇跡的に会わなかったよ。」
「靴邪魔だから履いちゃう?」

原が体育館の隅を指差す。

確かに靴を履いた方が走りやすいし荷物が減る。

「いや、普通学校の中で靴は履かないのだよ。汚して気分を害されても困る。」

誰の気分を害するのかは誰も聞かなかったけど、緑間くんの言いたいことは分かった。

『今できることって言ったら、花宮たちのパズル、それからこの星、あと屋上に繋がる謎。』
「あとゾンビですね。」

みんなで顔を見合わせる。

何人かここに残してゾンビを倒しに行くか。

そもそも花宮たちがパズルを解いた先にはなにが待っているんだろう。

星をはめたら何が起こるんだろう。

降旗くんが疲れた顔をしている。

なぜか隣に立っている宮地さんに頭を掴まれた。

私もちょっと疲れたし座ろうか。

そう思って宮地さんの手を外そうとした時、体育館の扉がゴゴゴ、と音を立てた。



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