海賊パロ原稿

□静かに食い散らかせ
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静かに喰い散らかせ


*3階 黛千尋

ダメだ、決定的な一撃が加えられない。

「おい実渕、やべぇぞ。」

横目でチラリと見た実渕は肩で息をしていた。

笠松と三人で戦ってもこの幹部1番には未だ勝てない。

番号と実力は関係ないと言いつつも、さすが1番なだけあるということか。

見たところかなり年上、手練の相手ではある。

もしかしたら副船長くらいの扱いなのかもしれないな。


3対1でも勝てないフラストレーションからか、笠松も実渕もそうとうイラついてる。

もちろん俺もだ。

イライラする、これではダメだ、勝てねぇぞ…。


「おい、実渕!」
「なによ黛さん…。」

このままじゃ勝てない、何かしなければならない。


「作戦会議だ。」
「戦闘中よ?!」
「戦闘中でもするだろ!」

チラリと笠松を見ると頷かれた。

「よし、実渕。」

実渕の腕をガシッと掴んで引っ張る。

「ちょっと何よ!」
「笠松が一人で止めるって、ほら来い。」

力づくで実渕と退避する。

クソ、今ので無駄な力使った…。

「あんた何してんのよ!三人で勝てないんだから笠松さん一人で置いておけないでしょ!」

高音で怒鳴られて思わず耳を塞ぐ。

「ギャーギャーうるせぇ。」
「失礼ね!」
「だいたいお前オネエじゃねぇだろ。湧はお前が虹村さん好きだと勘違いしてるけどな。」
「はぁ?!」

見開かれた実渕の目は、確かにビューラーだかなんだかでバッチリと睫毛があげられた、女のような目だが。

「虹村さんには惚れてるけど人間としてだわ…湧ったら、そんな勘違いしてたのね…。」
「俺は黒子よりも女心が分かるからな。」

湧の考えてることは分かってもお前のことは分かるつもりもねぇよ、という意味で言ってみるが伝わってなさそうだ。


「それで、私を無理矢理連れてきて何の用なの。」

腰に手を当てた実渕はやっと聞く気になったらしい。

「このままやってても勝てねぇ。向こうは碌に攻撃もせずのらりくらりと躱してやがる。どんな策略があるのか知らねぇが、これ以上長引いていいことはないだろ。」

精神的にもキツイ。

「それで?」
「俺が右手を掴む。」

相手が右利きなのは間違いない。

「…勝算は?」
「三人いてこれで負けたら恥だ。」

なるほど、と呟いて実渕は両手で軽くパンッと頬を叩いた。

「やるしかないわね。」
「あぁ、一度で決めるぞ。」


恐らく、この海賊団にいるには"成長"だけでは物足りない。

もう俺たちは結果が求められる段階に入っているのだ。




*地下3階 蘭乃湧

暗い小さな部屋で敵と二人。

弾切れしたピストルを相手の顔に叩き込む。





今この瞬間、自分には何もない。

ただ生命と本能と情熱だけが体を支配している。

そしてそれは圧倒的に自由という感覚をくれた。


『……やっばい。』


想像を絶する高揚感。



耳に挟んだイヤホンからは今吉さんの声が聞こえる。

〈おい!どないなっとんねん!!返事しろや湧!〉

聞いたこともない口の悪さだ。

仕方ないだろう。
だってこの武器庫はどんなジョークなのか、内側から開かないんだから。

わざわざ武器から手を離してマイクをオンにして、今吉さんに無駄な情報を伝える暇はない。




相手の剣が鼻先を通るのが怖くない。

相手に攻撃が決まるのが楽しい。

これが花宮が私に与えたかった感覚なのか。


『やっばいね。』


それでも頭はクールじゃなきゃいけない。

どうしたってクールにはなれないが。

ここは武器庫でもう取り返しがつかないくらい暴れ回っているのだから、まだ何かが爆発していないのが不思議なくらいだ。

今吉さんの怒声が聞こえなくなった。

代わりに小金井の声がする。


〈俺、小金井!23、24倒してこっちは全部終わった!紫原が負傷してるから氷室と水戸部で船まで運ぶ!〉

むっくん運ぶなんてかなり大変そう。

〈森山だ!緑間、青峰、黒子と合流した。負傷者はいない。〉

何やら青峰と真太郎が大声で怒鳴り合っている声が聞こえるのは大丈夫なのか。

〈湧はどこにいるのだよ。〉

あ、真太郎。
意外と落ち着いた声だ。

〈だから閉じ込められてるって言ってんだろ!中から開けれねぇのかって聞いたけど応答がないから無理ってことだろ!〉

花宮の怒鳴り声。

『あっ…ぶな…!』

イヤホンに集中が持っていかれるところだった。

ここに閉じ込められたことが絶望的な状況であるという実感はまだない。

『こっち向けよ!!』

強引に攻め込んで注意を引かせる。


『前から一段階強くなる必要があるとは思ってた。今しかないんだ。』


どうか、本気にさせてくれ。

強くあってこそ海賊だ。

例えここで死んだとしてもこいつに勝ちたい。



〈虹村だ、こっちはもう終わる。まだやってんのは湧と火神と黛たちと赤司だな?〉
〈黄瀬もです。〉

伊月の冷静な声が入る。

〈木吉だ。やっぱり黛たちの方じゃなくて今から伊月を迎えに行く。〉

伊月からの返答はないからそれで良いということなのか。

伊月は上階から虹村さんの援護をしていた筈。
実は負傷していたのだろうか。

そんなことを考えながら、どうしても避けきれない刃を左腕で受け止めた。
いける、彼の刃は花宮にもらった服は通さない。

左腕には犠牲になってもらい右手の鉄パイプで相手の腹を強打する。

そのままもう一度叩き込む。

鉄パイプを両手で握り直すとアドレナリンのせいでそこまでの痛みはないが、明らかに左腕に違和感がある。

構ってられずに両腕を振り下ろす。

また今吉さんの声が聞こえる。


〈湧のいる倉庫へ繋がる扉は一つや。地下2階の方は大砲でも持ってこない限り開かへん。ワシらが見つけた扉の方から絶対開けてみせる。心配せんでええ。〉

その心配しなくていい、とは誰に向けたものなのだろうか。

私はね、心配なんてしてないよ、今吉さん。

〈1班幹部1番を捕獲した、一階は終了だ。〉

黛さんの息切れした声。

かなり辛そうな声だ。



……ダメだ、耳から無駄な情報が入りすぎる。


なんとか服についていたピンマイクとイヤホンを毟り取って背後に投げ捨てた。

集中だ。
最近まともに1対1での実戦なんてなかったし、ここで勝っておきたい。
これからうちの海賊団はもっと厳しい海に出るのだから。

『ここで勝たなきゃ一生勝てない気がする。』
「勝てても君は死ぬと思うけどな。」

敵が指差した方を見ると手榴弾らしきものが散乱していた。

『…まぁ死なないよきっと。』

その後のことは、誰かが何とかしてくれる。

だから私はこいつを、絶対に、倒さないと。


少し離れたところから、微かに怒鳴り声と扉を殴る音が聞こえる。

ごめん今吉さん、私今吉さんより弱いから、中途半端にやっても勝てないんだ。


敵の視界から外れて、狭い部屋の中を走る。

ここは視界を遮るものがたくさんあってやりやすい。

敵の左から十分なスピードでもって体当たり。
上手いこと気づかれずに済んで、敵の右側頭部が壁にめり込んだ。

「くっ…そ…!」

そのまま右ストレートを顔面に打ち込む。

『はっ……!』

敵が無我夢中で放った左拳を冷静に避け、ホディに右手を叩き込む。

真っ赤な右手は敵の血だ。



*今吉翔一


諏佐が見つけた扉から地下3階に飛び降りた。

地面があることを確認もせずに飛び降りた花宮にはあとで説教やわ。

一本しかない短い道の先には鉄の扉。

その扉の向こうからは確かに戦闘の音がした。

「見つけた、ここや!」
「おい、ここだろ!湧!!」

花宮が拳でドアを激しく叩く。

「おい、湧!!中から開けれないのか?!」

諏佐が響く声で問いかけたが、中から答えようとする様子は見受けられへん。

「〈おい!どないなっとんねん!!返事しろや湧!〉」
「今吉…。」

福井にギョッとした顔で見られて我に返った。

今のワシの必死な声聞いて、湧は笑ってるかもしらんな。

だいたいこれは湧の戦いや。
戦い自体にはあんまり簡単に手出すべきやないしな。

そうは言ってもここから出したんのはワシらの仕事や。

緑間の湧を心配する声がやけに落ち着いているのが不思議や。

「〈だから閉じ込められてるって言ってんだろ!中から開けれねぇのかって聞いたけど応答がないから無理ってことだろ!〉」

花宮もイライラしてんの緑間にぶつけるのやめといた方がええと思うけどな。

「福井、扉の分厚さどうや?」

福井が腰にさした短刀の柄でドアを叩く。

「分厚さも質も一般的なドアと変わんねぇな。俺が開けようとしてたのより半分くらい薄いぞ。」

じゃあ開けるならこっからってことや。

さすがにみんな心配してるやろから、報告くらい入れとかんと、と思ってマイクをオンにする。

「〈湧のいる倉庫へ繋がる扉は一つや。地下2階の方は大砲でも持ってこん限り開かへん。ワシらが見つけた扉の方から絶対開けてみせる。心配せんでええ。〉」

最後の一言は湧に向けてや。

「開け方は何種類かある。まず、船から大砲を引っ張り出してくる。」

花宮が人差し指が伸ばした。

「二番目は、宮地が持ってる1分間に250発打てる化け物みてぇなショットガンで撃ちまくる。」

なんやそれ、初めて聞いたんやけど。

「三番目は、赤司がスキャンだかシャンブルズだか…何かしらの能力で湧と外にあるもんを入れ替える。」

どうなるか分からん赤司の戦いが終わるまで待つのもなぁ。

「四番目は、この鉄の扉を斬る。」



刀で鉄を斬るのは容易なことやない。

この船でそれが出来るんは赤司だけやった筈や。

青峰みたいな、アホほど強いやつでも刀で鉄を斬るのは無理や。
剣で鉄の扉を叩き壊すとなると話は変わってくるけど。

まぁ首に億が懸かる奴で、刀振り回してるのが赤司だけってことやねんけど。

「船から大砲引っ張ってきても、恐らくこの倉庫の小ささを考えると、中の湧ごと吹き飛ばしてしまうことになる。」

花宮の言う通りや。



「今吉、お前出来るだろ?」

福井が嫌に真っ直ぐな目で見てくる。

ほんま、こんな場面でこの目は辞めて欲しいわ。

後ろにおる諏佐を振り返ったら、目は逸らされたけど口元が笑っとる。

「フンっ。」

わざとらしく鼻を鳴らして花宮が扉から離れた。

賛成はせんけど止める気はないっちゅうことか。




なぁ、鬼徹さんよ。

刀は女を嫌うって言うけど、自分違うんやろ。
他の刀とは違って女好きやってワシ知ってんで。

最近はずっと部屋でワシと二人っきりで対話してたもんな。

「今からな、ワシの、ワシらの大切な女の子救いにいくねん。」

「手貸してくれや。これで満足せんかったら見限ってくれてええ。ワシのこと斬ってくれてええ。」

斬りたいものを斬り、守りたいものを守る力が欲しいんや。

目を閉じて、目の前の鉄の扉に全神経を傾ける。

全てのものには呼吸がある。

それを感じ取れるかや。

鉄を斬る実力は持っとる。

あとは、呼吸を………。


「はっ……あぁ。聞こえるわ。ばっちりや。」


深く構える。

自分の中から実力以上のものを出せることが、この先何度あるやろか。

ワシは幸運や。




「はぁっ……!!!!」





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今吉さんをどこまでゴリゴリの関西弁にするかで悩みました。
「嫌いって言うけど」→「嫌いっちゅーけど」とか読めないですもんね。
展開が雑かもしれませんがもうすぐで終わります。

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