海賊パロ原稿
□オレンジの慰め
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オレンジの慰め
無心に夕食に食らいついていた青峰は、隣の人間がついた小さなため息に顔をあげた。
その目に映ったのはいつも通り困った顔をした水戸部。
「あぁ?凛かよ。どうした。」
聞いたところで答えが分かるはずもないのだが。
アワアワと食堂の出口を指差したりと忙しい水戸部と、眉間に皺を寄せて首を捻る青峰を見ながら花宮は考える。
水戸部の気持ちが分かる装置とかどうだ?
「とべちんどーしたのー?」
多少は水戸部の気持ちが分かるらしい紫原もそこに加わる。
待てよ、やはり水戸部の気持ちが分かる小金井を調べた方が面白いか、花宮は箸を止めかけるがハッとした。
馬鹿たちに囲まれたせいで無駄なことを考えてしまった。
「おい、お前らさっさと小金井呼べよ。」
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不寝番なのを思い出して外に出た。
ここ二日くらいは完全に引きこもっていたからかなり久しぶりな外の空気。
「あ、湧さん、お久しぶりです。」
突然背後から声を掛けられたと思ったらもちろんテツヤ。
『あー、久しぶり。』
「どうかしましたか?」
『見張り、夜の。』
「あぁなるほど。」
テツヤと外へ向かう。
「それでは僕は食堂へ行きますので。」
ねぜか両手を広げて抱擁を求めてくるテツヤ。
『ん、じゃあね。』
軽く抱擁を交わす。
体薄いなぁ。
この間抱きついたのが木吉だから余計にそう感じるのか。
メインマストの下にたどり着く。
見張り台は海面から20mくらいのところにある。
煙になって飛んでいけない私は地道に登るしかない。
なんだかいつもより遠く感じる。
やばいなぁ、二日も引きこもってたら体がダメになってるのかな。
ふと視線を感じて下を見ると水戸部。
オロオロしてるのが分かる。
水戸部はみんなの不調とかによく気づく方だから心配をかけているのかもしれない。
『不寝番行ってくるね。』
そう声を掛けるとコクンと頷いてくれた。
10mくらい登るともうすぐだ。
今日は少し風が強いか。
下を見ればまだ水戸部がいる。
落ちないように見張っているのだろうか。
落ちたところで水戸部にはどうしようも出来ないと思うのだが。
マストを登りきり、見張り台に入る。ここは狭い。
閉所恐怖症を患う人間がいるらしい。
私は逆なんだろう。
狭いところは落ち着く。
水平線の向こうがほんのりと明るい世界を見る。
夜はまだまだ長い。
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ふとマストが揺れていることに気づいた。
たぶん誰か登ってきている。
「おい、手貸せよ。」
低く響いた声に驚く。
この人はここに私がいることを知って来たのか。
青峰は。
『青峰、自分で上がってこれるでしょ…。』
寧ろこういう身軽さが必要なことはこの船で一番得意だろうに。
「あ?つれねーな。」
よっこらせ、と言いながら濃い青のパーカーを着た青峰が飛び込んで来た。
狭いのに危ない。
「ほら、詰めろ詰めろ。」
『ちょ、どこに…。』
強引に背中を押されて間に入られる。
なぜか青峰の足の間に座ってその立派な胸筋を背もたれすることに。
「あったけぇな。」
『パーカー1枚だから悪いんだよ。』
青峰の両手がお腹に巻き付けられている。
右腕に一筋の刀傷を見つけた。
『これ、この間の傷?』
「あー、そうだな、お前と良が海落ちた時のな。」
結構前なのにまだ傷が残ってるってことは治療してないな。
しかもそれに征と真太郎を含め全員が気づかない筈がないから誰も言及しなかったと。
『治しなよちゃんと。』
「いいだろ別にこんくらい。」
面白くなさそうな声。
まぁ確かにその傷自体はどうでもいいけど。
でも傷から菌やらなんやらが入って病気になったりするらしい。
真太郎に戦闘が終わる度に口酸っぱく言われて、全身の点検をされそうになるから知っている。
いつも高尾が爆笑しながらそれを止めてくれるけど。
モヤっとした私の雰囲気を感じ取ってか、青峰の右手が私の前髪を乱した。
「いいだろ、どんなことで死のうがそこまでの人間だって話だ。」
青峰のこういうところは本当に治らない。
嫌いだ。
まぁ仕方ないけど。
騒がしさをまとった空気がだんだん、だんだん薄くなっていく。
この時間帯が好きだ。
波と風の音しか聞こえない夜中は寂しいから。
これだから外は嫌いなんだ。
昼は騒がしく夜は静かすぎる。
「お前さ、何が欲しいんだよ。」
唐突に青峰が呟いた。
青峰の欲しいものを知らない人なんていないだろう。
「何かに執着するって感じじゃねぇよなお前。」
確かに言われてみればそんな気がする。
私の欲しいものは何なんだろうか。
この船のみんなの欲しいものなんて突き詰めれば大抵がこの海賊団、家族のためだ。
青峰はそうじゃないかもしれないけど。
花宮でさえ彼の求める様々なものはこの船での快適な暮らしのためである。
本人は激しく否定するだろうが。
私は明確な欲しいものもなれけば目標もない。
『でも人間は欲深いよ。』
お腹に巻き付けられた真っ黒な手にそっと触れた。
青峰はこの船で火神の次に体温が高い。
『私は青峰とずっといたい。』
「そーかよ。」
甘えるように手の甲をさすってみると、素早く力強く、手を掴まれた。
「俺は探し物が見つかるまでは死なねぇ。そんでその探し物はきっと見つからねぇ。だから俺は死なねぇよ。」
キャプテンや征と戦う訳にはいかないからね。
「俺は最強だからな。」
探し物が見つからないことが幸せであることだってあるのだ。
暫くして青峰は夜の闇の中へ帰っていった。
たぶん見張り台からジャンプしたのだろうが、全体的に黒すぎて見えなかった。
彼は何の為に来たのだろう。
そして夜の闇と共に2人目の珍客が訪れる。
**
船室へと続くドアが開く静かな音が聞こえた。
見張り台から顔を出しても暗くて見えない。
まぁ心配しなくても黒い影はうちの船員のはず。
その人はマストを登り始めた。
『…誰?』
特に意味はないが足に指している銃に触れながら問いかける。
「あ?俺だよ。起きてたのかよ。」
この声は、まさかの花宮真。
しかも見張りの人に対して起きてたのかなんて、酷いというか、愚問というか。
見張り台がギシリと鳴って花宮の上体が現れた。
青峰とは対照的に白のセーターが見張り台を少し明るくしてくれる。
花宮は何か布のようなものを肩に掛けていた。
「よぉ、生きてたか。」
『死んでたら大問題だよ。』
花宮の手が乱暴に私の頭を撫でた。
『どうしたの。こんな夜中に。』
花宮は持っていた布を私に差し出した。
「俺が着ているつなぎと同じものだ。お前の体型に合わせて作った。」
『え、計られてないけど。』
「お前の姿なんて嫌という程見てるだろ。」
能力を持たない花宮が自力で開発した黒の戦闘着。
つなぎと言う人は多いけど、上下が繋がっているだけで一般的なつなぎよりもよっぽどかっこいい。
「あらゆる衝撃を想定して作った。切断耐性、耐火性、衝撃耐性。一度だけなら手榴弾級の爆発を半径1m以内で受けても体を守ってくれる筈だ。」
『嬉しいけどなんで私に…一哉とかザキには?』
「作ったわけねぇだろ。」
当たり前だと言う風に花宮は見張り台に座り込んだ。
「原の腕が一本なくなろうがザキの腹に穴が開こうが、ほっといてもあいつらは楽しく生きるだろうよ。」
弱々しく吹いた風が花宮の長い前髪を揺らす。
「つーかお前もうちょっと周りの状況とか全部忘れて全力で戦ってみろよ。」
今まで誰にも言われたことのないことを花宮は言った。
『…何それ。』
彼に突拍子も無いことを言われると何か裏があるのではと思ってしまう。
「別に何も企んでねぇよ。ただそう思うだけだ。」
『でも花宮だって別に戦闘狂って感じじゃないよね。』
「それじゃ勝てねぇからだよ。頭で計算し尽くして考え抜いて俺は強さを出せる。」
つまり私は…
「じゃあな、俺は寝る。」
『花宮っ…。』
「お前は、寝るなよ。」
花宮は私の両頬をペチンと叩くと帰って行った。
奇妙な夜だ、本当に。
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濃い青の補色はオレンジらしいです。
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