黒バス脱出原稿
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体育館の真ん中に全員で円になって座る。
すっきりした顔をしている降旗くんはきっと熟睡できたのだろう。
「ゾンビのことだけど、寝ながら考えていたのだが、これまでの班じゃ人数が多すぎるだろう。3つに分けないか?」
赤司くん、寝ながら考えたってたぶん寝てないよね。私と原の話も聞いてたよね。
そっと花宮を盗み見るも至って普通の表情。
「3つやと6人くらいか。」
「そんなにいるか?」
青峰が異論を唱える。
「現状では氷室と青峰が最強だってこと忘れるなよ。」
森山さんが突っ込む。
青峰は素直に頷いた。
『あのさ、私ここで待ってた方がいいと思うんだけど…。』
私がいてもたぶんお荷物だろう。
そりゃ全く活躍できないってわけではないかもしれないけど、足を引っ張る瞬間は必ずくる。
「そやなぁ…蘭乃はここおった方がええかもな。」
「けど内側から鍵をかけたとしても、さすがにここに一人置いて行くわけにはいかないわよ。」
玲央が心配そうに言う。
確かに、この前だって力づくでゾンビが入ってきたわけだし。
「花宮さんが残ればいいんじゃないですか。」
その言葉に全員が顔をひきつらせて赤司くんを見た。
"赤司くん寝てない疑惑"がある私は余計にどきりときた。
「何か問題あるか?」
「ちょっと待てよ赤司。」
和成が珍しく真面目な声を出す。
「鍵をぶち開けて入ってこれるやつを花宮さんが一人で倒せるわけねーじゃん。湧は氷室さんと青峰とか一緒にして行くべきだって。」
「花宮さん、大丈夫ですよね?」
和成の意見に対して、赤司くんはまっすぐ花宮を見た。
「もし追いかけられることになっても湧だけなら逃がせられる。」
それを聞いて赤司くんは頷いた。
でも今の言い方って、それじゃ私だけ逃げるみたいじゃない。
それを言おうかと迷ってる間に黄瀬くんが叫んだ。
「ちょ、ちょっと待って下さい!そんなことよりこの人と湧さん二人にしちゃっていいんスか?」
黄瀬くんの失礼な言葉に花宮が片眉を吊り上げる。
「いや、別に花宮さんを信用してないとか…まぁそういうわけじゃ…。」
しどろもどろな黄瀬くんを笑いながら赤司くんが言い放った。
「その辺りは蘭乃さん次第だろう。」
今度は私の眉が釣り上がる番だった。
3つの班分けは一瞬で決まった。
ただ学校で分けるかポジションで分けるかで意見が割れたくらいだった。
a日向 黒子 降旗 小金井 水戸部 赤司
b紫原 氷室 緑間 高尾 宮地 伊月
c青峰 今吉 黄瀬 森山 原 実渕
学校で分けて上手くいかないところを修正したらこうなった。
ゾンビ捜索の範囲を決め、一瞬で殲滅させると意気込んで、彼らは行ってしまった。
そして今、体育館は静寂に包まれている。
「おい、」
『はいっ。』
花宮が体育館のど真ん中に三角座りしている私の前に立った。
隣座るぞ、と断って花宮も私の隣に座る。
さっき原と話してた時はいくら静かだとは言え、みんなの寝息や寝返りの音があった。
今は本当に二人っきりだから、さっきよりもっともっと静かで、自分の呼吸の音も全部花宮に聞こえてしまいそう。
チラリと横目で花宮を見ると、私の顔をまじまじと見ている。
『…なによ。』
「いや、別に。」
またシーンとする。
うっ、耐えられない。
「おい…こんな状況の時に聞くのもおかしいかもしれないが、逆に今しかないと思って聞く。」
花宮にしては言い訳がましい言い方。
「お前さ、俺のことどう思ってる?」
その問いを予想していたような、まだもっと先であって欲しかったような。
『どうって…まぁ思ってたより全然悪い人じゃないっていうか、優しいし。大切にしてくれてるってのは分かるよ。』
「そうか、安心した。」
たったこれだけ言うのにも、すごく恥ずかしいと思うから、結局私は勇気がないんだと思う。
「で、前に赤司の家で俺が言ったことは考えてくれたか。」
言う勇気がないんだと思う。
勇気がないんだと。
昔からそうだ、変化を嫌い、何事もなく平穏に生きていようとする。
でもそれは言い訳でしかなくて、争わず、傷つかなくていいならと、自分の本当の気持ちから逃げてばかりだった。
和成の言う通りだ。
もちろん彼への返事は、そんな自分からの脱却のために使ってはいけない。
ただ私は誠実な彼のために、本当の気持ちを返す必要がある、それだけのこと。
周りからどう思われるとか考えちゃいけない。
花宮への気持ちはもう見つけたはずなのに。
下を向いて覚悟を決めかねていると、花宮が突然膝立ちになって私の手を引いた。
彼の胸に倒れ込みそうになりながらも同じように膝立ちになる。
花宮は私にグッと顔を近づけて、視界はもう彼の顔でいっぱい。
私の前、5センチ。
至近距離のその口が軽く開いて、それから強く息を吸う音がした。
「湧、お前のことが好きだ。俺と付き合ってほしい。」
この世に存在しないかもしれない体育館の真ん中で、ここがどこなのかも全部忘れて、私は花宮の顔を見つめた。
どれだけ確信があったとしても、怖くないわけがない。
それを理性で抑えこみ、澄ましてみせた綺麗な顔。
少しだけ正直な目。
『私も、花宮のことが好き。』
緊張が解けたように花宮はふっと微笑み、両腕を伸ばした。
「後悔はさせねぇ。好きにならなかったら良かったなんて、絶対言わせねぇから。」
花宮の手が私の後頭部と腰をがっしり掴み、力強く抱きしめられる。
彼の勢いを受け止めきれずにそのまま私はうしろに倒れこんだ。
「あっぶね…。」
花宮が反射的に手をついて、静かに私の体を床におろした。
花宮に見下ろされる。
「お前さ、頭打ったところコブになってんぞ。」
さっき後頭部に触れた時に気づいたのだろうか。
『嘘、ほんとに?』
「あぁ。」
花宮の手が私の頭の下に入ってくる。
少し頭を浮かせば、そのまま軽く持ち上げられ、花宮の顔が……
ガンッ!!
体育館の鉄の扉が大きな音を立てた。
花宮が凄い勢いで私の上体を起こし、そのまま立たせる。
「疲れた〜!終わったっスよ!」
「黄瀬かよ…。」
花宮がドッと膝をつく。
急に立ち上がって急に倒れて。
花宮の心臓大丈夫かな?と思いながらも私も一瞬心臓が止まりかけた。
『絶対ゾンビだと思った…。』
外から黄瀬くんがガンガン扉を叩いている。
ゾンビ防止策として内側から鍵を掛けているため開けられないのだ。
『開けてくる。』
「いやいい。俺が行く。」
花宮が立ち上がって歩いていく。
でもあれ、黄瀬くんが来なかったらどうなってたんだろう。
想像しただけで叫びだしたくなる。
「湧さん、c班終わったっスよ!青峰っちだけ置いてきたっスけど。」
え、待ってよ、なんでc班だけ帰ってきてるの?
しかも青峰…。
彼らは職員室とかがある棟の2階と3階を担当していたはずだから、上から見て回ってもういないと判断したのかもしれない。
「あれ、湧さん数字見てないんスか?」
黄瀬くんに背後を指差される。
『あっ、スクリーン…!』
すっかり見るのを忘れていた。
34/43だった数字が、40/43になってる。
『え、もう6体も倒したの?』
「逆に数字見ないで何してたの?」
森山さんがニヤニヤ笑っている。
『え、なんにもしてないですよ!』
「ふーん。」
元々細い目をもっと細めて意地悪そうに笑っている森山さん。
なんかこういう時、森山さんはいつもの残念な感じじゃなくて年上の面倒見てくれるお兄さんって感じ出してくる。
森山さんのくせに。
「さぁ、これであと3体やな。」
一足早く開放感を味わっている黄瀬くんは体育館の床に寝そべっている。
私もその隣に座る。
後ろに花宮が立った。
「あっ、41になったわ。」
あと2体。
「42になった!近いところで2体倒したのかな。」
森山さんが嬉しそうに叫ぶ。
「あと1体。これ43/43になったら何が起こるんスかね。」
『さぁ、私は誰が何体倒したのか気になる。』
突然くいっと後ろの髪の毛が引っ張られて、花宮に遊ばれているらしいことを察知する。
気にせずスクリーンを見つめていると、ついにその時がやってきた。
『あっ、43になった!』
スクリーンは一瞬43/43になったと思ったら、すぐに切り替わった。
大きく赤い丸。
『え、合格ってこと…?』
「どうやらゾンビミッションは単体だったらしいわね。」
玲央がやれやれと肩を竦めた。
「赤い丸だけなんて…紙吹雪とかないんスかね。」
黄瀬くん、何言ってるんだろう。
スクリーンに大きな丸が映し出されたあと、すぐに全員が帰ってきた。
誰も怪我することなく無事にゾンビを倒しきることができた。
考えてみたら私が階段から落ちたり、今吉さんが首を絞められたり、うちの班はけっこう怪我するギリギリだったわけだけど。
「じゃあ、あと残ってる謎は…。」
「ダイナマイトと屋上への扉の謎。」
今吉さんの問いに花宮が即答する。
扉の謎は私もまだ見ていないし気になる。
「恐らく、ダイナマイトを校舎に設置し、屋上から脱出。校庭の一番端まで避難してから爆破、だと思うのだが。」
「安全のためにダイナマイトを設置する前に扉の謎を解きにいくのだよ。」
緑間くんの意見に赤司くんが頷く。
「ああ、それがいいだろうな。」
屋上から脱出ってどうするのか凄く不安なのは変わらないけれど、とにかく謎を見に行ってみよう。
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みなさんいつもありがとうございます。何度も足を運んで下さっている方もいらっしゃるようで、とても嬉しいです。
普段はこんなこと書かないのですが、最終話と同じくらい大きな意味があると思うので書いておきます。(日付的には物語と合わないんですけどね。)
2016.06.22
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