海賊パロ原稿

□曲がらない航路
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曲がらない航路


(黒子視点)






火神くんと一緒に偵察から三日ぶりにこの船に帰って来ました。

「おっと、お疲れさん。どうだった?」

いつも通り火神くんにストライカーから船の甲板に投げられましたが、木吉先輩がキャッチしてくれました。

ちなみにストライカーとは、火神くんが出す火力で動く小舟のことです。
本来は1人乗りですが、僕くらいの体格だと火神くんは余裕で背負えるそうです。


「ありがとうございます。また後で報告しますが出撃の可能性ありです。」
「そうか、じゃあ準備しなきゃな。」

木吉先輩は大きな手で僕の頭を撫でてから船内へ入って行きました。

木吉先輩は怪我をしていましたが、次の戦闘では復帰出来るでしょうか。
気になりますが無茶はして欲しくありません。

「黒子、虹村さんへの報告は頼んだ。俺は湧連れ出して来る。」

いつの間にか甲板へ上がって来ていた火神くんが、Tシャツを脱ぎながら言いました。


「分かりました。行ってきます。」

火神くんはたまにストライカーに湧さんを乗せます。

僕と乗る時のように、背中に湧さんを背負って、足から出した火を火力に進みます。

火力を出すと結構なスピードが出ますが、転覆すると大変なことになるのでいつもは安全第一です。

僕も火神くんも能力者なので、転覆すればそのまま沈んでしまいます。
能力者は海水に浸かると力が奪われていきますから。

その点湧さんは能力者ではないので、もしものことがあっても大丈夫です。

まぁ湧さんを乗せて転覆でもすれば緑間くんに殺されかねませんが。


「おーい黒子!おかえり!」

声のする方を見上げると、見張り台にいる高尾くんが見えました。

「高尾くん一人ですか…!」

叫ばないと聞こえません。

「あぁ!いつも通りな!」

見張りは当番制で、高尾くんがいるメインマスト上の見張り台と、後方甲板にある見張り台の二か所に一人ずつが基本です。

でも"目の良い"高尾くんと伊月さんは一人で二人分こなします。

ちなみに湧さんは不寝番のみの担当ですね。




あぁ、そろそろ虹村さんのところへ行かなければいけません。

非常に大切な報告がありますから。


この仕事が出来るのは僕だけですし。






**
(高尾視点!)





黒子がキャプテンへの報告を終えて帰ってきたときにはもう、火神は湧を部屋から連れ出して来ていた。

俺はそれを見張り台の上から見ている。

ふとメインマストがギシリと鳴り、下を覗いて見ると緑色の頭がマストを登ってくる。

真ちゃんだ。

上から湧を見守るつもりなんだな。

黒子がそんな真ちゃんをチラリと見てから、船の柵にもたれかかって火神達を見た。


「高尾、邪魔をする。」
「どーぞどーぞ。」

新聞を片手に見張り台に登ってきた真ちゃん。
真ちゃんサイズの男が来ると結構狭いんだよな。
ま、人とくっつくのとか全然嫌じゃないタイプだからいいんだけどな。

「新聞なんかあった?」
「何もないが。ただ黒子の持ち帰った情報からすると、近々また一戦交える相手がいそうだ。」

なるほどね、普段は読み飛ばすところも読んでおこうって訳か。
そういうのは俺の仕事じゃないから、真ちゃん達には頑張ってもらわないとな。

「そろそろ寒くなってきたよなー。明日から冬島の領域入るって?」
「あぁ、実渕さんがそのようなことを言っていたな。倉庫から毛布を出さないといけないのだよ。」

ストライカーが船の陰から飛び出してくる。

火神に背負われた湧が甲板から見守る黒子にヘラリと手を振った。
律儀に手を振り返す黒子。

真ちゃんや俺も見てんだけどなぁ。

横目で真ちゃんを見ると目線は海に釘付けで、何の意味もなく広げた新聞が風に柔らかくはためいていた。

「湧出てきたな。」
「あいつは呼び出せば素直に出てくるのだよ。」

あーほら、優しい声出しちゃって。

だいたいいくら海に危険な生物たちがいようとも、俺がこうやって見張ってんだから、ちょっとひっくり返って溺れたくらいじゃ何ともならねぇんだけどな。

腰に差した銃を撫でる。

「さっき言ってた一戦交えるってヤバい奴らなの?」
「…いや、そこまで詳しくは俺も知らない。虹村さんの様子を見る限り簡単な戦いではないと思うが。」

ふーん、じゃあ新人の黄瀬もいることだし少しは戦闘の練習台になってくれる海賊とか欲しいよな。

黄瀬は最近は能力を使わずに青峰と手合わせしてるみたいだし大丈夫だろうけどな。

俺も鷹の目の精度、確認したいし。

それはそうと、黄瀬は人を殺したことがあるのだろうか。
別に心配してあげてる訳ではなく、単純に人を殺したことがない奴が初めて人を殺す時ってどんな感覚なんだろうか、って気になる。

「真ちゃんってさ、割と劣悪な環境で育ったじゃん?」
「突然どうしたのだよ。」
「そんでまだちっさい湧拾ってさ、湧とそこで生きてたんだろ。湧の人生殆ど知ってる訳だ。」
「今さら何を言っている。みんな知っていることだろう。」

真ちゃんの訝しげな顔がやっと俺の方を向く。

「いや、黄瀬って人殺したことあるのかなって。」

脈絡のない言葉に聞こえたかもしれないけど、湧の初人殺しをスパッと真っ直ぐ尋ねられる程俺は無神経じゃないし。

「…お前の聞きたいことは分かったのだよ。」

真ちゃんはそう言って黙った。

火神のストライカーは夕日に向かって真っ直ぐ進んでいる。

食堂の方から福井さんと宮地さんが出てきた。
金髪コンビ。
ストライカーを指差して宮地さんが叫んでいる。

「不思議なことは何もないだろう。必要なことをしただけだ。今も。」

正しく生きるために、ただ命を繋ぐために、俺らは色んな理由で人を殺した。

そんなこと今さらすぎて、もはや日常。

当たり前だろ、何の縁か今同じ船に乗ってる俺らは運命共同体ってやつだ。

ここに乗り込んだからには俺らが生き残るためにやるしかない、やってやる、俺が一人でも多く殺してやる、ってそんくらいの気負いがなきゃ殺されちまうし。




そんな日常を知らなかった頃を俺は思い出せなかった。




「俺は、湧と生きるために強くなったのだよ。湧がどうかは知らん。だが湧は今も生きている。俺はその事実だけで満足なのだよ。」


あぁ、そうだろうな。
だってお前すげぇ満足そうな声だ。


食堂から出てきた小金井さんが中華鍋の底をお玉で叩く。

グワングワンと鳴るその音に遠くの方にいる湧が振り返った。

もうすぐ夕食だな。


「俺も降りることにしよう。」
「帰ってくるまで見てなくていいの?」
「あぁ、お前が見ているのだろう?」


何だよそれ、それで良かったのかよ。


「あぁ、それから、お前に初めて会った日のことを俺はしっかり覚えている。随分馴れ馴れしい嫌な奴だと思ったのだよ。」


そう言って真ちゃんはヒラリと見張り台から飛び降りた。
びっくりしたような宮地さんの声が下から聞こえた。

俺の目の前には白い煙が残る。






何だよあれ、ツンデレか。

覚えているとデレてからの罵倒に俺は唖然とする。




てか登ってくる時も能力使えよ!






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船のイメージがつかない人は"サウザンドサニー号"で検索してみて下さい。
地味にこの海賊団の名前決めてません。
書く予定はないですが黒子っちは普通の家庭で育った設定です。
隠れ設定多すぎて忘れそうです…。




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