海賊パロ原稿

□語りえぬこと
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語りえぬこと






ガンガンと嫌な音が聞こえてきて、急いで、でも落ち着いてベッドを飛び出した。

非常事態を知らせる鐘…そう言えばあれ誰が鳴らしてるんだろういつも。


白い棚の一番下からブーツを取り出して履いているとバタン、と部屋のドアが勢いよく開いた。

「何してんの!速く!」

ニッと笑いながら手を伸ばすのは一哉。

『そんなに急いでるの。』
「別に、速く行きたいの!」

その手に捕まって立ち上がり、走り出す。

船内から甲板に走り出ると、既に説明されなくても状況は理解出来た。

一隻の船が近くまで来ていた。
敵襲だ。

そういや黄瀬のためにも練習台になってくれる敵が欲しいと言っていた時から1週間は経ったな。

『あの船、ガレオン船だ…。』

至極どうでも良い感想を述べると涼太が食いついてくる。

「ガレオン船って何スか!!」
『えっ、船のタイプ…?うちのはスループ船だけど。』

初めての戦闘に緊張してるのか、何でも聞き漏らすまいと過敏になっているようだ。

「黄瀬ぇ、お前今からそんな興奮状態じゃもたねぇぞ。」

久しぶりに見た青峰が黄瀬の肩を叩いた。

それより結構近づいてきてるんだけど。

っていうかどこの海賊団だろ。

遥か上空の見張り台から飛び降りてきた火神は、既に上半身裸で膝までの黒いズボンを履いているだけだ。
実体のない自然系能力者は羨ましい。

花宮なんて研究に研究を重ねた戦闘用の黒のつなぎを着ているというのに。
ありとあらゆる衝撃を想定して作ったらしい。
火神の最大火力にも負けないと聞いた。





「お前ら聞け!」



船内から黛さんと出てきたキャプテンが声を張り上げた。

「相手はレイニア海賊団!能力者は恐らく二人!」

実渕さんが走り出てきて手配書ポスターを掲げる。

2億と1億3800万の首だ。

横目で涼太を見ると既に頭の中が大混乱といった感じか。

「いつも通り伊月は船からの狙撃。今回船には木吉と俺、黛、水戸部、小金井が残る!体調悪いやつも残れよ!」

真太郎の視線。

『これ、この間決めた班関係ないよね?』
「ないな。」

肩を竦める真太郎は当たり前だが落ち着いている。


「いいか、負ける相手ではないが気合入れて行くぞ!」

どこがで一哉が奇声をあげる。
元気が良い。

キャプテンが合図して、火神が敵船へと飛んだ。
完全に黒豹になった青峰もその後を追う。

伊月がメインマストを登っていく。

「へ、なに、どうやってみんなあっちに乗り込むんスか!」

涼太が不安げに叫んだ。

その隣で真太郎が煙になって真上に飛んで行った。

もちろんだがこんな芸当は生身の人間には出来ない。

「せっかちだな、黄瀬は。」

涼太を見ながら征が笑って手を地面に翳した。

「"ROOM"…。」

征の前に大きな透明のドームができ、それはあっという間に広がって私たちと相手の船を覆う。


「え、何これ、逃げ、へ?!」
『大丈夫、このドームの中にあるものを征は自在に動かせるの。例えば涼太の頭と木箱をすり替えるとかね。』

物理的なダメージなしに物をパズルのように入れ替えることが出来る征の能力。
医療行為にも広く使える優れもの。

構造はよく分からないけれど、心臓だけ抜き取ってるのもよく見る。
手に入った心臓を握り潰せば終わりだ。

「つまり敵船にあるガラクタと俺たちを入れ替えると…。」

森山が涼太にそう言った瞬間、征が楽しそうに言った。

「"シャンブルズ"。」

視界が一変した。

あっという間に敵船の甲板。

ドームは消滅している。

さっきまで甲板にいた全員が移動していた。

こんなふうにね、と楽しそうに森山さんが呟いた。

火神や青峰、真太郎など自分で飛んでいける人以外はこうやって移動する。

「黄瀬ついてこい!」
笠松さんの怒鳴る声。
ポカンとした顔をしていた涼太がハッと顔を引き締め、笠松さんに続いて走り出した。


既に火神が暴れた後があるが敵はたくさんいる。
青峰は今ごろ強いやつを探しているのだろう。


『どこからいくかな…。』



高尾がスルリと船内に入っていくのが見えて、気まぐれにその後を追うことにした。










知らない船を歩くのはドキドキする。

それは物陰から誰か出てくるんじゃないかとか、そういうドキドキではない。

この船はうちの船より大きいから、高尾がどこに行ったのかはもう分からない。

『誰かいる?』

何となく声に出してみる。

銃声、叫び声、怒号が外から聞こえてくるけれど船内は静かだ。

みんな外にいるのかな。

やっぱり出て行こうと後ろを向いた時、感じた。

一瞬でまた振り返る。

目の前に知らない男が目を見開いて立っていた。

迷いなくその顔面に銃を撃ち込む。

男はバタリと倒れた。


『わぉ…まだいる?』

外が騒がしすぎて全然分からないや。

素早くその場を離れて船内から出た。









船内から出て船尾の方へと回る。

今日は天気が良い。

甲板の真ん中に黄色い頭が見えて、涼太が初戦闘ながらも頑張っているのがよく見えた。

『…全然周り見えてないけど。』

前方と横くらいは見えているのだろうが全く後方が見えていないらしい。

今まで青峰と1対1で戦う練習ばかりしてきたからだろう。

結構危ない。

涼太の後ろに飛び込んだ。

『涼太、後ろいるからね。』
「へっ?!あ、了解っス!」


時折上がる炎はあそこに火神がいるってことだ。


「湧ちん!」


突然むっくんの声が聞こえて何事かと周りを警戒すると確かに強そうな気配が。

手練れの剣士といったところか。
私には少し荷が重い。

すぐさま体を引くと、既に半身がダイヤモンド化したむっくんが私の前に飛び降りた。

むっくんの能力は全身ダイヤモンドになれる能力。ダイヤモンド人間。


ダイヤモンドの硬さはどんな斬撃にも勝る。


剣士はむっくんの得意な相手。

ここはむっくんと涼太と笠松さんだけで大丈夫そうだ。



周りを見渡すと、少し遠くで苦戦しているらしい良くんが見えた。

完全に顔が強張ってしまっている良くんの元へと慌てて飛び込む。


『良くん!』
「湧ちゃん…!」

銃をホルダーに突っ込み、今度は剣を抜く。





遠くの方から青峰の咆哮が聞こえた気がした。





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迷走してる?いえ、そんなことはありません。
読んで頂いてありがとうございます。



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