黒バス脱出原稿

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色のない服を着て足枷をつけた男。

彼は何を教えようとしているのか。


「うーーーん、うーーーん。」

降旗くんの唸り声。

赤司くんが呆れた表情でチラッと降旗くんを見る。

彼は気付かずに考え続ける。

降旗くんを見ていたら幸せな気持ちになる。

「おい、お前、頭働かせろ。」

座っていた椅子の足を花宮に蹴られる。

花宮は教室の後ろから帰ってきて私の机の横に立った。

微妙に体が触れ合っている感じがなんだかくすぐったい。

『同じクラスになったみたいだね。』
「そうだな。お前がクラスにいたら俺は困るけどな。」
「猫被りはなみゃーだからっしょ。」
「はなみゃー言うな。」

花宮が次は原を蹴る。机でも椅子でもなく原本体を蹴る。

「色なし、みたいな感じかしら。」
「カラーレス的な。」
「カレーライス食べたい。」

カラーレスと言った森山さんをおおっと振り返ったのに、次の情けないむっくんの声に思わず笑ってしまう。

「カラーレスのカレーライス。」
「伊月、伊月、頼むから先に一人で脱出してくれ。」

日向が机をガンと殴る。

『まあまあ、日向、リコがいないからってイライラしないの。』
「蘭乃、蘭乃、頼むから伊月とミスディレしてくれ。」
「僕のミスディレを簡単に使わないで下さい。」

突然騒ぎ出した誠凛を冷たい目で見る花宮。

教室に座っているのがいつも通りの休み時間のようで、どこか安心したような気分になっているのだろう。

「森山さんの言ったcolorlessだと形容詞だし合うな。」

花宮がなぜか人差し指で私の右肩をグリグリいじりながら言う。

『そ、そうだね。redとかも形容詞だもんね。』
「colorlessは血の気のないとかいう意味もあるしね。」

氷室くんが頷く。

「でも数字ないじゃん。」

むっくんのツッコミにみんなが黙る。

「それにcolorlessのCだとクリーム色とか他に色で代用がきく。どうしてそうしなかったのか、釈然としないのだよ。」

緑間くんの意見に頷かざるを得ない。

「そもそもこの絵で違和感を感じたのは鮮やかすぎる服の色だった訳で、こいつに色はない。」
「それに最後の晩餐という絵に足枷は明らかに異質だろう。これは見逃せない。」

赤司くんの言葉を緑間くんが継いだ。

じゃあ、足枷って英語でなんていうの?

「Fetter…かな。」

花宮の視線を受け、氷室くんが答えた。

『F…から始まる色は?』

みんなが必死に考える。

「……ない。」
「……思いつかない。」

自信はないけど、確かに誰もが知っている色の中でFから始まる単語ってない。

「じゃあ、何番目なのかしら。」

玲央がつぶやく。

『二番目じゃないの。』
「なんでや。」
『だって、二つあるから。足枷が…足枷ってやろうと思ったら何個でもつけれるでしょ?』

この足枷は連結しているものを両足首につけるものじゃない。

彼は鉄の塊がついた輪っかを足首につけていて、二つは完全に分離しているように見える。

「そしたら"は行"の二番目だから、ひ。」

全部つなげると。

『ぼくらのおわりのひ。僕らの終わりの日?』

日付は四桁だし辻褄が合う。

「終わりの日って死んだってこと?」

黄瀬くんが首をかしげる。

「まさか僕らって俺らのことじゃないよな?!」

突然降旗くんが突飛で恐ろしい発想をしたのか、黒子くんに縋り付いている。

「光樹、変なこと言うもんじゃない。」

赤司くんが苦笑いしながら降旗くんをたしなめた。

「この絵はこの"僕ら側"の人間が描いたんじゃないですか?今吉さん、絵は額縁から外せますか?」

赤司くんが降旗くんを安心させるためか急ぎ気味で今吉さんの元へ向かう。

今吉さんがなんの変哲もない茶色の細い額縁を外し、中の絵を赤司くんに手渡した。

「ほら、書いてあった。」

赤司くんは絵を裏返しにして満足げな顔をする。

「なにが?」
「これを美術の時間に描いて提出した人の名前さ。2年1組2番 佐々木大地…ってね。」

降旗くんの疑問に答える赤司くん。

佐々木大地くん。
佐々木なのに2番なんだ。

突然出てきた知らない名前に困惑するみんな。

「…つかこの絵、めちゃくちゃ上手くないか?」
「いや、俺こんくらいなら書けるっすわ。」

宮地さんは困惑しているが、和成は描けるらしい。
確かに、ギリギリ学生でも書けるくらいの絵って感じ。

「佐々木大地…どこかで見たのだよ。」
「僕も聞いたことあります。」
「あそこだろ、ほら…。」

日向が眉間に皺を寄せて緑間くんと黒子くんを振り返った。

向こうの班は知っているらしい。

「ノート。」

赤司くんが自信ありげに答えを言った。

「二階の教室、二年生が使っていたんでしょうね。そこの机の中に彼の名前が書かれた日記が入っていました。」
「あったな、取ってくるわ。」

宮地さんが立ち上がる。

「俺も行きます!」

和成も立ち上がる。

「お前も行くぞ。」
「えっ、はい!」

宮地さんが降旗くんの頭に拳でコツンと触れた。

なんだか奇妙な三人が走って出ていく。

二度のゲーム内で宮地さんと降旗くんが仲良くなったと思うと凄く不思議で面白い。

危ないゲームに巻き込まれとは言え、悪いことばかりじゃない、全然。

花宮と目が合って思わず微笑むと、小さくバァカと言われてしまった。



よかったよ、あなたに会えて。



赤司くんが慎重に絵を額縁に戻していた。









三人はすぐに帰ってきた。

「あったぞ。これだろ。」

宮地さんがノートを掲げる。

個人的に買った日記帳というよりは普通の学習帳のようなノートだ。

宮地さんが日記を捲るのを今吉さんと森山さんが挟む。

大学生トリオ。

前から思ってたけど宮地さんと今吉さんはStrkyの絆もあるのか、お互い信頼してる感じが良い。

「最後ちゃん…あ、これや。」

開けたのはきっと最後のページだ。

日記に書いた終わりの日。

宮地さんが読み上げる。

佐々木大地くんの終わりの日、この学校の終わりの日。



「"今日がこの学校に来る最後の日だなんて、信じられない。この学校にはたくさんの思い出があるのに。この校舎は壊されるのだろうか。残ってる方が辛いからいっそのこと壊してしまってくれた方がいい。僕は廃校になるこの学校に最後に通っていた全生徒20人のことを絶対に忘れないだろう。この学校に通った2年間で出会った43人の人たちのこともだ。三年生からは新しい学校に通う。新しい学校にはたくさんの生徒がいるから、きっと僕は大好きなバスケを始めることが出来るだろう。でも、大好きなバスケが出来なくてもいい。僕はこの中学校を卒業したかった。"」

シーンと教室が静まりかえる。

「日付がある。年は書いてないけど、3月22日だってよ。」

2年1組2番、3月22日。

2年生、出席番号は2番、卒業した日は22日。

彼はこの数字が大切だったんだ。足枷の数字はこれで正解だ。

あの人は最後の一年で違う中学校に通わなければいけなくなった彼自身を表しているのかもしれない。

「あ、湧ちゃん、ほら献立表。」
『献立表?』

鋭く振り返った原の顔は、半分隠れていても分かるくらい衝撃を受けた表情。

「ほら湧ちゃんが倒れかけてた…あっ。」

原はパッと両手で口を覆った。

こいつっ…。

「なんの話だ。」
『花宮その話は後。あれだよね、献立表は三月のものだったって言いたいんでしょ。』

原が口を塞いだままコクコクと頷く。

「ここは廃校した学校だったのだな。ゾンビの数と日記の主が出会った43という数も一緒だ。最後に通っていた人数と俺たちの数も。」

緑間くんが冷静に指摘する。

「都市部に住んでいる俺たちには廃校なんて考えられないが、昭和の大合併と言ってたくさんの学校が統合になった時代もあったと聞きます。」
『残っている方が辛いからいっそ壊してほしい。その子の願いなんだ。』
「僕たちに願いを叶えてもらおうと思ったんですね。」

黒子くんと頷きあう。

『一階にあったトロフィー。あれはもしかしたら新しい学校でもらったものをここに置きに来たのかもしれないね。』

青春時代というものがいずれ、胸が締め付けられるほど懐かしく、泣きたくなるような気持ちにさせるってこと、まだ青春真っ只中の私達でさえ知っている。

「まったく…身勝手なゲームだ。」
「バスケ部で目立つ俺らを拉致したってか。」

赤司くんがため息を吐き、花宮が毒ずく。

けど二人とも悪い顔はしていない。

「きっとこの最後の日を入力したら屋上へのドアが開く。俺たちは学校中にダイナマイトを配置し、屋上から脱出、スイッチを押して爆破。」

赤司くんがこれからの行動をまとめる。

「一旦屋上開けてみよか。」

まださっきの数字が合ってるとも限らないしね。

「どうやって屋上から脱出するのか、もう一つくらい謎があってもおかしくないぞ。」

少し曇った表情を見せる花宮の背中を軽く叩く。

『大丈夫大丈夫。』
「お前に言われたくねぇよ。あと、倒れかけたってやつ聞かせろよ後でな。」

ニヤリと笑った花宮にデコピンを食らった。

『ちょっと!』
「はっ、避けろよ。」

この悪童が。

後で今吉さんになんとかしてもらおう。




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長い解説でしたが、読んで下さったでしょうか。笑
いつもありがとうございます。



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