黒バス脱出原稿

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中に入ってきたのは私の知る限り一番元気な人だった。

「お疲れちゃーん!あ、みんな揃ってる!」

和成がピョンっと飛び込んだ後ろから黄瀬くん、花宮とみんなが入ってくる。

『もう終わったの?!』
「ハッ、あんなもん一瞬だろ。」

花宮の渾身のドヤ顔に今吉さんが顔を隠して笑った。

「花宮すごい形相で考えてたけどな。」

伊月が日向と軽くハイタッチを交わしながら茶化す。

花宮は眉を上げただけでそれには取り合わず、私たちに手招きした。

「全員来いよ。」

私の頭から宮地さんの手が離れた。

赤司くんと顔を見合わす。

「何があったの?」

原が首を傾げた。

「見たら分かる。棺桶よりマシだから安心しろ。」

花宮が差し出した右手が、それは遠いところにあったけど、自分に向けられている気がした。




全員でゾロゾロと玄関に向かう。

さすがにこの人数で倒せないゾンビなんてそうそういないだろうから、みんな堂々と歩いている。

『なんだかみんな同じ高校に通ってるみたいだね。』
「こいつら全員と一緒とかごめんだな。」

隣にいた花宮に笑いかけたけど、渋い顔をされた。

『確かに、全員同じバスケ部だなんて考えたら私もちょっとキツい。』
「だろ?」

それにキセキの世代が全員同じチームにいたら試合にならないしね。

あのゴールド達との試合を見なくても知ってる。

もうすぐ入り口だって思った時、先頭を行く和成の横にいた緑間くんが声をあげた。

「なっ!」

花宮がニヤリと笑う。

「は?なんだよこれ!」


叫んだ宮地さんの隣に駆け寄ってみると、なんとそこには大きな穴があった。


『え?なにこれ、すごい。怖い。』

下を見ても真っ暗だ。

「ハシゴがついてるね。」

氷室くんがそう言ってヒラリと穴に降りた。

『ちょ、ちょっと待って。』

慌てて氷室くんがハシゴを握っている手を掴んで振り返る。

『ダメですよね。』
「ちょっと待とか、氷室。」

今吉さんもさすがにストップをかけた。

「これはパズルを完成させたら開いたんですか?」

黒子くんが花宮に尋ねた。

「あぁ、パズルを完成させたら突然この台が横にスライドした。」

あのパズルがあった場所の真下に穴があったってことだ。

「これじゃ降りても下見えねぇな。」

日向が穴を覗き込みながら言う。

『どうしたら…懐中電灯とかないっけ?』
「技術職員室。」

ダメ元で言ったのに、むっくんに即答されて驚く。

「よし、行こ。」
「なぜ俺なのだよ…。」
「おい待てよ。」

すぐにむっくんが緑間くんの腕を掴んで走っていく。
さすがにそれでは人が少ないからと、青峰もそれに続いた。

「すごい、敦はよく覚えていたね。」

氷室くんが三人が走っていった方を見ながら感心したように言った。

『あそこはお菓子があるし印象が強かったのかも。』

三人はすぐに戻ってきた。
むっくんの手には大きめの黒い懐中電灯が二つ。

「誰が下行く?」
「俺行きたい。」

今吉さんの問いに和成が手を挙げた。

「俺はいい。」

花宮や玲央といった何人かは首を振った。

赤司くんや黄瀬くんなんかも名乗り出て、せっかくだし2年生が行こうということになった。

黄瀬くん、赤司くん、黒子くん、緑間くん、青峰くん、降旗くん、むっくん、和成。

赤司くんと和成が先頭で懐中電灯を持って下へ降りて行った。

何か声がしないか、他のみんなも穴のそばで耳をすませる。

1分も経たないうちに、まず黄瀬くんの悲鳴が聞こえた。

バタバタと音がして、1つの光がこっちに上がってくる。

一番に穴から出てきた黒子くんで、その腕を日向が引っ張りあげた。

穴から出てきた黒子くんは懐中電灯を握りしめながら日向に向かって言った。

「ダイナマイトがありました。」
「は?」
「ダイナマイトです。大量の。」

黒子くんの言葉に、私と花宮は顔を見合わせる。

「まさか着火してねぇだろうな。」

宮地さんの恐ろしい呟き。

『そんなまさか。』
「ごめんなさい、見ないうちに出てきてしまいました。」

穴からは青峰くんと黄瀬くんも飛び出してきたが、残りの4人は出てこない。

「僕は黄瀬くんが怖いかと思って出てきたんですけど。」
「いや、黒子っち一番にはしご登って行ったじゃないっスか!」
「テツが逃げたから俺も逃げた。」

三人は言い訳をしながらも身を乗り出して穴の中を覗き込んでいる。

「もう一回入れよ。」

花宮が黄瀬の背中を蹴ろうとするから、慌てて背後から花宮のシャツを掴む。

『危ない危ない。』

私も穴を覗き込もうと、黄瀬くんの背中に手を置く。

「び、びっくりしたぁ!!」
『ごめん。あ、光!』

穴の中で光がチラついた。

「おい、いい度胸だな青峰。」

穴の中から赤司くんのこもった声がして、青峰がげっと呟く。

「赤司、ダイナマイトってマジか?!」

宮地さんが穴の底に向かって聞いた。

「ええ、6本で1束になっているものが50個ほど。しかも遠隔操作で一斉に爆発させることが出来るものです。」

それってけっこうな数なんじゃ。

それに同時に爆発させることが出来るそれだけの爆薬を何に使うかなんて、殆ど限られているのではないか。

『それって…。』

振り返って見つめた花宮の顔は少しだけ戸惑っている。

穴の中から降旗くんが出てきた。

「ゲームを終わらせるためにはどうすればいいんだろうってずっと考えてました。まさかこんなやり方なんて。」

泣きそうな顔で私を見る降旗くんの腕を引っ張りあげる。

今吉さんが腰に手を当てて溜息を吐く。



「ここ、爆発させなあかんみたいやな。」



そう、ゲーム場になっているこの学校を爆破させるだけのダイナマイトがある。

赤司くんや和成、緑間くんも穴から出てきた。

「ここから出れないのにどうすんの。俺らごと爆発させんの?」

コガの隣で水戸部が首を振っている。

『まさか、違う、出ないといけないんだよ。』
「そうだ、屋上からね。」

赤司くんと顔を見合わせて頷き合う。

さっき体育館で言っていた、唯一出口らしい出口でみんなが残してきた謎。

あれを解いて屋上から出て…どうやって地上に降り立つかも考えなければいけないけど…それからダイナマイトで爆破。

『体育館の星型、はめにいく?』
「そうやな、これはここにおいといて星を片付けにいこか。」

爆発させるって、私たちはそのときどこにいればいいんだろう。

現代に戻った後にスイッチを押すとか?






みんなでまた体育館へと戻る。

星型は最後の1ピースだけという状態にして置いてきていた。

その1ピースは私が持っている。

体育館について、みんなで舞台にあがった。

「へぇ、やっぱ星型だったんスね。」

黄瀬くんが感心したように言いながら舞台に登るのに手を貸してくれる。

「これはめたらどうなるんだろうな!」

コガがワクワクした声を出す。

「確実に一歩近づくよ、脱出に。」

森山さんがにっこり微笑んだ。

ゆっくりと最後の五角形をはめる。

カチッと音がして、黄色の星が完成。

「なにか音が…。」

玲央が呟いてキョロキョロと周りを見渡した。

確かに、ウィーンという音がする。

その音がどんどん下に降りてきた気がして、全員が一斉に同じ方向を向く。

「わっ?!」

黄瀬くんが驚いた声をあげた。

私も思わずギョッとした。

舞台の壁に真っ白なスクリーンが降りてきていた。

スクリーンは完全に伸びきると動かなくなる。

「ん?これは何か写さなきゃいけないのかな?」

氷室くんが天井についた…投影機っていうのかな…を見つめる。

その機械に赤い光がついた。

勝手に起動したのが地味に怖い。

ピッと音がして、スクリーンに映ったのは。


「43分の34…?」


34/43


赤司くんから発せられたと思わないほど、その声は困惑に満ちていた。

『なにこれ。』
「…わかんねぇな。」

見上げた花宮も、眉間にくっきりと皺を寄せていた。



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