海賊パロ原稿

□地獄で夢は見えないらしい
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地獄で夢は見えないらしい






*地下1階 黄瀬涼太


赤司っちに言われた通り、逃げ遅れた一般人の誘導を終わらせた。

着飾った若い女やコックなどが殆どで、そこに紛れこもうとしていた海賊はきちんと仕留めた。

もちろんそこに幹部の人間はいなかったけど。

未だ無線を通して幹部発見の報告はない。

どうしようかと思いながら伊月さんと高尾っちが向かった方向に足を向けた時、耳につけた無線が雑音を鳴らした。

〈4班高尾、幹部21番と会議室に閉じ込められた。伊月さんとはぐれた。〉

高尾っちからの無線は早口で、すぐにブツリと切れる。

伊月さんと高尾っちが一緒だったのに、高尾っちが閉じ込められたとなると伊月さんは一人だ。

それって大問題じゃないっスか!

慌てて伊月さんが向かっていった方向へ走る。

幸いにも二人が走っていった方向は道分かれせず、一本に続いていた。


廊下の角を曲がった瞬間、俺は何かに躓いて派手に体勢を崩した。

「あぶなっ…!………へ?」

何に躓いたのかと振り返って心臓が凍りついた。

「い、伊月さん…?!」
「黄瀬…か…?」

慌てて駆け寄って抱き起こせばやっぱり伊月さんで。

右手に滑りを感じて見てみると、血。
伊月さんの血。

「黄瀬…大丈夫だから…。全然命に関わる怪我じゃないから…。」

伊月さんはフッと微笑んでそう言ったけど。

「え、誰にやられたんスか!高尾っちと逸れてからっスか?!」




「俺にやられたんだろ?弱すぎて感触もなかったけどな。」



突然野太い声がして、弾かれたように振り返ると、大男が廊下の向こうの方に立っていた。

敵の海賊団の服装。


胸には20という数字。



思わず伊月さんを置いてその男へと向き直る。


「〈4班伊月だ、黄瀬と共に、幹部20番と、東廊下で遭遇。能力者の、可能性有り。〉」


背後で上半身を起こした伊月さんが切れ切れの声でそう報告した。



「伊月さん、能力者なんっスか?」
「あぁ恐らく、能力者だ。」


伊月さんがフラリと立ち上がりながらそう言った。

実戦で能力者を相手にするのはこれが初めて。


「どこまでやれるんっスかね。」





*1階 小金井慎二


目の前の敵を倒して、背後から迫ってきた別の敵に鉄肘を食らわして。

そいつの首をゴキっと曲げたところで水戸部が苦戦しているのが見えて、すかさず太ももに手を伸ばす。

そこに刺してあったナイフが一本、次の瞬間には水戸部の敵の首に刺さる。

そのナイフを水戸部が引き抜いてこっちに投げ返して、振り返るとそのナイフは俺の背後にまた迫っていた敵の脳天に刺さっていた。


嬉しいんだ。

水戸部と一緒に戦ってる。




ナイフをまた引き抜いてホルダーに刺す。

次はどいつを倒せばいい?


水戸部と一緒なら、俺は想像よりも強くなれる。





*2階 緑間真太郎

自分が2階に辿り着いた時には、既に青峰と黒子はどこにもいなかった。

仕方なく森山、花宮と三人で二人が行かなかったと思われる方向に進んでいく。




そして想像していなかったことだが、2階はとても敵が多かった。

倒しても倒しても次々に現れる。

「毒ガスで一気に数減らすか?」
「まだそこまでするタイミングではないのだよ。」

花宮が小声で聞いてくるが、失敗して巻き込まれるのはごめんだ。

しかもこの施設は元々島のものでもある。

汚染が持続するかもしれないのは喜ばしくない。

それに雑魚を倒すために、上下の階にいる味方にまで危険に晒す可能性のあることはしない方がいい。

「青峰はどこに行った?」
「黒子連れて強いやつ探しに行ったんだろ。」

舌打ちをしながら短刀で突き進む花宮。

奴の手元は狂いがなくテクニックも高い。

さすがは8000万円の賞金首といったところか。


しかし飽きる。

突っ込んでくる雑魚たちを倒していくだけの単純作業で、無駄に体力だけが失われていく。


「部屋に入らなくてもいいのか!」

花宮の後ろで背後を守っている森山が叫んだ。

「取り敢えずデカいのに当たる前に雑魚の数減らしておいた方がいいだろ…っと。」

花宮が敵の腹部を蹴り飛ばす。

「そうだな。しかしもう廊下は突き当たりに……!!!」

目の端で、突然真横の部屋の扉が開いた。

いや、真横ではなく少し後ろだったから、反応が遅れてしまう。

次の瞬間、頭から海水を被り体から全ての力が抜けた。

「緑間!!」

海水に触れると力を失う能力者向けの罠だ。

床に倒れ伏す俺を森山が引き上げる。

「森山、そのまま緑間守れ。」

バタンと音が鳴ったのは、こんな時でも冷静な花宮が先ほどの扉を閉めたからだろう。


「〈2班花宮だ。幹部8、幹部9と遭遇。森山と緑間もいる。〉」


敵は二人もいるのか。

海水で濡れた衣服を脱がなければ。

何とかオフホワイトのパーカーを脱ぎ捨てた。

「緑間いけそうか?」

森山の手を借りて立ち上がる。

花宮はやはり扉を押さえ込んでいる。


「おい、そろそろこの扉もたねぇ。早く復活しろ。」
「また罠があったらどうするんだ?」
「さっきのはバケツでぶっ掛けただけだ。ちゃんとした罠を仕掛けてる可能背は低い。」

花宮の声が苦しくなってきた。

バキッと音がなって扉に横の亀裂が入る。

「おい、離れるぞ!」
「じゃあ俺は雑魚相手にしてるからな!」

森山が雑魚を引きつけるために少しずつ場所を離れていく。


「開けるぞ…!」

花宮が勢いをつけて扉から離れる。

押さえ込んでいた扉は中からの圧力で吹っ飛んだ。


さぁ、本気の戦闘の始まりだ。

花宮と一緒に戦うのは初めてだが、頭の良い人間は嫌いではない。



「全く、負ける気がしないのだよ…。」







*地下2階 福井健介


地下2階に降りて、すぐに作戦通り二手に分かれた。

諏佐、今吉、日向と、俺、火神、湧の二つだ。




暫く三人で慎重に歩いているが、特に敵は見つからない。

その間にも他の班は着々と幹部を見つけているようで。

〈3班小金井!水戸部と幹部16、17番はっけーん!〉
〈4班氷室、幹部14番を発見。大丈夫そうだよ。〉
〈4班紫原。幹部15番見つけちった。能力者っぽい、っていうか、あっ、能力者だこれ。〉
〈1班笠松、木吉と一緒に幹部2.3番と交戦中!〉
〈2班黒子です。青峰くんと幹部10番が戦っています。自然系の能力者です。〉

次々と交戦の連絡がくる。

能力者は今のところ3人見つかっていて、それぞれ伊月黄瀬、青峰、紫原が対応中らしい。

伊月と黄瀬のところが心配だが、外には虹村さんという最終兵器が控えている。

青峰は最強だが、相手が自然系の能力者となるとやはり簡単にはいかないだろう。

あと1人の能力者はどこにいるんだろう。




「福井さん、ここ誰かいる…。」

少し先を歩いていた火神が大きな部屋を覗き見ながら言った。

扉は鉄製の引き戸で開けっ放しになっている。

『強いやつかな。能力者なら火神に頼みたいし。』

湧も火神の後ろから中を覗き込む。

「俺こいつ見たことある気がする。」

ここからじゃ横顔しか見えないが、この間笠松と見ていた大量にある賞金首のポスターの中にいた。

「じゃあ俺いった方がいいっすか?」
「いや、こいつは能力者じゃないしそんなに賞金の額も高くなかった。湧の首って3000万だったか?」
『え、たぶん。』

確かこいつは4000万だった筈だ。

俺の首も4000万だから二人で戦って大失敗することはないだろう。

「じゃあ俺は先に行ってます。」
『気をつけてね。』
「お前もな。」

火神はニカっと笑ってから廊下の先を進んで行った。

『福井さん、どうする?』
「お前ピストル持ってるだろ?」

湧が遠くからガンガン撃ってる間に俺が距離を詰めるか。

そんなことを考えていると、突然イヤホンから鋭い声が聞こえてきた。


〈1班黛、実渕だ!能力者の幹部1番と交戦中だが余裕がない、誰か助けに来てくれ!〉

間髪を入れずもう一つ。

〈笠松だ、今から向かう!〉

『…凄い、この無線活用されてる。』

黛と実渕の二人で太刀打ちが出来ない相手か。

「3階は6人いるからな、たぶん大丈夫だろ。こっち集中するべ。」

戦闘前の緊張感からか、思わず北の海の方言が出てしまったが、湧は俺の言葉に頷いた。

この海賊団に北の海の者は少ない。



じゃあ321で突っ込むぞと頷き合って、湧が銃を構える。

本当にこいつは何でもオールマイティにこなす。


「よし行くぞ。危ないと思ったらすぐ下がれな。」

湧の頭をグリグリ撫でてから、少し角度をつけて離れる。


俺が小声でカウントダウン。

行くぞ、3、2、1…


そこからは一瞬だった。




グイッと襟首を後ろに引かれて体が倒れそうになる。

「はっ…?!おいっ…!!」

視界の端で湧が部屋の中へと飛び出すのが見えた。

それから彼女の放つ銃の音が聞こえる。

「誰だってんだよ…!!」

焦りながらも普段は手にしない短刀を腰から抜き、体制を整える。

胸に28と書かれた髭面の男。

背後に敵がいることに気づかなかったなんて。

自分自身に舌打ちをしながらも、短刀を握りしめる。

それは北国から出てくる時にゴリラのような親友にもらったものだ。

先ほどの失態を取り返すべく、早急に湧に加勢すべく、さっさと方をつけてしまおうとしたところで。



ガシャン!!


背後で鉄の音がした。


振り返ると、さっき湧が飛び込んでいった部屋の鉄の扉が閉まっていた。

「あァ?」

思いっきり引っ張っても開きそうにない。

鍵が掛かっているのか。

混乱する俺に28番がご丁寧にも教えてくれた。

「手動では開かねぇよ。」

……は?

そして俺が敵を振り返るより速く、ドン…!という鈍い音が扉の向こうから響いてきた。


「おい!湧?!」


そして無線から聞こえる声。


〈5班蘭乃…幹部29番と地下3階の武器庫に落下。〉


「落下って…緩い声出してんじゃねーよ…。」

そして俺を絶望に落とし入れるもう一つの無線。





〈あー、聞こえてるか?虹村だ。〉



キャプテン…!!


思わず目を見開く。



〈海軍が攻めてきた。〉


なんだって。


〈完全に俺たちの動向を探ってたな。軍艦で来てる。俺が1人で対処するが誰か呼ぶかもしれない。…湧は大丈夫だろうな?〉


虹村さんの能力は地震を操るもの。

悪魔の実は大きく分けて自然系超人系動物系と3種類あるが、その中の超人系では最強とされる能力だ。

少しでも力を使いすぎると、ここは立っていられないくらいに揺れて、各地を津波が襲ってしまう。

攻撃範囲は広いから大人数と戦うには向いていない訳ではないとは言え、どうやって軍艦規模の海兵達を止めるのか。




いや、そんなことを考えている場合ではない。

事態がどんなに悪くても、敵を1人ずつ倒していくこと以外に何をしようというのか。

こんな時にこそ年長者の余裕だろうが。



自らの気持ちを奮い立たせて俺は28番の男に向かい合った。


〈5班福井、幹部28番を発見した!〉





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