黒バス脱出原稿

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ゾンビのいなくなった安全な廊下を歩いていく。

東棟の3階から屋上へと続く階段。

最初に私が倒れていた場所に近い。

学校の端っこのこういう階段って、自分の高校でもちょっと怖くて一人では行きたくない場所だ。

脱出ゲームの学校だし薄暗いから余計に怖い。

先頭の赤司くんが手で扉を示した。

「ほら、これです。」

扉には木の額縁に入れられた絵が飾ってある。

それから壁にはこの学校には似つかわしくない新しい綺麗なキーボックスも。

『これは…ここから脱出っぽいね。』

黒子くんもうんうんと頷く。


飾られた絵をじっと見る。

『これって、最後の晩餐…じゃない…?』

あの有名なキリストと使徒たちが横長の机に座った最後の晩餐にかなり似ているけど、どこか違う。

元の絵をよく覚えていないから何が違うのかは分からないけれど。

「また四桁の数字ッスね。」

黄瀬くんがキーボックスをいじる。

「全通りやったらダメなんスかね。」
「全部で10の4乗通りあるがやるか?」

花宮の言葉に黄瀬くんが慌てて首を振る。

『でもさ、一つ試すのに2秒かかるとしてさ、20000秒くらいで終わるんじゃないの?だいたい5時間くらいで全通り試せそうだけどね。』

そう言うと花宮と今吉さんに呆れた目で見られる。

「でも蘭乃さんの言うことは無視できない。これまでもそうだったが、もし謎が解けなくても力技で脱出出来るようにはなってるんだ。」
「つまり俺らを殺そうとしてるわけじゃないってこと…。」

赤司くんを見て降旗くんが呟く。

「けどこんなとこ閉じ込めて危ない目に遭わされてんだ。許さねーからな。」

宮地さんはそう吐き捨てながら私の方をチラッと見た。

乱暴そうに見えて、いや実際に乱暴なんだけど、宮地さんは本当に優しい。

女の子にも絶対モテるだろうな。

「その絵、取り外せるなら持って行って教室で解かないか?」

日向が階段の下からそう言って、赤司くんがそっと持ち上げると絵は簡単に外れた。

これで場所も光もある教室で絵を見ることが出来る。








一番近くの教室に入ってみんな席に座る。

今吉さんが絵を持って教卓に立った。

隣に座る和成が笑顔でこっちを見てくる。

『なによ。』
「いや、同じクラスになることないっしょ?」

いくら家が近くても学年が違えば同じクラスになんてならない。

小学校に入学するとき湧ちゃんと同じクラスがいいと泣いた和成を思い出して、懐かしさに胸が締め付けられそうになる。

「この絵が最後の晩餐を模したものであることは言うまでもない。」

若干教室の後ろの方に座った赤司くんの目は普段より見開かれている。

目が悪いのか、森山さんは目を細めて絵を凝視している。

「立ってる人なんていたか?」
「いないです。青峰くん寝ないで下さい。」

日向が指差した絵の右端。

黒子くんが即答していたけど、確かに本物の最後の晩餐は端から端までテーブルがあった。

知らないけれど、本物の絵だって後ろの方で立っている人はいたかもしれない。

けどこの絵はテーブルが絵の右端の最後までなくて、明らかに一人、テーブルの方に向かって歩いている人がいる。

その人は足枷をつけ、足を引きずっているようだ。

「9人いるな。…元の絵が何人だったか全く思い出せないけど。」

伊月が呟く。

元の絵は確か真ん中に確かにイエスキリストがいたはずで、この絵も真ん中にそれらしき人がいる…人と言っていいかは分からないけど。

「色だろう。このゲームは初めの時からそうだった。」

赤司くんが指摘する通り、このゲームはずっと"色"という鍵が散りばめられている。

この9人がなにかそれぞれを表しているとするならば。

『着てる服の色がカラフルすぎる。』
「確実にそれやな。」

振り返るとみんなが頷いている。

最後の晩餐、なんて古い絵にしては色がカラフルだしとっても鮮やかだ。違和感があるほどに。

今吉さんがチョークを持って黒板に向かった。

「花宮、左端から色言ってくれへん?」
「あ?なんで俺だよ…。まず青だろ。それから…これ緑じゃねぇよな?」

2色目から問題発生。

緑にしてはくすんでる感じがする。
もちろん黄緑も違う。

「カーキなんじゃないっスか?」

黄瀬くんが目を細めて絵を凝視しながら言う。

「ほんとだ、カーキっぽい。」

和成も黄瀬くんと同じ顔で絵を見つめている。

オシャレ男子二人が言うんだからそうだろう。

「じゃあこれはカーキだな。3番目は赤。」

文句無しの綺麗な赤。

「4番目は…黒じゃねぇな?藍色?」

また花宮が助けろと振り返ってみんなを見る。

『紺色っぽいよね。藍色って普通言わない気がするんだけど…。』
「さっきのカーキだとすればノリ的にはネイビー?」

黄瀬くんが首を捻る。

「黄瀬の割には頭が回るじゃないか。」
「赤司っち辛辣っス。」

今吉さんは笑いながらネイビーと書いた下に小さく紺色と書いた。

「5番目はオレンジだな。」

これも綺麗なオレンジ色だ。

「6番目は白。これは明らかに白で塗ってるよな。」

花宮はもう立ち上がって教壇に立てかけられた絵を真剣に見ている。

机から身を乗り出してよく見ると、確かにこれは敢えてちゃんと白を塗っている。

『うん、白だねこれは。』
「7番目はまた赤だな。3番目と全く同じ色だ。」

次が座っている人では最後、右端だ。

「8番目はまた紺色?ネイビーか?」

4番目と同じ色がまた出てきた。

規則的ではないのに同じ色が出てくる。

「最後立ってるやつ…これ色あるか?」

花宮が眉間のシワを一層濃くして私を振り返る。

『ベージュとか…じゃないね。』

さっきの白とは違うしベージュもなんか違う。

黄ばんだ紙みたいな色だ。

花宮は絵を手にとって最大限顔を近づけて見ている。

「何、見せて。」

原が花宮に手を伸ばして絵を取る。

「ほんとだ、なんか皺っぽい。」
「皺っぽい?」

近くに座っていた高尾や何人かが立って原の手元を覗き込んだ。

「これ色ないんちゃう?」
「やっぱ下の紙だろ、画用紙かなんかしんねーけど塗ってない感じする。」

顔を上げた宮地さんが赤司くんの方を向いて言う。

原の皺っぽいってそういうことか。

「光に当てて見たらどうだい?他の色を塗っているところと光り方が変わるだろう。」

赤司くんに言われて花宮が蛍光灯の光を当ててみる。

宮地さんや今吉さんが必死に斜めの角度から目を凝らして絵を見ているのが面白い。

「…塗ってへんな。」
「…あぁ、たぶん。」

今吉さんと花宮が顔を見合わせて頷く。

「みんな見てみましょう。」

黒子くんが席を立った。




その後、みんなでよくチェックしたのだが、色は塗られていないという結論に至った。

というわけで絵の人物の服の色は左から

青 カーキ 赤 紺 オレンジ 白 赤 紺 色なし

という順番になった。

「最後の奴は一人だけ立ってんだからこいつは色の問題じゃないってことか。」

花宮の言う通りだと思う。

『キセキカラーじゃないからここにいる人を表してるってこともなさそうだし。』

カーキがイメージの人とかいないし。

でもこのカーキも名称としてはそんなに確信がないんだけど。

「ここからどうする?この色は何を表してんだろ…?」

コガがむむむ、と唸る。

「だからあれじゃん、英語。家庭科室の曜日のやつもそうだったでしょ。」

むっくんがいつもより少し大きな声で言った。

「そうか、じゃあ…Blue、Khaki、Red、Navy、Orange、White、Red、Navyかな。」

氷室くんに合わせて今吉さんも前に英単語を立てに並べて書く。

「紺色ってだーくぶるーとかちゃうん?」

一瞬、みんなが今吉さんを見て固まった。

「あれ?ちゃう?」

きょとんとする今吉さん。
違うよ、そこじゃない。

「なんだ今のクソみてぇなアホっぽい平仮名の発音。」

花宮がドン引きの顔と声で怒涛の罵倒を繰り出した。

『花宮言い過ぎだよ。確かに聞いたことないような平仮名英語だったけど。』
「蘭乃、それはフォロー出来てない。」

日向に突っ込まれて誠凛ゾーンを見ると水戸部がオロオロしている。

「まぁワシの発音は置いといてやな…そんな酷いか…これ見てなんかないか?」

Blue
Khaki
Red
Navy
Orange
White
Red
Navy

「字数は4.5.3.4…いや、同じ字数なのに違う色あるしダメね。」

玲央が顎に拳を当てて考えている。

ブルーとネイビーは色が近いけど、カーキと白も同じ字数だもんね。

『さっき英単語を字数に変える問題はもうやったもんね。』

「お前カーキの綴りとか分かったか?」
「自分の出てるファッション誌に書いてるから見たことはあるっスけど。」
「は?お前ファッション誌出てんの?」

後ろの方で青峰と黄瀬くんが小声で雑談タイムに入っている。

その時、水戸部が立ち上がった。

自信なさげな顔で指を黒板に向けて何かを訴えている。

今吉さんは少し面食らった顔で私を見た。

「こいついつもこんなんか?どうやって生きてんねん。」

水戸部はまた一層申し訳なさそうな顔をしながら急いでコガを見た。

「え?なに水戸部どーしたの?ん?あ、なるほど、黒板に書きなよ!」

何がなるほどだよ、と突っ込んだのはたぶん青峰。

水戸部は黄色のチョークで立てに並べられた英単語の、大文字で書かれた先頭のアルファベットを丸く囲った。

縦に長い黄色の円。

B
K
R
N
O
W
R
N

「bkrぅの#&@…ダメだ読めない。」

降旗くんが解読不能な鳴き声をあげて撃沈した。

「違うよフリ〜、これは行なんだよ。Bはバ行、Kはカ行みたいな!」

コガが人差し指を立てて自慢気に解説する。

『いや、それ水戸部が思いついたんでしょ。それにこのままじゃカ行でも何番目か分からないし。』
「色自体に何番目か分かるヒントがあるとか…それこそ文字数の数が列の数になってたり。」

取り敢えず森山さんの案に乗ってみようとした時。



「ぼ……く……ら……の……。」

「な、ななななんスか??!?」

突然教室の後ろから切れ切れの重低音が聞こえてきた。

黄瀬くんが飛び上がって隣を…青峰を見た。

「お……わ……り……の…?」


みんながギョッとしながら顔を見合わせた。


ぼくらのおわりの…僕らの終わりの…。


しっかり文章が出来ている、きっとそれが答えだ。

森山さんの考えたやり方ではそうはならないはず。

でも青峰はどうして分かったの?

誰もが分からなかった答えを突然言い当てた青峰を、黄瀬くんは不気味そうな怯えた顔で見ている。

「青峰、なぜ分かったんだい?」

赤司くんが冷静に青峰に尋ねた。


「え、だって数字書いてんだろ、そこに。絵に。」

青峰こそ何言ってんだと言いたげに絵を指差す。

そもそも青峰の位置からだったら絵の詳細が見えているかどうかも疑問なんだけど。

「青峰くんの視力は野生人並みです。」

黒子くんが私の疑問に答えてくれる。

「青峰、どこに書いてあるんだ?」

業を煮やした緑間くんが絵を間近で見るために立ち上がって前まで来た。

「あった…!俺見つけた!緑間っち違う!そこからじゃ見えないっスよ!後ろから見たら見える!」

黄瀬くんが興奮した様子で立ち上がって緑間くんを手招きした。

緑間君は困惑しながらも急いで黄瀬君の横に立った。

「む…なんだと言うのだよ…分からん。」
「なんで、ほら、机に書いてるの!引きで見たら見えるじゃないっスか!」

隣で首を傾げる緑間くんに黄瀬くんが焦れたような声を出す。

花宮が大股で教室の後ろに下がる。

全員目を細めて教室の後ろに下がっていく。

なんとなく出遅れた私は伊月と二人で取り残されて大人しく座っている。

「飯食ってる机に数字書いてるの、見えただろ?」

青峰が誇らしげに赤司くんに聞いた。

「…ほんとだ、見つけた。茶色の机に模様のように…微妙に黄色がかった茶色で数字が書いてあるね。」

赤司くんは驚いたように何回も頷いた。

どうやら遠くから見たらぼんやり見える程度の微妙に違う色が使われているらしい。

「青峰くんよく見つけましたね。」
「ほんまや青峰よおやった。」

みんなから褒められて満更でもなさそうな青峰。



「ぼくらのおわりの…終わりの何だろう。」

足を組んだ伊月が私を見る。

色のない服を着て足枷をつけた男。

彼は何を教えようとしているのか。

『この人は座ってる人たちと同じように一字だけを表してるのかな。』

全員が黙り込んでジッと足枷をつけて歩く絵の中の人を見た。

全員が、教室の一番後ろから。

『取り敢えずみんな戻って来ようよ。』
「雇用されに来ようよ。」
「伊月、ゾンビに喰われて来い。」

日向のメガネが光った。

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