海賊パロ原稿

□雛鳥の足元
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船が大きく揺れて目が覚めた。

フカフカのベッドの中から頭を恐る恐る出してみる。

別に船がどうこうなることが怖いのではない、日の光の強さを警戒したのだ。

『昼だ…たぶん。』

ベッドの中で盛大に呻きながら伸びる。
猫のように伸びる。

外に出る気は起きない。

でも引きこもりなんて大層なもんじゃない。

夜になるとちゃんと働く。
晩御飯の食器の後片付けとか、手伝うし…。

でも昼は出ない。

なんでだろう。
もう誰もそんなこと聞かなくなったけど。

寝返りを打つと緑のくまのぬいぐるみがある。
抱きしめて扉を背に、横向きで寝る。これが基本姿勢。



その時、コンコンとドアが叩かれた。

「俺だ、入るぞ。」

真太郎の声だ。
起き上がることもないな。

サッとドアが開いて真太郎が入ってきた。

布団にくるまっているから姿は見ていないが、ちゃんと真太郎だってことは分かる。

無言で入って来られても誰が来たのかくらいは分かる。
海賊だからね、気配にはそれなりに敏感だ。


「さっき少し揺れたが大丈夫だったみたいだな。昼飯はどうした?」

心配性だな、神経質とも言うか。

『まだ、食べてない。』
「どうせお前は俺が持ってくるのを待っていたのだろうな。」

布団がベリッと剥がされた。

『な、何。』
「食うのだよ。それから起きるのだ。」

ぬいぐるみに埋めていた顔を上げて見てみると、包まれたサンドイッチが目の前にあった。

『なんで?何かあった?』

真太郎がこうやって布団をめくったり起きろと言ったりすることはあまりない。
理由なくすることは絶対にない。

「お前に会いたいという者がいるのだよ。」
『誰?』

みんな会いたいなら普通に入って来るじゃんいつも。
どうして真太郎を通すの?

もしかしてこの船の人じゃないとか。

サンドイッチを受け取って起き上がると真太郎にパーカーを投げられた。

「それを着るのだよ。」

Tシャツだけが寒そうに見えたのかもしれない。

投げられたオフホワイトのパーカーを着ると真太郎がドアを開けた。




「失礼しまーっス。」

見たことのない男の子が入ってくる。

宮地さんよりは色の濃い金髪がキラキラしている。
眩しいなぁ。


「えっと…この間からここの海賊団に入りました、黄瀬涼太です。あ、名前は船長さんと笠松さんにつけてもらったんスけど…。」

へぇ、笠松さんがつけたのは初めてだ。
二人で考えたのかな?

「虹村さんが苗字を、笠松さんは下の名前の漢字を決めたのだよ。」

私の疑問を読み取って教えてくれる真太郎。
髪の毛が黄色だから黄瀬ってことか。

この海賊団もかなりカラフルになってきた。

『そうなんだね。笠松さんが新人担当か。』

別に新人担当、なんて役割はないんだけど、命名者というのはやはり深い繋がりがその後も続く。

私と真太郎みたいに。

『蘭乃湧です。よろしく。ちなみに名前は全部真太郎が考えてくれたよ。』

黄瀬くんが目を丸くして真太郎を見た。

「漢字、画数、音、全てにおいて完璧なのだよ。」
「どうして緑間っちが決めたんスか?っていうか何で俺は笠松さんだったんスか?」

好奇心に満ちた目が私を見る。

『えっと、私は真太郎に拾われたから?その頃まだ真太郎は海賊じゃなかったけどね。』
「お前が笠松さんに名付けられた理由など特にないのだよ。」
「え、理由ないんスか?!」

あれ、理由ないんだ。
珍しいな。

確か二年前、赤司くんが敵船から拾ってきた奴隷の男の子を気に入って、降旗光樹と名付けた。

そもそも、名前のない子が拾われて海賊団に入る事自体が珍しいので、これくらいしか例がないのだが、名付け親に理由は欲しいところだ。

「ただ、虹村さんが黄瀬を見てすぐに笠松が良いとピンと来たらしい。あの人のそういう直感は信じていいのだよ。」

真太郎がちょっと優しい声を出した。

名前がない、親を知らない。

そういうのは繊細な問題だ。

「そうっスか。まぁ俺は何でも良いっス。」

黄瀬くんはそう言ってにっこり笑った。
かっこいい顔だなと思った。

「あ、俺ら赤司っち曰く年が近いんで、湧っちって呼んでもいいっスか?!」
『え、いいけど…。』

既に真太郎や征もあだ名で呼ばれていた。

「あ、俺のこと涼太って呼んでくれてもいいんスよ?」

何そのお誘い。

真太郎が眼鏡のフレームを押し上げた。

『…涼太?』
「はいっス!俺、もともと"りょうた"って名前だけは付いてたんでそう呼んでくれると嬉しいっス。」

そう言えばそうだった。

そういうことなら呼んであげよう、涼太ね。

「たまには外に出てきて下さいね!」

涼太はキラッキラのスマイルで私の両手を包み込んでブンブン振った。

『うん、出るよ…戦闘時には絶対。』

そう言うと涼太はあっ、と声をあげた。

「湧っちってどうやって戦うんスか?能力?」
『違うよ。普通に戦うけど。』

女の子なのに能力無しにどうやって戦うのか疑問に思われているのだろう。

真太郎を見ると肩を竦められた。

「湧は戦況を読むのが上手いのだよ。分析とかそういうことではない。自分のやれることを理解しているという意味だ。」
「どういうことっスか?」

涼太が首を傾げるが、こんなところで初心者に説明を始めてもいいのだろうか。

「例えば目の前に…そうだな、火神が現れたとしよう。お前は戦うか?」
「戦わないっスね。負けます。」

即答したということは彼の強さを知っているのだろう。

火神大我、切込み隊長を自負している。
メラメラの実の能力者で体が火になる、火が出せる、最近は小さい太陽も出せるらしい。

「そういうことだ。うちの海賊団は個人で戦果をあげる必要はない。一人一人がするべきことを完璧に成し遂げる総合力が必要なのだよ。湧は自分がすべきことを見つけるのが上手い。決して無茶せず確実に仕事をするから周りも安心して戦える。そういうことなのだよ。」

真太郎も強い。能力者だから。

しかも自然系の力を持つと尚更だ。

例えば大我だと、刀で切っても銃で撃っても体が火だから傷つけることが出来ない。

つまり物理的攻撃が一切効かない。

とは言え、実体がない自然系の能力者と唯一戦える技があったりするので、これも追い追い涼太に説明しなければならない。




とにかく、涼太はまず戦闘における海賊団の中での自分の位置付けを学ばなければならないだろう。

上手いこと小さめの海賊団とかが襲って来ればいいんだけどな。



「でも俺、強くなりたいっス。火神っちにも勝てるように。」



涼太が言った。
やけに意志の強い物言いに真太郎と顔を見合わせる。

「あぁ、そうだな。みんなそう思っているだろう。俺も思っているのだよ。」


真太郎はそう言って頷いたが、涼太はどうして強くなりたいのだろう。




真太郎は、この船のみんなは、この船のみんなのため、家族のために強くなりたいと思うんだよ。







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赤司くんは中の人繋がりでいくつもりです。




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