海賊パロ原稿

□この身で戦う
1ページ/1ページ


この身で戦う


*地下1階 降旗光樹

虹村さんの連絡の後、俺が無線を飛ばしてから1分もかけずに赤司が幹部22番を倒した。

今のところ全体で倒した幹部は4人ほど。
緑間や氷室さん、水戸部小金井チームもそれぞれ2人目に取り掛かっているらしい。

「戦局はどうなっている?」

赤司が妖刀の刃を確認しながら俺に聞く。
彼の妖刀はとても長くて、うちの海賊団にある刀のどれよりも長いから、腰に下げたりは出来ない。
手持ちだ。

「えっと、1班が幹部1番に三人で対応していることと、湧ちゃんが地下3階に落ちたこと意外に気になる点はありません。」
「なるほど、3階は木吉への皺寄せが気になるな。紫原のところに余裕があるなら、桜井か宮地さんを3階に送るのだが。」

虹村さんの手が塞がった今、赤司は全体のことにも気を回しているのだろう。

「湧は落ちただけなら大丈夫だろう。高尾が閉じ込められたのも気になる。」

そうは言うもののさほど気にしていなさそうな声だ。

スタスタと歩いていく赤司の後ろを、俺は出来るだけ足音を立てずについていく。

「キャプテンのことは…。」
「あの人はその気になればこの島ごとひっくり返せる。心配するだけ無駄だ。」

この島ごとひっくり返す時は俺たちも死ぬ時なんじゃないかと言いたくなったが、黙っておく。

それだけ信頼してるからこそのセリフのはずだ。

「あの、俺は…、」

どうすればいいんですか、と聞くことは出来なかった。



赤司が勢いよく左手に持っていた刀を鞘から抜いた。

緊張が走る。

「光樹。」


あ、名前、呼んでくれた。


なんて場違いなことを考える。


「ここから先は僕の戦いだ。」


赤司の一人称が"僕"になると逆らわない方がいい。
黛さんが言ってた。


「光樹は閉じ込められた高尾や伊月さん達を助けに行くんだ。」


はいっと小声で返事をして、すぐに振り返って来た道を戻ろうとした時、背後から凄まじい圧力を感じて体勢がぐらついた。


「うっ、わ……っ!」


恐る恐る振り返ると、首だけこちらを向けている赤司と目が合った。


「あっ、あっ…!!」

嘘だ、なんで、立てない。

赤司から流れ出る"覇気"に気圧されて、立つことすらままならないんだ。








全世界の全ての人間に滞在するとされる覇気。
しかしそれを引き出し操ることが出来るのは、一握りの選ばれた人間だけ。

赤司はその覇気の中でも特別な"色"を持っている。

そう、それはまるで、生まれながらに勝利を約束された"王者"のような覇気。




どうしてこんな人が誰かの下についているのだろうか。




「光樹、行くんだ。出来るだろう?」


フッと、なぜか赤司は微笑んで、少しだけ覇気を緩めてくれた。


俺はその言葉に答えるより先に、がむしゃらに足を動かして走る。



早くここから立ち去って、仲間の助けに入る。

赤司の命令だ。

奴隷船にいた時とは違う、俺を生かし、仲間を助ける命令。

命令に従うことが嬉しい。

俺はきっと、今やっと、ちゃんと生きることが出来ているんだ。





〈赤司だ。船長を見つけた。〉






*同じく地下1階 黄瀬涼太


能力者の敵は思ってたより強かった。

これまで対峙してきた敵の中で一番。

そりゃ青峰っちよりはたぶん弱いけど、俺は本気の青峰っちとは戦ったことがないし。


敵の能力はトゲトゲの実。

体の色んな部分が変形して鉄のトゲみたいになる能力だ。

俺だって体の色んな部分が刃物になるとは言え、鉄は切れない。

つまり刃物での攻撃は効かないってこと。


相性悪いんじゃないっスか?


けどこっちだって金属なんだからそのトゲに貫通されないのは事実な訳で。

でも生身の伊月さんはそんな訳にはいかない。

敵がトゲを出して天井や床にくっついて転がるもんだから、俺が伊月さんの前に立っていたってすぐに抜かれてしまう。

伊月さんは銃だけじゃなくて剣も持っているけど防ぐのがやっとで、体の色んなところから血が流れている。

「ダメだ、どれだけ距離を取っても俺の長距離用の技術では当たらない。相手が動いたのを確認して発砲しても着弾の前に相手が通り過ぎてしまう。遠方からセミオートで牽制して相手を封じ込むことで援護をするしかないけど…。」

伊月さんが頬の血を拭いながら難しいことを言うけれど。

そんなに難しいことをしたら、たぶん伊月さんの弾が当たるのは俺になってしまう。

自信がある訳ではないがここは俺一人に任せてもらっても…。

そう言おうと思った時、無線が来た。


〈虹村だ。海兵が手が負えない量になってきた。相手の中将も出てきたし雑兵の相手をしている暇がない。伊月、建物から仕留められるだろ?〉

思わず顔を見合わす。
中将って、そんな位のやつが乗り込んできたなんて。

確か元帥、大将、中将の順番だ。


「黄瀬、俺は虹村さんの…。」
「はい、行ってください!ここは大丈夫っス!」

伊月さんと頷き合って、前を見た時、俺の顔の横を黒い影が通り過ぎた。

「うぁっ…!!」

直後、背後から伊月さんの悲鳴。

…え?!

慌てて振り返ると足を抑えて倒れこむ伊月さん、それからさっきまで戦ってた敵。

思いっきり正面から抜かれた…?!

敵を見ると明らかに先ほどまでとは違う格好になっていた。

足の筋肉が異様に発達している。


「な、なんっスかそれ…。」
「足の筋肉に棘を刺した。簡単に言うとドーピングと同じことだ。」

当たり前のように敵は答える。

「その能力にそんな使い方あるんスか…。」

てっきり体の一部が棘になるだけだと思っていたのに。

悪魔の実の能力は使い方と訓練次第でいくらでも強い戦闘手段となる。

能力を持つことで慢心せず、鍛え上げ研ぎ澄まされなければ意味がない。

目の前にいる敵は、能力を持ったままずっと使ってこなかった俺とは違う。

長い間その能力と共に生き延びてきたんだ、経験が違う。




まだ早かったのかもしれない。
俺に能力者の相手なんて。

そう思いかけた時。




「黄瀬!!」



伊月さんが叫んだ。

「その能力、お前が自分の力で手に入れたんだろ!!」
「えっ?そうっスけど…?」

ずっと昔のあの日、俺は難破した海賊船を漁って、宝箱をこじ開けて、その実を盗み得たんだ。

伊月さんは貫かれた左足を庇いながら立ち上がった。



「悪魔の実を手にした瞬間から、人は運命より強くなれる。」




運命より、強く、なれる。




「ここで一段、強くならないと先には進めないぞ。自分の力で得た能力だ。お前の力だ。」


俺の力、誰にもらった訳でもない、俺が自分で得た力。


「なぁ黄瀬、幸せになる覚悟があるなら、強くなれるから。」


伊月さんがくるりと背を向けた。


敵が伊月さんを背後から襲う。

自然と体が動いた。


「あんたの相手はこっちっスよっ…!!」


敵の腹に足を食い込ませて止める。


その時、イヤホンから無線が聞こえてきた。


〈赤司だ。船長を見つけた。これより戦闘に入る。降旗を高尾の元に向かわせた。〉


ありゃ、俺のとこじゃないんスか。

まさか信用されてる…ということにしておきますか。


普段、嫌々ながら手合わせに付き合ってくれる青峰っちにちゃんと勝利を報告出来るように頑張ろう。





*地下1階→3階 伊月俊


貫かれた右足は、踏みしめる度に酷く痛んだ。

黄瀬にはかっこいいことを言ったが自分はこの有様だ。

慣れない近接戦なんて初めからしない方がよかったのかもしれない。

振り返ると自分の血が点々と続いている。

けれど3階まで上り切れば、足なんてもう使わないから。

だから今だけ、そう思いながら歯を食いしばって痛みに耐えた。


〈5班福井!幹部28番を倒した!湧を助けに行く!〉

仲間からの幹部撃破の連絡が心を奮い立たせてくれた。




運良く敵に遭遇することなく3階まで上りきる。

建物の入り口側の窓から地上を見れば、確かに入り口に待機している筈だった虹村キャプテンが大勢の海兵たちと戦っていた。

この窓を開ければ後は上から敵を狙撃すればいい。

けれど。


俺は虹村さんに背を向けた。

声が聞こえるんだ。

誰かが苦しんでいる声が、すぐ近くから。

それが敵なら放っておけばいい。

でも、もしかしたら味方かもしれない。

それなら確かめなくては。

俺は足を引きずりながらも急いで声の聞こえる方へ向かった。




階段から一番近い部屋を覗き込んで驚いた。


幹部の一人がでかい男の首を右手で掴み、左手は銃を突きつけている。

「……木吉じゃないか…。」

何か情報が欲しいのか、幹部の男は木吉を脅しているらしい。

状況が分かってからは一瞬だった。

腰にさしていた銃を素早く抜き取り、男に照準を合わせる。

静止しているものを撃つことなんて造作もない。

パァン、という音と共に男が倒れた。

突然支えを失った木吉も床に倒れこんだ。

「…ゲホッ…伊月か…?」

木吉が掴まれていた首を摩りながら立ち上がる。

「木吉、無事か?」
「やっぱり伊月か!ありがとな、助かったぞ。」

木吉はニコニコしているから多分大丈夫なんだろう。

「あれ、足やられてるじゃないか!」

近づいてきた木吉が俺の足を指差す。

「あぁ、でもこれから虹村さんの援護射撃だから足は関係ないよ。…行かなきゃ。」
「伊月は怪我には慣れてないだろ?俺が運んでいくよ。」

そう言って木吉はあっという間に俺を抱え上げた。

しかもいわゆるお姫様抱っこ。

「木吉…さすがにこれはない…。」

絵面を想像しただけで俺の心が辛い。

「どこ行けばいい?」
「…ここ出てすぐ左、建物の正面が見える窓のところ。」

恥ずかしいなんて言ってられないから黙って木吉の腕の中で縮こまる。

ジジ、と無線が鳴って木吉がおっ、と声をあげた。

〈5班今吉や。幹部26、27を倒した。それから、キャプテンと赤司の手が塞がっとるからワシが指示出すんやけど、実は幹部の半分以上を既に倒してるんや。〉

そうか、今は笠松さんも戦闘中だし指示を出すのは今吉さんくらいしかいないんだ。

「それにしても幹部結構倒してるんだな。」
「まだ能力者は一人も倒せてないけどね。」

〈手の空いてるやつは一旦1階入り口に集まってくれ。〉


「俺は笠松たちを援護しに行くから関係ないな。」

そう言いながら木吉は俺を窓際に下ろした。

よかった、虹村さんが見える。

「ありがとう。助かったよ。」
「お互い様さ。じゃあな、敵に襲撃されたらすぐに無線で伝えろよ。」

木吉はそう言ってすぐに笠松たちの元へ向かっていった。
実渕と黛と三人で幹部1番と戦っているところだ。

幹部1番というくらいだから強いのだろう、と思いながら俺はさっさと木吉のことは忘れる。



やっと虹村さんの援護に回れるんだ。

少し遅すぎたが許容範囲のはずだ。

上から見ても虹村さんは元気に暴れまわっているのが分かる。

虹村さんから少し遠いところに明らかに強そうな…たぶん虹村さんが言ってたから中将だ…がいるけどあいつは虹村さんのために手を出さない方がいい。

俺は背中に背負っていたアサルトライフルを引き抜き、窓を開ける。

これは軍用のライフルを自分で改造したもので、それほど遠くない敵を狙撃する時にいつも使っている。

俺はこの海賊団の中で誰よりも身体能力に自信がなくて平凡な人間だ。

だから努力してきたんだ、恵まれたことに目は良いし、辛抱強くもあった。

狙撃に関しては誰にも負けない。



よし、いつも通り、銃口の先まで自分の体の一部、神経が通っている感覚がする。







銃を構えた瞬間、俺が俺であることなんてほんの些細なことになる。


敵は発砲音を聞く前に、殺される。


それだけだ。






-------------------------------------

別に僕司になったから降旗くんを下の名前で呼んだって訳じゃないです。
一人称が俺でも僕でも人の名前をどう呼ぶかはその人との関係性だと思って作っています。
読んで下さってありがとうございました!




.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ