海賊パロ原稿

□届かないイノセント
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届かないイノセント







一息ついた時、背後から良くんを切ろうとしている敵を見つけてその頭を撃ち抜く。

『良くん!!』
「湧ちゃん!!」

すいませんと頭を下げる良くんの息は上がっている。

良くんを見ていると戦いにおいて大切なのは正確さだけじゃないとつくづく感じる。

正確さが自分の武器だと思っていたが容赦のなさ、もしくはいらないことを考えない冷たさが必要なのかもしれない。


『良くん血、出てるね。』

良くんの右頬から流れる血に触れようとしたとき、背中を冷たい汗が伝った。


反射的に振り向く。
誰もいない。

まさかそんなことない。
どこかにいる。

次の瞬間パァンと銃声がなって顔の真横を銃弾が通った。

「湧ちゃん…!!」
『見つけた。』

良くんを左手で押しのけて、銃声がした方へとピストルを向ける。

『良くん。良くんなら当てれるでしょ。』

彼は命中率が良いから。




「っ、無理だよ。」





思わず良くんの顔を見た。

良くんが見ている場所、その目、殺気を見れば分かる。

どうやら囲まれているらしい。
こっちの海賊団もけっこう数がいるのに、どうして私たち2人の周りにだけ集まったんだろう。

…まぁ明らかに弱そうだったんだろうけど。


どうしよう、降伏は嫌だ。
降伏しても殺される気しかしないけど。



『久しぶりにやるしかないか。』



数の力はとても恐ろしい。
青峰だってきっと大我には勝てても、大我50人には勝てない。


けれど負けないことは出来る。


私はピストルを投げ捨てて良くんの肩を掴んだ。

そしてそのまま壊れた柵の隙間から勢いよく海へと落ちた。

背後からは何十もの銃弾の音。

けれど銃弾は届かない。

水しぶきを上げて海に落ちる。


掴んだ良くんは抵抗しなかった。










海に嫌われた能力者は、海と愛し合える弱い私たちを、どう思うのだろうか。








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(高尾視点)












俺の武器はもちろん目が良いこと、それに尽きると思う。







「撤収だ、爆発するかもしれないらしい!火神が船底に大穴開けて、それが武器庫のそばだって話だ!」


少し遠くにいた笠松さんの声を聞いて真ちゃんを見て頷き合った。

ただの人の身の俺には俺たちの船にはどう頑張っても届かない。

まさか海を泳いで行く訳にも行かないから、本当は赤司の能力でまとめて移動させて欲しいけどそんな暇はない。

まず赤司が見つからない。

「高尾、湧を探せ。」

真ちゃんは煙だ。
煙はもちろん宙に浮くことが出来るからいつも移動の際は助けられている。

しかし真ちゃん、優先順位がはっきりしていて湧を見つけない限りは俺を助けてくれない。

「りょ!湧なぁ、どこいったんだろ。」

ふと遠くに青峰が見えた。

「青峰!湧の匂いは!」
「あ?!そんなもんするかよ!血と火薬の匂いばっかだ!」

獣の身を持つ青峰の嗅覚でも探れない。

そりゃそうだ。

だって俺だって血でベッタベタだし。

「おっかしいな。湧いなくね?いつもサラッと現れるのになぁ。」

先に赤司と帰ったか。

甲板は倒れた敵達で埋め尽くされていて、立ち上がってるのは殆ど俺たちの船の奴ら。

「わりぃ!やっちまった!」

船内から勢いよく出てきたのは火神と今吉さんと諏佐さん。

「おい、火神お前…って今吉さん?!」

諏佐さんに肩を借りた今吉さんの太もも辺りから血が流れている。

「堪忍な。ワシがやらかしてもーたからやねん。…そんなことより今は撤収や。」

三人の後ろから赤司が飛び出してくる。

「お前ら集まれ!移送するぞ、"ROOM"!」
「湧はどこだ?」

広がるサークルの中で火神の疑問に赤司が辺りを見渡す。

福井さんもいる、森山さんもいる…氷室さんと紫原が駆けてきた。

「桜井もいないぞ!」

諏佐さんが叫んだ。

「とにかく移送する!"シャンブルズ"!」

赤司の叫び声とともにその中にいた奴らは俺らの船へと残った。

サークルから外されて残ったのは赤司、真ちゃん、氷室さん、日向さん、俺。

「湧と良を探す。緑間は高尾を連れて上に…。」

指示を出す赤司が目を見開いた。

瞬間、俺の後頭部を襲う激痛。

「いっ……!」

足元にコロリと白い玉が落ちた。

「これ伊月さんの!」

伊月さんが俺の後頭部に命中させたであろうその白い玉には文字が書いてあった。

"戻れ"

「赤司!戻れって!」
「ああ行くぞ、"ROOM、シャンブルズ"!」

赤司が頷いた瞬間、パッと視界が変わって自分の船の甲板に転がっていた。

つーか伊月さん、船にいるメンツを見て迷わず俺の後頭部を狙ったんだろうな。面白いけどひでーな。


「おし、全員揃ったぞ!」

俺たちを見て虹村さんが叫ぶ。

桜井と湧は、そう言おうと立ち上がった時、海からビショビショの湧と桜井が諏佐さんに担がれて現れた。

すぐさま真ちゃんが湧へ駆け寄る。

それにしても普段軽率に脱がない諏佐さんの貴重な半裸姿。

「わーぉ、良い体…。」

ドカン、と敵の海賊船が音を上げるのを聞こえるが見ている暇はない。

真ちゃんは湧が無事なのを確認したのか、今吉さんを診る赤司の手伝いに行った。

甲板では虹村さんがしゃがみこんで桜井の頭を小突いている。

「おい、バスタオル持ってきたぞ。」

黛さんが真っ白なバスタオルを広げて湧を包んだ。

「海に落ちたか?」
『自分から落ちたの。囲まれてどうしようもなかった。応援を呼ぶ暇もなかった。』

大層ご立腹な様子の湧。

「まぁ良い判断だ。」

黛さんが励ますように肩を叩いて立ち上がらせた。

目が良いとか言いながら、湧と桜井を見つけられなかった俺は何をしていたのだか。









この海賊団の七不思議の一つとして、俺は湧の立ち位置の不安定さを上げたいと思う。

真ちゃんにとっては守るべきお姫様、桜井にとっては頼れる同期、火神にとっては可愛い妹、花宮さん、今吉さん、諏佐さん、キャプテン。



俺なんて誰から見ても百発百中の陽気者。







『シャワー浴びてきてもいいの?』
「あぁ、風邪を引かないようにな。」

立ち上がった湧の体に張り付いた白いシャツ。
これを見ても真ちゃんには可愛い可愛いお姫様なのか。

湧が頬の血を拭って黛さんにバスタオルを投げ渡す。



俺から見た湧は最高に良い女なんだけどな。









ま、黛さんから見てもそうなんだろーけど。







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