海賊パロ原稿

□途切れない頂上
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途切れない頂上




そこそこでかい海賊団になると、その動向は新聞にも掲載されたりするもので。

赤司は自室で新聞を睨んだままゆっくりと息を吐いた。

「想定外だ。ここまで速いタイミングで掲載されるとは。」

赤司の部屋の隅っこで毛布を被ったまま、謎の器具を右手に持つ湧が首を傾げた。

握力増強器具らしい。

『どうしたの征。』
「俺たちの海賊団が航路を外れてグランドラインを逆行していることが記事になった。それだけでセルカーク海賊団が俺たちの襲撃を予想するとは思えないが…。」
『こっちが襲撃するってどうせ事前にバレるんじゃないの。』

赤司は自分のベッドに寝転がって毛布にくるまり始めた湧を見て、また溜息をついた。

今夜の彼のベッドは湧の匂いがするだろう。

「恐らく襲撃当日の昼にコルテカ島に到着する。運が良ければ到着まで気づかれることはないだろうが、そう簡単にはいくまい。しかしだ、それが一週間も前から分かっていれば特殊な防御を施される可能性が出てくるだろう?」

赤司がここまで危惧しているのは、今回は初めてと言ってもいい建物内での戦いとなるからだ。

事前準備があっては海上で戦うより明らかに向こうに有利だ。

『キャプテンが作った変な班はどうなるの?』
「建物は地上三階建て、地下二階建て。」

質問に答えてくれない赤司に湧は毛布から顔を出した。

「能力者が3人と言ったが実際には4人だった。幹部たち30人はナンバーで呼ばれている。しかもこの間黒子が潜入した時から仲間は増え続けているようだ。」
『こっちがキャプテン抜いて28人だからみんな一人は幹部の相手しないといけないね。』
「ああ、班は5つ作った。建物の階数は班の数と同じだ。班による力の差はやはり能力者の数の差と考えていい。」

赤司は組んでいた腕を解いてベッドに腰掛ける。

「建物の内部を知る必要がある。幹部のナンバーには意味があるのか。…備えあれば憂いなしとは言うがここまでする必要があるかも分からないけどね。」

微笑みながら赤司は後ろに倒れこんだ。

『お疲れだね。肩でも揉もうか?』
「いや、いい。ありがとう。」

湧は自分の腹の辺りに倒れこんできた赤司の頭を撫でた。

「こんなところにいて大丈夫なのか。」
『どうして?』
「お前が部屋にいないと緑間が心配するだろう。」


赤司は目を閉じた。

羨ましかった。



赤司はごく普通の裕福な家庭に生まれた。
優しい母に厳しい父。

母は早くに死んでしまったが、昔から何でも良く出来た赤司は非常にラッキーなことに、10代の最後の年に悪魔の実を手に入れる。
途端に、自分が世界でどこまでやっていけるのか知りたくなった。

父に従うだけの単調な生活が途端に馬鹿らしくなった。

この広い海を制することが出来たらどんなに素晴らしいかと思った。

最終的に単身でこの海賊団に入団することになるのだが。


緑間と湧のように草を食い雨水を飲む生活は知らない。

しかしその生活を送ることで固く結ばれた絆は羨ましかった。

最強の名にあと少しで手が届くとしても、全てが手に入るわけじゃないと知った。


決して寂しい訳ではない。
羨ましいと思うことも恥ずかしくはない。

ただ単純に手に入らないものに気づいたのだと赤司は思っていた。




突然、赤司の部屋のドアが三度叩かれた。

「誰だい?」

赤司は反射的にベッドから立ち上がって返事をする。

「俺だ。入っていいか?」

扉の向こうから聞こえてきたのは黛の声。

「ああ、構わない。」

赤司の返答に扉がサッと開いて、顔を出した黛は湧を見て少し驚いた。

「これはまた、珍しいな。」
『出て行こうか?』
「聞かれてまずい話はしていないよ。」

赤司がベッドから這い出ようとする湧を手で制した。

黛は赤司のベッドに寝ることを許される人間がいたことに少し驚いていた。


「それで、千尋はどうしたんだい?」
「黒子から連絡が入った。」

赤司は椅子に座り腕を組んだ。

「簡潔に頼むよ。」
「…まず幹部のナンバーのことだが、入団順になっている。強さは関係ない。」

赤司が紙にサラサラとメモをする。

赤司の部屋にあるものは机も椅子も、何でも落ち着いた暗い茶色をしている。

湧は淡い黄色のトレーナーを着ているせいで、全体的な色合いが余計に薄くなった黛をしげしげと眺めている。


「能力者だが、恐らく特筆すべき凶悪な能力を持つものはいないということだ。」

能力次第では30人程度など瞬殺出来るものもある。

特別悪い能力者がいないということはいつも通りだろうと湧は安心した。

「報告ありがとう、千尋。」
『征って黛さんだけ下の名前で呼ぶんだね。』

突然そう言われて赤司は一瞬固まった。

確かに赤司は紫原や黒子をたまに下の名前で呼ぶことはあるが、基本的に誰でも名字で呼ぶ。

そして黛だけはいつでも下の名前だった。

『黛さんって明らかに年上だから私もさん付けなのにね。』
「俺の名前を征と呼ぶのもお前だけだよ、湧。」

答えに困った赤司はごまかす。

黛を下の名前で呼ぶのはいつからだろう、どうしてだったか、そしてその答えが何になると言うのか。

頭の中で普段考えたことのない問題を検討する赤司の姿に黛は肩を竦めてみせた。

「まぁ俺は虹村の友人としてこの海賊団に入ったとは言え、船の中で一番世話になったのは赤司だからな。」
『あー、そうだっけ。玲央もけっこう征に懐いてるって感じだよね。』
「やめてくれよ。玲央が"懐く"なんて恐ろしい気がするだろう。」

赤司の言葉に湧と黛は笑った。

黛に関しては引きつり笑いだったが。

「ただ懐いているとなると、一番は降旗だろ。」
『あっ、そうだね!』

突然出てきた名前に赤司は少し驚いた。

確かにボロボロの降旗を奴隷船から連れ出して保護し、ここに置くことを決めたのは赤司だ。

恩はあっても、降旗の自分に対する従順さは恐れを持った服従であると思っていた。


「懐く?」
『懐くっていうか、崇拝?』
「どちらにせよ降旗の中での船長は赤司みたいなものだろう。」

皮肉っぽく黛が言った。

「だが、降旗は俺に話しかけに来たことなど…。」

湧が笑い始めたので赤司は黙った。

『征はそういう気持ちに気づかないんだね。』
「降旗が可哀想だな。」

なぜだ、人の気持ちが分からないような鈍感な人間ではないはずだ。
赤司は思わず眉間に皺を寄せた。

『ここ、呼んであげなよ。征の部屋にさ。』
「ついでにお前がつけた名前だろ。光樹と呼んでやれ。」

ここに降旗を呼ぶ。
彼は間違いなく萎縮するだろう。

恐らく話すこともない。

『やってみなきゃ分からないよ征。』
「そうだぞ。」

何だかからかわれている気がしてきて赤司は口を噤んだ。

反論するほど自信があるわけでもなかった。







結局その話は出陣前の忙しさに紛れてうやむやになってしまったのだが、赤司の心の片隅にはいつも残っていた。

黛や湧が部屋にいた時はわからなかったが、少し時間を置くと冷静に考えられた。

自分の知らないところで絆を繋ごうとする人間を見つけられなかったことが、赤司には堪らなく、そう、おかしなことに思えた。

一方通行では成り立たないからこそ、手に入らないと諦めて可能性を自分で消すことは愚かだったのだ。




まだまだ自分も格好悪く駆け上がる瞬間があってもいいのかも知れない。

そんなことを思いながら来るべき戦いに備え、赤司は愛刀の刀身を磨くのであった。



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虹村さんにあって赤司にはないもの。
欠落してるからこそ愛しいし、持ってるからこそ魅力的。
黒バスのキャラ、みんな好きです。

それにしても緑間が野生的な生活を送っていたなんて想像がつかない。


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