海賊パロ原稿

□救出劇の始まり
1ページ/1ページ


救出劇の始まり


【注意】⑴や⑵などの表記を使っていましたが適切ではなかったので*で区切るように戻します



*1階入り口 諏佐佳則

「お、けっこう少ないやん。」

今吉と日向と三人で一階まで上がるとすでに何人かが俺たちを待っていた。

宮地、小金井、水戸部、花宮。

「今吉さん脇腹…。」
「大したことあらへん。」

小金井が今吉の血の滲む腹を指差すが、実際この傷はかなり浅いようだ。

「3階はどうなってんだ?笠松、黛、実渕がいてあそこまで手間取るとは…。」

宮地が険しい顔をしている。

「それより湧はどうなってんだ。落ちたってどういうことだよ。」

花宮は若干息を乱している。

「緑間と森山おらんけど花宮ここおってええんか?」
「あ?俺は幹部1人倒してノルマ達成したからいいんだよ。」

それは何か違うような気がしたが、まぁいいだろう。

緑間が許したか。

「処理しなあかんのは虹村さんと湧と、あと見つかってない幹部や。」

そろそろこちらも疲弊し、大きな怪我を負う奴も出てくる頃だろう。
海軍が仲間を引き連れて迫って来ないとは言い切れない。

さっさと決着をつけて逃げるに限る。

「赤司と青峰、紫原、それから火神が能力者とやり合ってんのは問題ないよな。」

宮地の問いに今吉が頷く。

「紫原には氷室がおるやろし、火神はほっといたって死なんやろ。残りの二人の獲物取ってみ、こっちが殺されるわ。…まだ見つかってない幹部は何番や?」

今吉が俺を振り返る。

「12、23、24じゃなかったか?」

番号の早い幹部から順に上の階にいることは、誰もが薄々気づいているだろう。

「これまでの傾向から緑間たちの2階と赤司たちの地下1階にいそうやな。じゃあ日向と宮地は2階、水戸部と小金井は地下1階で幹部探してくれるか。」

水戸部がコクリと頷く。

「よし、じゃあ行くぞ!」
「うっ!」

宮地に背中を叩かれ、痛そうに呻きながら、日向は走り出した宮地の後を追う。

水戸部と小金井も揃って階段を降りていった。

「俺は…。」
「花宮は、」

花宮の言葉を遮り、今吉は刀を握り直して言った。

「ワシらと一緒に湧助けに行くんやろ。」



今日、今吉は殆ど何もしていない。

それはきっとこいつが少し前に引き取ってきたその刀のせいだ。

この間の戦で久しぶりの大怪我をしたのもその刀のせい。

たぶんあれは妖刀だ。

赤司が持っているものより業が深い。
俺が刃から顔を背けたくなるくらいの。

今の今吉のように屈服させるより前に無理に使うと使いこなせない、斬れない、怪我を負う。
それが妖刀だ。


「ところで今吉さんその刀、どこのだ。」

花宮ももちろん気づいていたらしく、眉間に皺を寄せて今吉に問いかける。

「そんなん聞いて何になんねんな…鬼徹や。十代目のな。」

意外にもサラッと教えてくれたその答えに、一瞬俺たちは息を止めて、それから盛大に溜息を吐いた。

俺は思わず片手で目を覆う。

なんてことだ。

鬼徹の刀は妖刀ばかり。
世間的に見てもそれはとても有名なことで。

その刀は呪われ、生半可な実力で所有すると命を奪われる。

三代目が最も有名らしく、どこぞの剣豪が今でも使用しているらしい。
そんな中、十代目鬼徹はそもそも存在自体あまり知られていないのだが…。


「なんや言いたいことありそうやな諏佐ぁ。」

今吉がニタリと笑った。

「お前はまたそんな…ややこしい刀をどこから…。」

花宮もドン引き、という目で今吉を見ている。

元の持ち主からどうやって奪った…って、そもそもよく生きているな。
その辺については後で問い詰めよう。

奪ったところで刀に所有権を認められていないのだから意味はないのだが。

「どうして元の刀を持ってこなかったんだ。」
「そんなもん持ってたら嫉妬しはるやろ。」

なるほど、軽々しく言ってはいるが、元の刀を予備に持ってくるような生半可な覚悟じゃ鬼徹には認められないということか。

「細かいことは置いといて湧探しに行くで。福井もおるやろからな。」





*地下3階 蘭乃湧(12話直後から)

爆音とともに床が抜けた瞬間、足掻いても無理だと諦めて大人しく着地することだけに全神経を集中させた。

天井が崩れていないことは確認済みだ。

上から落ちてくるものはない。

地面とともに落ち、着地は思っていたよりも速く、すぐ下の階に落ちたのだと分かる。

地面の崩落は意図的なものなのか。

上を見ると直径3mほどの穴がぽっかりと開いていた。
さっきまで自分が立っていた場所だ。

埃が立つ中、目を凝らして敵を探した。


『……いた。』

「もっとこう、海賊らしいムキムキの男を待っていたんだがな。」

言葉が返ってくる。
饒舌な相手のようだ。

『ガッカリした?』

よく主語や目的語が抜けると花宮に指摘されることを忘れて、反射的に聞いてしまった。

「いや?けれどもともと、君の海賊団は少し美形が多いだろう。」

言われてみれば、頭の中を過ぎった仲間の殆どが端正な顔立ち。

征に黛さんに伊月、それから辰也。

「お嬢ちゃんは、大切な人はいるのかい?」
『大切な人?キャプテン?』
「そうじゃなくて。」

敵がゆっくり近づいてくる。

腕はダランと垂れているし全く攻撃してくるような素振りはないが警戒は解かない。

「君が一番悲しんでいるところを見たくない人、だよ。」


悲しんでいるところを見たくない人?

視線は外さないまま考えてみる。

真太郎が悲しんでいるところ…ダメだ、だいたい何でも耐えれそう。

他の人たちも強いしな。

『ごめん、全然分からない。』
「なんだ、面白くないな。じゃあ君を一番大切に思ってる人は誰だい?」

私を一番大切に思ってる人…私がいなくなったら一番悲しむ人…それはたぶん分かる。

『真太郎だ。』
「真太郎…?あぁ、緑間真太郎のことか。能力者で懸賞金は2億。億越えの仲間入りをしたのは一昨年だったか。」

敵が腕を組んで何かを考え始めた。

頭を使われると厄介なのでその隙に攻撃でもしようかと思ったが、タイミング良く耳につけたイヤホンが鳴った。

征がボスを見つけたという連絡。

さっきは火神が能力者と戦っているという連絡も入っていた。

征はすぐに勝っちゃいそうだから、私だってこんなところでゆっくりしてる訳にはいかない。


『この間思ったんだけど。』



敵が顔を上げた。
胸には29という数字。

『この間、甲板を走ってみたけど全然速くなかった。けど別の日に戦闘があって、同じように甲板を走った。銃を持って。そしたらとても速く走れた。』

敵が目を細める。

『速く走れないのは嫌だ。そうなったら嫌だ。すごくつまらないことだけど嫌だ。』

いつも考えずに思ったことをそのまま話すから、分かりにくいとみんなに言われる。

『走る速さだけじゃない。非力なのは嫌だ。反射神経が悪いのは嫌だ。でも全部戦いの中でしか出来ない、たぶんだけど。出来ないことは悲しいことだ。』

人はいい、みんな強いから一人だけで幸せになれる。

おまえが何をしようと。

だから私は私が悲しまない道を選ぶよ。

海で生きて行くには…幸せになろうとしなければ、幸せにもなれなければ強くもなれないこと、知ってるから。

『戦おうよ。』
「…君にあまり難しい言葉を使うのは効果的でないようだ。しかし俺が死ぬと君はここから出られないぞ?」
『そんなことはどうにでもなる。』



幸せになるには強くなって勝つしかない。




*地下2階 諏佐佳則

今吉と花宮と三人で階段を駆け下りて、さっきまで俺たちが戦っていた地下2階へ戻ってきた。

「建物の見取り図に地下3階なんてなかっただろ。」

花宮の言う通りだ。

湧が落ちたと聞いた時に、そもそも地下3階があることに驚いた奴も多いだろう。

「取り敢えず福井探そか。」

福井が幹部を倒した後に湧を助けに行くと無線を入れていた。

道が二手に分かれたところで火神、湧、福井が通った道へと向かう。

少し進んだところで曲がり角から誰かが向かってくる気配を感じた。

「福井か?!」

構えながらも問いかける。

「諏佐か!!」

福井の声がして、角から金髪が飛び出てきた。

「湧はどうなってる?」
「部屋の中で落ちた!その部屋には入れない!」

今吉が落ち着けと福井の肩に手を置く。

「入られへんってどういうこっちゃ。」
「だから扉が開かねぇんだよ!なんかめっちゃ分厚い鋼鉄の扉で手動では開かねぇって敵が言ってた、鍵穴もない。」

鍵穴があったとしても鍵は恐らく見つからないだろう。

蹴破れないなら地下3階への正規の行き方を見つけるしかない。

今吉が徐に無線をつけた。

「〈湧、聞こえてるか。〉」

イヤホンからバチッと音がする。

「〈今吉さん?〉」

湧の声だ。
しかしかなり聞き取り辛い。

「〈状況説明出来るか?落ちたとこどんなんやった?〉」

またバチンと音がする。

「〈ここ倉庫だよ、小さい…あ、痛っ…!〉」

花宮が目を見開いて今吉の顔が強張る。

敵にやられたらしい。

「〈敵強いんだけど…とにかくここ倉庫っぽい。なんか色々ある。たぶん私のいる階はこの倉庫しかないよ。〉」

無線が切れた。

「…あんな落ち着いた声で敵が強いって言われてもどこまで切羽詰まってんだか。」

花宮が首を振りながら呆れたように言った。

「敵の懸賞金は湧より高いぞ!」

福井が花宮に人差し指を向けながら早口でまくし立てる。

「そりゃはよ行ったらな。」

今吉が唐突に走り出した。

「おい、今吉!!」

三人で今吉の後を追いかける。

「ワシらが戦ってた向かいの部屋が倉庫やった。湧が落ちたのも倉庫。倉庫から倉庫に繋がってる可能性あるやろ…!」

確かに今吉の言う通り、俺たちの戦っていた場所の近くに倉庫として使われている部屋があった。

しかし湧は真下に落ちた、俺たちのいたところから随分離れた位置で。

そして湧は自分のいる倉庫は小さいと言っていた。

倉庫同士が階段で繋がっていたと考えても、少し遠くはないだろうか。

だが今はそんなことは言ってられない。

考え付くことには全て足を向けなければ。



「あった!ここや!」

今吉が倉庫のドアを突き飛ばし、そのまま俺たちは駆け込む。

「他に扉ないか探せ!」

花宮が叫んだ時、無線が音を立てた。


〈黒子です。青峰くんが能力者を倒しました。彼が回復次第、動きます。〉

そうか、もうあいつらが能力者も撃破してくる頃か。

もし万が一、湧が外側から助けられない場所にいたとして、敵の全員を殺してしまったら、助けられなくなる可能性だってある。

しかし赤司に船長との戦いを中止しろだなんて言う訳にはいかない。

最悪のパターンを想像しながら、あるかどうかも分からない扉を探して走り回っていた俺は、足元をよく見ていなかったせいで何かに蹴躓いた。

「っと……ん?」

振り返って躓いたものを見てみると。

「もしかしてこれか…?」

地面に四角い板がはめ込まれていて、取っ手が出ている。

取っ手を引っ張ると、外れた。

下を覗くとハシゴもついているようだ。



「おい!!!何か見つけたぞ!!!!」


これが本当に地下に繋がっているのだろうか。

頼むぞ、これが正解であってくれ。

「諏佐さん!…これか!」

花宮が走り寄ってきて穴に首を突っ込んだ。

今吉も花宮も、他人に淡白な人間が湧を助けるのにこんなにも必死になっている。

彼女は本当にこの船のみんなから愛されている。

もちろん俺だって愛しているが、俺とは温度差の違う者が何人かいるのは知っている。

「花宮、お前も落ち着け。らしくないぞ。」

取り敢えず目の前の、自分よりいくつか若い男の背中を撫でておいた。





------------------------------


ヒロインの言ってることが正しいとは限らない、っていうのが今回の長編の書いてて怖いところですね。頭良くないヒロイン難しい…。
読んで下さってありがとうございます。



.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ