黒バス脱出原稿

□D-2
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D-02

森を出て道が3つに分かれたところまで戻る。

「じゃあ次は真ん中行っちゃう?」
「そうだな。」

真ん中の道をしばらく歩く。

ただ道がまっすぐ続くだけで何も現れない。

「湧ちゃんさ、暗いとこ苦手なんでしょ?」

原が突然私を見てそう聞いてきた。

『あれ、なんで知ってるの?』
「2回目の脱出の時なんか変だったし。この間の夜の学校の話、高尾から聞いた。」
『和成?!』

和成と原って連絡取ってるんだ。夜の学校の話ってのは、たぶん真が大学まで救出に来てくれた話だ。

『そうだね、暗いところと大きな音は苦手かな。雷はそんなに怖くないけど、犬と通過列車がすごく怖い。花火もドキドキする。』
「雷怖くないのに花火怖いっておかしいだろ。」

花宮に突っ込まれる。

『雷怖いっていうとなんか狙ってるみたいじゃない。それに自分の近くに落ちるとは思えなくて。』
「自分には起こらないことだって思っちゃうよね。」

原が頷く。

『通過列車が一番ダメだよ。』

単純に自分の耳に聞こえる音の大小なのだ。犬は突然大声で吠えるからダメ。

「じゃあ電車乗ってる時の隣のおっさんのクシャミとか。」
『あ、それ最低。恥ずかしいくらい飛び上がっちゃう。』
「あぁ、お前いつも俺がクシャミすると連続でしないか見張ってるもんな。」

花宮のクシャミは別にうるさくないからまあいいけど、和成のクシャミはでかいから毎回イラっとする。

大きな音も暗いところも、誰でもある程度怖いと思うんだけどな。




「なぁ、それにしても遠くないか?」
真が言った。

確かにおかしい、歩いても歩いても何も出てこない。

そろそろ引き返すことを考えたら怖くなってきた。

「誰かちょっと走ってくる?…ってまあ俺になるよね?」

原がハハッと笑ったけど、それはなんだか可哀想。

どうしようと思いつつ、ふと地面を見てピンと来た。

『ねえ、ちょっと数歩だけ歩いてみない?』
「あぁ。」

三人で少しだけ歩いてみる。

『やっぱり。歩いてるのに進んでないよ、ほら。ずっと道変わってないもん。』
「マジ?そんなことある?」

地面を指差してそう言うと、原が地面を凝視した。

「俺もさっき確認したがそこにある小石が動かなかったから進んでないってことだろうな。」

真もちゃんと見ていたらしい。

「え、じゃあ何。ここは進めないことに気づくっていうなぞなぞだったの?」
『どうなんだろう。何かをクリアしたからここに新しいものができてたりして。』

本当に何もないのかもしれないけど。

「よし、戻るか。」

真について来た道を戻る。

分岐点に戻るのは一瞬だった。進まない道をかなり歩いていたらしい。

無駄に体力を使ってしまったかも。

大学生になってから体力落ちたし温存していかないと…って、ここでは疲れないんだっけ?

「そういや俺らの他に誰もいねぇな。」
『あ、忘れてた!』

手を叩いて真を見る。学校の時みたいに他の人がいない。

「俺ら三人だけなのかな。」
「まあ俺はこっちの方がやりやすいけどな。」

真はそうなのかもしれない。

でもやっぱり赤司くんや今吉さんの頭脳、氷室くんや青峰くんの力があった方が良さそうだ。青峰くんには何回も助けられた。

それからやっぱり、和成の笑顔が必要な時もある。

「なんかあったらとにかく湧ちゃんだけは守ってみせるから安心して、ね?」

原にポンと肩を叩かれる。不安そうな顔をしてしまっていただろうか。

真と原が頼りないというわけではないのだ、決して。

どちらかというと三人しかいないうちの一人が私で申し訳ない。

「変なこと考えんじゃねぇよ。俺らは何も悪くねぇんだ。」

口調こそ淡々としているが、背中に手を置いてくれる真は優しい。

「そうそう。それに万が一花宮になんかあって俺ら二人しか元の世界に帰れなかったら、俺と一緒になってね?」
『え、ん…?』

一緒になるって…?


「結婚しよう。」


原に両手を握られて、思わず口が半開きになる。

すごい、今、人生で初めてプロポーズされたんだけど私。

「おい、今ここで元の世界に帰れないように殺してやってもいいんだぞ?」

真は一瞬面食らったものの、すぐに原の首に後ろから腕をかけて締め上げる。

「うっ!!」

真の方が身長が低いから、首だけ下に引き摺り下ろされるような形になっている。

「ふはっ、証拠も残らねぇし完全犯罪成立だな!」
「あっ、あ、まっ、死んじゃぅ……!」
「変な声出してんじゃねぇ!!」
「ぁんっ…!!」
「死ね!!」

首を締め上げたまま原の背中を蹴る真。

そう言えばここって夢の中だよね。

『夢の中で死んだらどうなるんだろ。』
「脳が勝手に勘違いしてマジで死ぬとか聞くよな。嘘かほんとか知らねぇけど。」

勘違いで死ぬことがあるってのは私も聞いたことある。

今のところ学校での脱出よりも安全そうだけど、やっぱり三人しかいないってのは心細いのは間違いない。

原と真は全然気にしてなさそうだけど、本当はどう感じているんだろう。






「よし、一番右行くか。」

三つに分かれている道の最後だ。左は森へ繋がっていて、真ん中は進まない道だった。

草原の道幅は三人が横に並んで歩いてちょうどくらい。
森に入ると少し狭くなっているところもあったかな。

右の道は少し進むと木のベンチがあった。

その先で道は行き止まりになっている。あとはただ草原が広がっている。

『これ座っていいのかな。』
「やめとけよ。」

真に制止される。

「お、なんかあったよ。」

ベンチの下を覗き込んだ原が傘を取り出した。

傘と言っても現代人が持っている雨傘ではなく、首に引っ掛ける紐が付いている帽子のような傘。笠地蔵に出てくるやつみたいな。

『1つだけ?』
「うん、これしかない。」

原が傘をかぶる。似合ってないこともないけど服装にはミスマッチだ。

これはいつか使うんだろう。

「これですることなくなったよね。」
「取り敢えず森入って右の道にあった謎解くしかやることねぇな。」

あの謎を解いたら小屋の鍵が見つかるのだろうか。

森に戻ろうと歩いてるところで、原があっと声をあげた。

「ねえ、空気変わってない?」
『空気…?』

立ち止まって鼻を鳴らす原。

「確かに、さっきまでは明らかに朝の空気って感じだったが今は違うな。」

朝の澄み切った感じじゃない。

普通、と言えばいいのか。日中の空気感だ。

「自然と時間が経ったから空気が変わったのか、俺たちの進度に合わせて時間が変わったのか。」
『夕方になるのは分かりやすそうだし、よく見とかなきゃね。』

そう言えば空の青もちょっと濃くなって太陽の光も強くなった気がする。あと雲が増えた。

太陽は出てるけど全然暑くない。最近はもっと暑かったから過ごしやすいな。



「森着いたね。」

森の緑が濃くなったように見える。昼だからだろうか。

きのこを横目に森に入る。

分かれ道で右に向かおうとした時、花宮が立ち止まった。

分かれ道の正面にある木を睨んでいる。

『どうしたの?』
「これ、登るぞ。」

原と顔を見合わせた。原の目は見えないんだけど。

「よく見ろ、木に何か刺さってる。登るためだろ。」

よく見たら木の上の方に茶色の棒がいくつか刺さっている。

でも下の方にはついてないけど、どうやって登るの?

「ダンク出来るなら届くかな?」

原が屈伸を始めた。

『あー、届くかも。でも危ないよ。』

リングの縁を掴むより木の棒を掴む方が難しいだろう。ダンクは掴んだ後に反動で体が揺れるけど、ここだと木にぶち当たるしかない。

『ねえ、これって肩車とか協力しろってことだと思うけど。』
「大丈夫だ、原に跳ばせる。」
『あ、はい。』

原は斜め右から助走をつけて綺麗に跳んだ。

「いったい!!」

当たり前だけどバスケのゴールみたいに前に突き出てるわけじゃないから反動で木にぶつかる。

『ほら、ほらそうなると思った…。』
「しかたねぇ。」

真が笑った。あ、自然体だなぁ。

原は両手で出っ張りを掴み直し、足をなんとか木の表面に引っ掛けながら上体を上げていく。

「んぐぐぐぐっ…。」

片手がもう一本上の出っ張りに届いた。

もう大丈夫そうだ。

最初に掴んだ出っ張りに足をかけて、二股に分かれた大きな枝にしがみついた。

「なんかあるか?」
「はぁ、待って、死ぬ、っ」
「それくらいでへばるなんて情けねぇな。」

冷静な目で原を見上げる真。
まるで実験用のマウスを観察するかのような目だ。

『真、怖い。』
「ん?怖くねぇよ。」

真は少し微笑んで私の頬を軽く撫でた。

びっくりした。
さすがに今の落差には死にそうになる。

「きのこ、きのこあるんだけど。食う?毒味…じゃない!なんかきのこの下に紙あった!」

原が木にしがみついたまま首だけ振り返った。

「マジか、色と模様じゃなかったのか…。」

まるでそこにきのこがあるのを予見していたかのような言い方。

『もしかして、森の入り口の…。』
「あぁ、あれは目立ちすぎだ。」

原が飛び降りてきた。

「手、いったい…。」
『お疲れ。』

原が紙を渡すついでに差し出してきた手をさすってあげる。

『すごいたくさん書いてる。えっと、"オ:BとDはSGとCの4人で先週映画を見にいった。カ:PGは明日Eと部室の掃除をする。"だって。』

花宮が顎に手を当てて考える。

「あと2枚あるな。」
『ヒントの紙?アイとウエの紙だね。』
「間違いなく森の入り口のきのこの下だ。もう一枚はスタート地点まで戻るしかない。」

花宮は手をパンと叩いて原に言い放った。

「原、お前一人で戻ってこい。」



「……マジ?」






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