黒バス脱出原稿

□D-4
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小屋に入ったらドアに鍵が掛けられて、大きな音を立てて次々に窓が閉まっていった。

どうしていいか分かんなくて花宮を振り返ったら。

「うわぁ、ちょ、湧ちゃん?!」

咄嗟に叫びながら崩れ落ちた体に手を伸ばしたけど、花宮の方が一瞬速かった。

湧ちゃんは目を開けたまま花宮の腕に倒れこんで、数秒後に俺らの声には何も反応しないまま意識を飛ばした。

それは俺の背後で最後の窓閉まって、全ての光が消えるのと同時だった。

おかしいでしょ、俺の顔はちゃんと見えてたはずなのに。

湧ちゃんの頭がガクリと前に落ちて、心臓が嫌な音を立てる。

「うそ、え、マジで?」

暗闇の中でもなんとなく分かる、湧ちゃんの白い頬に手を添えて頭を持ち上げる。

全く反応がない。

よく見えないから何も分からなくて余計に焦る。

花宮は何が起きたのか分からないといった顔で呆然と腕の中の湧ちゃんを見下ろしている。

「ねえ花宮、どうしよ。湧ちゃんどうしちゃったの?ねえ、湧ちゃん起きてよ。」

湧ちゃんの目のあたりに顔を寄せる。
目、開いてないね。

「原、落ち着け。」

花宮の声が掠れていた。

見上げても、視線が合わない。

ぶっ倒れた湧ちゃんを抱きしめたまま目をかっ開いて立っている花宮の心臓の上に手を当てた。

「おい…なにしてんだよ…。」

凄まじい速さでドッドッと打ち付けている。

正直このまま心臓発作かなんかで死んじゃうんじゃないかってくらい、限界まで心臓が鳴っている。

「俺は落ち着いてるよ。落ち着いてないのは花宮でしょ。」

だって花宮、さっきから俺に落ち着け落ち着けってなんなの。もっとまともなこと言うでしょいつも。

花宮は無言で湧ちゃんの体を抱き上げた。

「花宮、落ち着こう、ちょっと、ね、座ろ?」
「あぁ…確か入ってすぐ右の隅に藁が積んであった。そこに座るぞ。」
「うん。」

手探りで暗闇を探すとすぐに見つかった。

「あった。この辺全部そうだね。広げよっか。」
「ああ、頼む。」

積まれていた藁を崩して、そこに座る。

「湧ちゃんどう?」

ドアに近いから、隙間から漏れる光でなんとなく様子が見えるようになってきた。

「こいつが暗いところも大きな音も嫌いだってよく知っていたのに。俺が無駄に怖がらせた。まさか気を失うほど苦手だったとは思わなかった。こいつはなんだかんだ言って強いから。」

花宮が雨で濡れた湧ちゃんの前髪を綺麗に分けて、額に唇を押しつけた。

そういや俺のTシャツもびっちょびちょ。
脱いで広げとこ。


「異常だろ。」

服を脱いで藁の上に広げていたら、花宮が唐突にそう言った。

「なにが?」
「湧だよ。確かに暗闇と突発的な大きな音が人より苦手だ。それに訳のわからない世界で小屋の中に閉じ込められた。だが普通、卒倒するか?」
「…分かんないって。」
「つまり意識を失うのも含めてこのゲームの演出なんじゃねぇかってことだ。もしそうなら殺すぞ。」

いやマジ、正直どうなのか分かんないから怒んないで花宮。

俺は女の子だしあり得るんじゃない、って思うけど。湧ちゃんは外に誰かがいて、そいつが俺たちを閉じ込めてどうにかしようとしてると思っちゃて死ぬほど怖かったのかも。

それに前回までの脱出もあるんだからどんどん人よりトラウマも増えていく。あ、そこが異常だって言いたいのか。

んー、でもさ、花宮は出来が良いおかげでそこそこ何にでも完璧を求めるからか、ちょっと心配性なとこもあるからね。湧ちゃんに対してはその心配性が余計に発動しちゃうんでしょ。

たぶん今回は衝撃的で不快なことが重なりすぎただけ。

「俺がなんとかしてあげよっか?」
「…この状況をか?」
「うん。まあ俺前髪こんなんだからかしんないけど、慣れちゃってんだよねー。暗い感じ。」

隙間から入る光も多少はあるし。

「小屋から出なきゃいけないんだもんね。」
「あぁ、恐らく、な。」

花宮はさっきから湧ちゃんの顔しか見てないし。目ぇ見開いて、食い入るように見つめてる。

「花宮、湧ちゃんも、服濡れてない?」
「湧はマシだな。俺も脱ぐ。」

湧ちゃんを膝に乗せたまま、器用に花宮は服を脱ぎ始めた。



花宮真って、エネルギッシュな人間だ。

他人の不幸や他人への憎しみを支えに生きてる。気に食わない人間の絶望した顔を見るためなら全力。いきいきしちゃって。

後ろ向きな方向に前向き。

面白いなと思うと同時に、俺なんかより根っから腐りきっててどうしようもない人間だと思ってた。

だから、花宮が湧ちゃんのこと好きなんだって気がついた時、困惑した。

人の苦しむ顔が好きだなんて狂ってる感性が、綺麗に笑える彼女に愛情をどう伝えるんだろって。さすがに二人の行く末に単純な興味を抱くだけとはいかなかった。


だけどそれは同時にチャンスなんだと、はっきり分かった。

これを逃したら、湧ちゃんを逃したら、きっと花宮に幸せな未来はやってこない。


湧ちゃんにとって花宮がどれほどの存在なのかは分からない。
高尾クンとか誠凛さんのことを考えたら大切なものは多そうだし。

けど花宮にとって湧ちゃんは、もう今のこの表情だけで分かっちゃうほど大きいんだよ。

きっと自分の信条よりも、金よりも、名声よりも、湧ちゃんを選ぶんだよ。それも常に確実に、完璧に。


命よりも。


それが花宮の狂気なんだ。

あれ、なんだ、変わってないのかも、花宮。


「あー、なんか見えてきた気がする!」

大きな声を出すと、花宮が漸く顔を上げた。

「明かりがつきそうなもんねぇのか。」

山小屋っぽいしランタンとか?

少し歩いてみる。

お、なんか机みたいなのある。表面ざらざらでテキトーに作った感ハンパないやつ。机の下は…っと、ビンゴ。

「あったよ、ランタンみたいなやつ!しかも電池式じゃん…え、ついたんだけど。」

こういうのって電池探してこなきゃいけないんじゃないの?

まあついたんだからいっか。

ランタンを持ってまずは花宮の元へ。

湧ちゃんの顔に光を近づけてみる。

全然普通の顔、寝てるみたい。

花宮も顔色を見てちょっとホッとしたのか、優しい表情で、雨に濡れた湧ちゃんの頬を服で拭った。

湧ちゃん寒くないかな?ま、裸の彼氏クンがしっかり抱っこしてるから大丈夫か。

いけるっしょ。

「色々ありそうだし探してみるね。花宮はそこで湧ちゃんしっかり抱っこしてて。」
「あぁ。」

うん、頼まれました。




つーか半裸の男二人に意識のない女の子ってヤバくない?ヤバいよね?
まあ今は興奮してる余裕なんてないけどね!


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