黒バス脱出原稿

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むっくんが行った後、水戸部とコガが降りてだいたい屋上と地上の人数が均等になってくる。

その後黒子くんたちが帰ってきて、彼らが持っているものを見て一瞬目が点になった。

『え、カーテン?』

黒子くんが握りしめていたのは縄跳びではなく白いレースのカーテンだ。

「はい、縄跳びと思ってたんですけど、体育館に行く前に来賓室のカーテンを見てこっちの方がいいかと思いました。」

確かに、縄跳びより痛くないししっかり結べそう。

『すごい、本当にありがとう。』

心の底から感謝を述べると黒子くんは少し照れたような顔をした。

「よっしゃ、じゃあ次青峰行こか。次青峰と蘭乃降りるから下で頼んだで!」

任せとけ、と下から頼もしい宮地さんの声が聞こえた。

それと同時に軍手と一緒に緑間くんの靴も飛んできて逃げ惑う屋上のみんな。

「ほら、乗れよ。」

靴を履いた青峰が私の前で少し背をかがめる。

残念ながら体格差がすごすぎてけっこうしっかりジャンプしないと飛び乗れない。

背に飛びついたらうぉっと青峰が声を出した。

そしてしっかり背負い直してくれる。

今吉さんがレースのカーテンで私と青峰の胴体をくくりつけた。

「よっしゃ、だいぶ辛いはずやけどしっかり青峰にしがみついといてや。」

今吉さんが私の背中をぽんと叩いた。

『うっ…いってきます…。』

サポートするために和成と森山さんがフェンスにまたがって待っている。

「青峰、蘭乃さんの足の方が自分の体より前にあるからな。」

赤司くんが再度釘を刺した。

「分かってるっつの。」
『私の膝くらいズタズタにしちゃっていいよ。』
「だから大丈夫だっつの。」

青峰はフェンスに手をかけて身軽に登っていく。

「青峰落ち着いて。」
「いや、俺に対する信用なさすぎねぇか?」

和成の神経質な言葉に青峰くんが呟く。

『青峰より運動神経良い人なんかいないよ。』
「あぁ、だから最初から黙って俺の背中にしときゃよかったんだよ。」

青峰はちゃんとゆっくり落ち着いてフェンスを跨いでくれた。

「すごいな青峰。」

少しの体のグラつきもない。

体幹がすごくしっかりしてる。

「ちゃんと足で挟んどけよ。揺れるぞ。」

青峰が屋上の縁に足をつけた。

「赤司、両手離すからこのカーテン持っててくれ。」
「青峰待て!森山さん高尾、フェンス降りて青峰の体を支えてください。」

青峰が手を離すなんて恐ろしいことを言うから、慌てて森山さんと和成がこっちへ降りてくる。

二人とも足を屋上につけて片手でフェンスを掴んで張り付きながら、青峰の体をフェンスに押さえつけた。

赤司くんもフェンスの向こう側から指を伸ばしてカーテンを引っ張る。

顔を左に向けると和成と目が合った。

彼の向こう側には暗い空が広がっていて、まるで空中に浮いているかのよう。

青峰はよいしょ、と私をもう一度背負い直した。

支えのなかった太ももをもう一度しっかり持ってくれる。

「けっこう足辛いだろ。行くぞ。」
『ごめん…ありがとう。』


青峰はゆっくりとロープを両手で持つ。

彼の右足が屋上から離れたのが分かった。

思わず青峰の背に顔を埋める。

抱きついた体がグッと力を込めて筋肉の塊になった気がした。

「これさ、足滑ったらやべぇな。」
『なんで今そんなこと言うのよ。』
「わりぃわりぃ。つーかやっぱ背中に当たってんだけど。」
『それ以上言ったら暴れてやる。私と一緒に落ちて。』
「いや、しっかり抱きついて当てとけ。やる気出るからな。」

訳がわからない。

思わず笑っちゃって青峰の背から顔を上げると、屋上からジッと真下を見る赤司くんが真剣な顔も相まって地獄の番人かのようだった。

青峰は校舎の壁に足を這わせながら確実におりていく。

残り一階分になった時、背中に指先が当たった。

「峰ちん止まって。もうすぐロープなくなって飛び降りなきなきゃ行けないから湧ちん引き取る。」

ちょっと待って引き取るってなに。

青峰が片手でレースのカーテンを解くから思わず彼にしがみつく。

「湧ちん、左手離して体ひねって後ろ向いて。で俺に飛びついて。」
『怖い怖い、そんなの出来ないよ…!』
「大丈夫だから。」
『ひゃあ…!』

むっくんが焦れたように私の服を引っ張って、突然のことに青峰に爪を立てるように縋ってしまった。

「紫原!」

宮地さんの咎めるような声も真後ろに聞こえる。

「大丈夫です、もし落ちたとしてもここからだと俺が確実にキャッチできます。紫原の言う通り手を離して後ろを向いて下さい。」

緑間くんに優しく促されて、私は恐る恐る左手を青峰の胴体から離し、体をひねって反らした。

両手を伸ばして私を見上げるむっくんと目が合った。

そのままむっくんに引っ張られるようにして、私は青峰の体からふわりと落ちる。

どんっと衝撃が走って、むっくんに抱きとめられた。

一歩後ろによろけただけで、彼は危なげなく私をキャッチ。

青峰もそのままロープを使うことなくジャンプして着地した。

「こっちは問題ないのだよ!高尾、投げるぞ!」
「へいへい真ちゃん。」

緑間くんがフェンスにまたがった和成に向かって軍手を投げる。

「湧ちん怖かった?」
『むっくんが引っ張るから怖かった…。』

ふーんと言ったっきり彼は離してくれない。

『むっくん?』
「湧ちんちっこいし子どもみたいだね。」
「紫原、降ろすのだよ。」

緑間くんが呆れたように私たちを振り返った。

私たぶん女子の平均くらいはあるけどなぁ。









一番最後に屋上から降りてきたのは今吉さんだった。

ロープはしっかり最後まで役目を果たしてくれた。

正直黒子くんやフリくんが降りてくるのを見るのも結構怖いものがあった。

「よっしゃ全員生きてるな。」

今吉さんが満足そうに頷いた。

赤司くんがポケットの中からダイナマイトのスイッチを出す。

そこにあったんだ。

「これを押したら脱出か…。」
「とにかく校庭の端まで逃げましょう。」

少し戸惑ったように黒子くんが言った。

黒子くんの戸惑いは分かる。だってこのグラウンド、小さすぎて校舎を全壊させる衝撃から逃れられるような距離が取れるとは思えない。

それでも取り敢えず端まで行ってみようと全員で移動する。

校舎とグラウンドの間には大きめの花壇があって、大きな鍬がさっきまで誰かが使っていたかのように無造作に置かれたままだった。

そこを横切って少し歩き、傾斜のついた広い入り口からグラウンドに入る。

広い場所に来るとどうしても男子高校生の血が騒ぐようで、なぜか青峰と緑間くんと黄瀬くんが鬼ごっこ状態だ。

「ふは、キセキとは言え子どもだなあいつら。」

完全にバカにしたような笑いを浮かべた花宮だけど、次の瞬間原に足払いされそうになり、ブチ切れて追いかけて行った。

「あかんなぁ、ほんま緊張感の欠片もないやつが時々おるからな。」

今吉さんが笑うのはきっと青峰と原のこと。

集団の最後尾には何か話をしている黒子くんと赤司くんがいる。

グラウンドの端はぐるりと木で覆われている。

その木の向こうにフェンスがある。

フェンスの向こうはそのまま森が続いているのか?

フェンスは野球部の練習場の近くみたいにすごい高いし…あれ、これは誠凛だけなのかな…ここを登って脱出は不可能。

「ここで爆発させるしかないな。」

赤司くんの眉間にくっきり皺が寄っている。

「ここヤバいだろ、絶対爆風とか衝撃とか…。」
「意外と建物内で爆発して崩れ落ちるから被害ないかも。」

日向とコガも不安そう。

「いや、押した瞬間戻るんちゃん。」
『そうじゃなかったら向こうの世界に戻るタイミングがもうないですよね。』

これまでも大丈夫だったから今回もきっと大丈夫。

そんな根拠のない危機感の欠如を花宮は嫌いそうだけど。





赤司くんがスイッチに手をかけて掲げた。


「いくよ。これでさよならだ。」


仕掛け人の望み通り、廃校から長い年月の経ったであろうこの学校を壊してしまおう。


それが幻想の中でのことだとは言えども、私たちにとってここは立派な現実だから。


「5を数えたらスイッチを押すよ。」

みんなが耳を塞ぐ。

しゃがみこむ人もいれば背を向ける人もいる。宮地さんと今吉さんはまっすぐ学校を見ていた。

「いくよ、5、4…。」

突然、花宮に腕を引っ張られて、学校に背を向けた形でフェンスに押し付けられた。

嫌だ、フェンスの向こう側なんて見たくない。

『怖い。』
「湧?」

花宮の腕の中で体を強引に反転させると、彼は驚いた顔をしながらも私をしっかり抱きしめ直した。

「耳ふさげ。」

言われた通りに耳を塞いだ私の頭を花宮が抱え込む。

一瞬無音になる世界。



2、1…



聞こえないはずのカチリという音が聞こえた気がして、グッと花宮の腕の力が強くなって。


そして突如足元から引っ張られる感覚。


この感覚、前に帝光前に戻された時と似てる。


地面があったのに落ちていく感覚なんて本当なら恐ろしいはずなのに、なぜかみんないるって感覚で分かるから怖くない。

花宮が離れまいと凄い力で抱きしめてくるから笑っちゃうくらい。






時間にして2秒くらい、足がどんっと地面に着いた。

なかなかの衝撃にそのまま地面へ転がる。

「ぐっ…!」
『んぅ…。』

花宮に抱きしめられたままだから二人で転がって止まった。

土の匂い。

「痛い…今のは乱暴よ…。」

目を開けると私たち以外の大半が地面に転がっていた。

「いってぇ…早くどけよ黄瀬。」
「うわぁ青峰っち動かないで…!」

折り重なって倒れているのは青峰と黄瀬くんと黒子くん。

花宮の腕から脱出して立ち上がり、彼の腕を引いてあげる。

「征ちゃん、ここってもしかして…。」

花宮を立たせたあと、何かを見上げる玲央の隣に立つ。

ちなみに花宮は腰を打ったらしく痛そうだ。

『夜なのに電灯とか灯りが全然ないね。』
「あ、携帯つく。」

緑間くんが神経質そうに土を払っている隣で降旗くんが呟いた。

赤司くんが携帯のライトをつけて前を照らす。

「ここは…さっきまでいたところと全く同じだ…。」

みんなが携帯のライトをつけ始めたからあたりがぼんやり明るくなってくる。

キョロキョロと周りを見渡すと、確かにさっき赤司くんがスイッチを押した瞬間と全く同じ場所にいた。





一つだけ違うのは、ここが元の世界だってこと。




「携帯もつくし時計も進んでる。」

森山さんが呆然と呟いた。

『…帰ってきたの?』
「終わったか。」

花宮と顔を見合わせるも、実感が湧かない。

というか、寒気すら感じる。

終わってないはずはないのに、みんな張り詰めた表情で顔を見合わせた。




前回もそうだった、帰ってきたのにゾンビがいた。



でも今回は43/43にしたのに。

どうして。

だって佐々木大地くんが関わってきた人が……ちょっと待って…



『佐々木大地くんは…?佐々木大地くんはどこ…?!』
「おい。」

花宮が私の肩を掴んだ。

「どうした…?」

突然私の頭がおかしくなったと思ったのか、愕然とした表情で私の顔を覗き込んでくる。

みんなギョッとした顔で私を見る。

違うよ、なんでみんな分からないの。

『だってまだ佐々木大地くんが関わった人しか倒してないよ!彼はどこに行ったの…?』
「嘘だろ。」

森山さんが呟いた。

「嘘やろ…でも絶対これまだ終わってないわ。そんな気しかせんもん。」

今吉さんが子どものように嘆きながらしゃがみこむ。

「鉢合わせする前に気づけたのは大きいな。蘭乃さんよく気がつきましたね。」

赤司くんにウインクされる。

赤司くんがウインクするなんて、空元気というやつかもしれない。

「あと一勝負だな。」
「負けませんよ。」

青峰が黒子くんの背中を叩いた音が響く。





前は日本刀でなんとか勝った。





今回はどうする?





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もうすぐ終わってしまいますね…。
以前、拍手で今吉さんが諏佐さんに全部終わったらちゃんと言うからと謝ってましたが、ついに諏佐さんにも真実を話す時が来ましたね。

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